「安請け合いから始まる、甥との生活」カモン カモン TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
安請け合いから始まる、甥との生活
ラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン)は米国各地で少年少女にインタビューする取材旅行をしています。
冒頭シーンをはじめ、この劇中の各所で挿入される子供たちへのインタビューシーンは、ホアキンが9~14歳の子供たちに実際に取材した「台本なしのドキュメンタリーシーン」で、彼らの「生の声」です。本編とは間接的な意味合いに位置するものですが、これらだけでも十分見応えがあります。「未来はどんなふうになると思う?」「正しい道を進むために、大人は何が出来たと思う?」などの質問に答える彼、彼女たちの考え方や、きちんと現代的にアップデートされた正しさについて、臆せず話し出し明確に言語化できていることに驚かされます。
そして物語は、家族のサポートをきっかけに、お互いを理解し、成長し、そして関係性を深めていくという、多くの人が経験する普遍的なテーマをです。ヒューマンドラマはマイク・ミルズ監督の十八番ですが、今回は幼い少年というキャラクターを置いて「ストレートな言葉と感情」で心を揺さぶられます。
ジョニーはデトロイトでの取材後、「母の介護と死」が理由ですれ違い、音信不通になっていた妹ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)に電話をしたことをきっかけに、甥のジェシー(ウッディ・ノーマン)の「子守り」を請け負うことになるのですが、、、
普段から子供と接する仕事をし、彼らの言葉を多く聞く機会がある彼でしたが、徐々にこのことが如何に「安請け合いだった」ことに気づかされます。それは「子守り」が一時的なものだと思っていたところから、それがいつまでのことか見えなくなるにつれ、単なる「子守り」ではなく甥と「生活」をする必要があるということです。しかし、母親が帰らない状況と、その理由がわかるジェシーは、叔父に対して風変りな言動やストレートな物言いをし、ジョニーは見る見るうちに困惑し、疲れ切ります。
また、普段は他者にインタビューをする生業のジョニーなのに、自分は甥のストレートな質問にあれこれと言い訳、言い逃れをしはっきり答えらず、そのことを甥に責められます。しかし終盤、二人の距離が小さくなり、お互い正直な気持ちを大声で叫びあうシーン、カタルシスの絶頂です。
打ち明ければ、私自身、面倒を避けたいためについつい(家族を含む)人との距離を開けるところがあります。それでも過去には母の介護なども経験してきました。
人は守らなければならないものが出来た時、もがき苦しみながらも成長するものです。観ればそれなりに削られる映画ですが、観終われば満たされる気分になれる一本。何かに疲れている方にお薦めです。