劇場公開日 2022年4月22日

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「対話そして子供の未来、大人の役割」カモン カモン とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5対話そして子供の未来、大人の役割

2022年4月6日
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未来について考えたことは?考えるとき何を想像する?(撮ることで)普通を永遠にするってすごくクール
子どもも一人の人間、しっかりと向き合うことが大事。とりわけコミュニケーションレス=孤独に陥りがちな現代において対話・会話をすることの重要性、その手段としてのロールプレイ。ぼくはこんなにあたたかい映画を知らないかもしれない、誰かの話を聞きたくなる。子どもたちは大人が思ってる以上にしっかりと色んなことを考えている。自由な発想でハッと気づかされること、そしてそれでもやっぱり希望。真っ直ぐな瞳/言葉と同じで嘘偽りがまったくなくて私的かつ普遍的、日常かつ壮大な最高の映画の魔法。

多くの質問をして、答えはあまりない。大好きなマイク・ミルズ監督とホアキン・フェニックス。今まで自身の父や母のことを描いてきた監督が親になってでき上がった本作は、だけど作品自体は私的な着想からもっと間口広く世界にとって(親代わりともなる)大人の果たすべき役割を描き扱っていたと思う。別に他人の子を叱る近所のオジサンとか昔の名物を蘇らそうというわけではないけど、この世の中がもっと子どもたちにとって育つのに最適な場所に。
『20センチュリー・ウーマン』から母を看取るところから始まって、ザ・ナショナル『I Am Easy To Find』にも似た人生模様は、すごく日常と地続きで良い意味で"小さく"、だけどすごく大きなものと丁寧かつ真摯に向き合っている魔法のような作品だった。ジョニーというキャラはマイク・ミルズ自身ではないにしろ、やっぱり似通ったところはあるはずで、そうした意味でも監督の服を着た自然体ホアキン・フェニックスの役作りと肩の力の抜けた受け身演技で手を焼く伯父役を大好演。ううん、こうした普通を演じる名演にこそ時を越える魂が宿る。仲の良さが画面を通り越して伝わってくる。ジェシーの時に大人の神経逆撫でするようなリアルな子供っぷりも相まって、都合よくない方へ方へとちゃんと対立や葛藤があった。ここにはしっかりと2人の人間がいた。
おじと甥って親友みたい!自分にとって親戚いとこって好きじゃない遠い存在だから、いいな〜って思った。始まって間もなくから鏡という象徴は、もしかすると鏡の中に映らない妹ヴィブにとっては"見失う"ことかもしれないし、鏡の中に映っている主人公ジョニーにとっては乖離、あるいはその後自分と似た=(母)親の愛を受けた者同士、甥と過ごす日々を予感させるものだったのかもしれない。病める現代を象徴するような面を体現する苦しむ父スクート・マクネイリー。
ドロシーでアリス、親の役割という知らないことだらけに迷い込む。ヴィム・ヴェンダース『都会のアリス』や『オズの魔法使』というイメージと通ずるもの、類似性。期間限定のコミュニケーションを気まずいところから目を背けず深堀りしてみせる。9歳ジェシー役演じる子役ウッディー・ノーマンとの化学反応と順撮りもあってのドキュメンタリー性。行く先々で通りの空気、生活がある。フィクションとノンフィクション/ドキュメンタリーの狭間・境界線を取り去る。気の利いたセリフのやり取り、自然な会話。テンポの良さが光るけど右から左へは到底受け流せないような意味のあるもの。とっても大事にしたい作品。

アメリカ、嫌な思いも色々とするかもしれないけどやっぱり美しい国。問題山積み・お先真っ暗かもしれない現代に生きる若者たちのライフスタイル。自動車産業でかつて希望だったにも関わらず今は荒廃して実際そこに住んだこともない人が危険だと避けて非難するデトロイト、日の射すロサンゼルス、移民にとって希望と再出発を象徴するニューヨーク、水に彩られたニューオーリンズ。東西南北4つの都市をまたぐ美しい撮影、編集。白黒モノクロだからこそ豊かに見入って聴き入って沁み入る。写真みたいで集中して見ていられる。例えば同じくホアキン・フェニックス主演『her』の手紙代筆のように見事な仕事設定も光る奇跡のようなドラメディ。
どこを切り取ってあたたかい、いつまでも見ていたい2人の時間に愛しさ/好きが溢れていた。本当に何気なくも奇跡のような瞬間が詰まっていた。本当に大きなことが起きないけど、一番好きな、特別になり得る作品に出逢えた喜び。暴力は後で覚えたものだから人間には暴力をはねのける力がある。行く先はきっと世界平和だろうか?素晴らしい問いかけと未来への希求。予想したことは起きない、起きると思ってないようなことが起きる。だから先へ、先へ、先へ、先へ、先へ行くしかない。

Can I be an orphan?
ブラァブラァブラァ〜…ぺらっぺらぺら
先へ、先へ、先へ
全然大丈夫じゃない!
I'll remind you of everything.

勝手に関連作『her』『SOMEWHERE』『ロスト・イン・トランスレーション』
P.S. 自分が子供のときは驚かそうなんてことは無く、純粋にスーパーでぶらぶらしてもなぜか必ず戻れていた

司会よしひろまさみち、ゲストLiLiCo

とぽとぽ