生きててよかった : 特集
死闘に挑む男の壮絶な生き様と、魂のアクション――
話題の“最狂俳優”が放つ渾身作は、観る者の血を
たぎらせる “最高のバトル・ヒューマンドラマ”だった
この男の壮絶な生き様と、魂を突き動かすほどのバトルシーンを、目に焼き付けてほしい――。あのドニー・イェンとも拳を合わせた逆輸入俳優・木幡竜の初主演映画「生きててよかった」が、5月13日からついに劇場公開される。
ドラマ「アバランチ」(主演:綾野剛)で“最狂の敵”役を担い、強烈な存在感を見せつけた木幡。彼が今回演じたのは、ドクターストップをかけられたプロボクサーの楠木創太だ。
ボクシング一筋で生きてきた男は一般社会になじむことができず、妻にも内緒で地下格闘技という危険なドロ沼にハマっていく。己が生きる意味とその答えをつかみ取るために……。
本作の公開を祝して、JK殺し屋の“暮らしと殺し”をコミカルに描き、話題をさらった「ベイビーわるきゅーれ」(2020)に主演したスタントパフォーマーの伊澤彩織が、木幡と念願の初対面。両作品にアクション監督として携わった園村健介も交えて、アクション談議に花を咲かせた。
木幡&伊澤は相互フォロワーというSNS時代ならではの関係性のみならず、日本映画界が抱える構造上の問題にも鋭利なカーフキック(ふくらはぎへのキック)を蹴り放つ! ファーストコンタクトから「しゃべりやすい」「大アクションスター」とフィーリングばっちりの「生きててよかった」「ベイビーわるきゅーれ」主演&アクション監督による初のコラボ鼎談(ていだん)は、新作アクション映画の構想にも発展! 果たしてその結末は?
■木幡竜&伊澤彩織、大注目の俳優が念願の初対面! “お互いの印象”は?
木幡:伊澤さんとは今日が初対面ですが、映画を通してお姿は拝見していたので初めましてのような気はしません。SNSでのつぶやきだったり、自らを「アクション部」と名乗っているあたりに伊澤さんの性格が表れているというか……。こういう人なのだろうと自分が勝手にイメージしていた通りの、気取らない、とてもしゃべりかけやすい方。今とても安心しています(笑)。
──MC:まさか木幡さんはSNSで伊澤さんを事前チェックしていたんですか?木幡:事前チェックというか、実は「生きててよかった」の宣伝を兼ねて最近SNSを始めたんです。それでフォローという概念があることを知り、俳優仲間をフォローしていくなかで伊澤さんのこともフォローさせていただきました。
伊澤:私は「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」(2010/ドニー・イェン主演)で木幡さんを知りました。アクションのみならず演技面でも素晴らしく、あれだけのヒール役をドニーさんの前で演じている日本人がいるという事実に衝撃を受けました。私にとって木幡さんは大アクションスターなので、お会いすることができて光栄です。もちろんTwitterもリフォローさせていただいております!
木幡:伊澤さんとは相互フォローの関係なので、大体の活動ぶりは把握しています。伊澤さんはピアノもお上手で、SNSで演奏する動画を見た時は「そんな一面もあるのか!?」と驚きました。
伊澤:ありがとうございます。嬉しいです(笑)。
■続いてアクション談義に 園村アクションは「世界に通用する」 ――そんな相互フォロワーなお二人に早速お聞きします。「生きててよかった」「ベイビーわるきゅーれ」を手がけた園村さんが生み出す“アクションの魅力”とは何ですか?
伊澤:園村さんの凄いところは、アクションをストーリーに寄り添う形で構築されているところです。なぜここでパンチを打ち、なぜ避けるのかなど、立ち回りのなかにもドラマがある。アクションシーンを単体では捉えず、作品全体を俯瞰しながらそこにアクションを組み込んでいくようなイメージ。その溶け込みぶりは本当に天才的です。
木幡:ドニー・イェンは、振り付けに忠実すぎるアクションは踊りのように見えると言って嫌がり、あえて本番で違う打ち方をしてきたりして、それにどのような対応をするのか、生っぽいアクションを求めてきます。そのスタイルが僕のアクション経験のベースにあるので、今回の園村くんの生っぽいアクションスタイルにもスッと入ることができました。中国の現場では「動くために動くのはやめろ」とよく言われます。それを園村くんも実践している。彼のやっているアクションは、世界のどこに出しても通用するものだと思います。……天才!
伊澤:園村さんがずっと笑っています!
園村:いやあ、普段から褒められ慣れていないので……。どう言葉を返していいのやら。
■まさか! 健康維持のための趣味がアクションに活きる!? ──園村さんは木幡さんと伊澤さんのアクション面に共通点を感じますか?
園村:似ているのは闘争心ですかね?
木幡:それはわかります。僕には全然ありませんが、伊澤さんには僕も闘争心を感じます。
伊澤:私も自覚はないですけど、相手を煽ることができたら嬉しく思います。
園村:組み手と組み手の間は、セリフで言うところの行間のようなものです。しかしセリフを覚えるのとアクションを覚えるのとでは作業が違うというか、アクションに慣れていない人は振り付けや流れを覚えることだけで必死。それ以上の部分を入れ込む余裕がなかなかありません。お二人はアクションの感情が途切れないというか、何も用意されていない瞬間の隙間に自然な動きを入れることがお上手。そこに僕は闘争心を感じます。
木幡:役を演じるときにアクションの手を覚えるという概念が自分にはなくて、「倒してやる!」という気持ち一つというか、それが目的になっています。愛を告白するときに相手を自分のものにするという気持ちでぶつかるのと同じで、相手にダメージを与えたいという気持ちでパンチを出す。その気持ちがないと、単に振り付けをなぞっているだけに見えてしまうから。
伊澤:アクションの振り付けを覚えるのは誰にでもできることですが、そこからわざと崩して本当に戦っているように見えるか否かが重要です。園村さんの立ち回りは、自分のなかに闘争心を宿せるまで体に落とし込まないと出来ないもの。ただ、どんなハードな場面であろうとも安全設計がなされています。リハーサルで対戦相手との信頼関係を結んでいるので、「ベイビーわるきゅーれ」では怪我もなく、闘争心を燃やすことができました。
木幡:中国ではスタントマンがたくさんいるので、言葉は悪いかもしれませんが、捨て駒的に使われる場合も少なくありません。「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」でも6人くらい病院送りになっています。しかし日本では園村くんを筆頭に、スタントマンの技術力が高くてケアも万全。最善を尽くして危険なことをする。だから外国に比べて圧倒的に事故率が低いのだと思います。
園村:そこは自分の趣味も関係しています。というのも、僕は30歳を過ぎたころから自分の体力低下を見据えて効率のいい体の使い方を勉強しだして、そこから派生する形で身体操作にハマりだしたので、パンチを繰り出す時や攻撃を避ける際の体に無理のない自然なフォームを常に研究しています。健康維持のための趣味が思いもよらぬいい形で自分の仕事に結びつきました(笑)。
■日本のアクション映画の、いいところ悪いところ ──お三方には海外作品経験者という共通項もあります。
伊澤:私はそこまで経験豊富ではないですが、「キングダム」(2019)では中国の象山という、時代劇のセットで撮影をしました。
木幡:実はその撮影のすぐ横で、僕は中国映画を撮影していました! まさか同じ場所にいたとは……。
伊澤:え!? 本当ですか? それは知りませんでした!
木幡:ニアミスですね。
──日本と比べて海外作品の現場に違いはありますか?木幡:一番の違いはやはりバジェット。日本は規模の限られたなかで緻密なことを計算して無駄のないように全員が稼働して少数精鋭でやることが多いです。中国のエンタメアクション大作の場合は、リハーサルを現場で何週間もかけてやったりします。使う予算と使う時間がまず違う。
伊澤:アクションの作り方や撮影までの過ごし方はほとんど同じですが、撮影にかける日数は潤沢です。日本は限られた時間のなかで凝縮して撮影することがほとんど。良い悪いは別にして、それに対応できる日本のスタッフはやはり優秀です。日数をかけずに一日でアクションシーンを撮り終えたりするともちろん疲弊も出てきますが、その勢いが画に乗るのも事実。それが日本製アクションの画の魅力に繋がっているとも思います。
園村:本番にかける時間が短いという弱点はあるものの、僕は日本の撮影スタイルに慣れているので海外作品の現場に行ったりすると、リズムが狂う時があります。勢いで撮っていきたいのに、ちょっと撮ったら2時間セッティング待ちみたいなことも有るので集中力が途切れてしまいます。でも海外のスタッフからしてみたら「なぜ日本人はそんなに急ぐの?」と。
伊澤:たしかに日本のスタイルを海外でやると「もっと休みなさい!」と言われそうです(笑)。
園村:日本のスタイルは効率的である反面、それゆえに予算面も縮小されがちという問題もあります。
木幡:日本映画は、そのスタイルが浸透し過ぎてプロデューサーや監督から短期間・低予算でもクオリティは確保できると思われているところがもったいない。徐々に改善の方向に進んでいるようですが、昔のまま変わらないと日本のアクション業界にとっても良いことではないような気がします。
■三人トリオでの新作アクション映画を妄想 ──「生きててよかった」アクション面の感想をお聞かせください。
伊澤:すべてのアクションシーンに血がたぎりました。地下格闘技のシーンでは、スタントマンの方々が役者として芝居をしながらも、それぞれのファイトスタイルを実行。もうすでに何年も戦闘シーンに関わってきたスタントマンたちが対戦相手を演じるわけですから、肉体から滲み出る説得力が違う。木幡さんVSスタントマンというより、男と男のぶつかり合い。もっと長く見ていたいと思いました。
──大絶賛ですね!木幡:うわー! 生きててよかった……(笑)
伊澤:私の場合はアクションを演じると「女性なのにすごい」という言葉が付いて回ります。ギャップを褒めていただくのは嬉しいことでもあるし、自分としてもそれは武器だと思う一方、今回の作品のような男たちのドストレートな勝負の仕方には羨ましさを感じます。このドストレートさが突き刺さる女子もたくさんいるはずです。
木幡:本当ですか!? この作品、女子ウケしますか!? そうならば本当にありがたいけれど……。
──この鼎談をきっかけに主演・木幡&伊澤、アクション演出・園村の座組でアクション映画が誕生したら最高ですね!園村:お二人ともスキルが高いのでどのような手をつけようか悩みますが楽しそうです。木幡さんはボクシングスタイルですかね? それをどうやって伊澤さんが攻略するのかというアクションの作り方になりそうです。
伊澤:木幡さんがギャップで仕掛けてきて、私は逆にドストレートなアクションというのもアリかもしれません。
木幡:日本版「Mr.&Mrs.スミス」的な設定のストーリーも面白いかも。
──園村さん、お二人から具体的な案が出ましたよ! どう思いますか?園村:いいと思います!
木幡:ハハハ! それ以外に言いようがないですよね!
伊澤:このメンバーで何か出来たら最高です!