劇場公開日 2022年12月16日

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「コミュニケーションギャップはまだまだあるのではないか」ケイコ 目を澄ませて てつさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0コミュニケーションギャップはまだまだあるのではないか

2023年2月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 主人公が当事者俳優ではないので敬遠していたが、キネマ旬報第1位を取ったので、観に行くことにした。パンフレットをみると、実際に聴覚障がいの女性ボクサーの体験本を原案として、岸井ゆきの氏を主役に制作するという企画をプロデューサーが立ててから三宅唱氏に監督依頼がきたものだという。岸井ゆきの氏の演技力から考えると、妥当な抜擢ではあると思われる。二人の当事者の役者の出演場面も設定されているのも強調されている。東京都聴覚障がい者連盟事務局長の越智大輔氏が手話監修に当たり、ケイコとその弟の聖司との手話との遣り取り、そしてケイコの勤務先の同僚の手話はかなり行き届いていると思われ、ケイコの移籍予定先の会長は、わざわざ簡単な手話で挨拶をするばかりか、タブレットの音声文字変換ソフトを使って会話をしてくれていた。対照的に、ケイコが街中で出会う知らない人や試合会場での知ってか知らずかの無配慮は社会の無理解の実態を反映した描写であろう。けれども、長年共に過ごしてきた会長夫妻が、口話ばかりで全く筆談しようともせず、加えてケイコに声を出すことまで求めているのは、原案の著者も実際そうであったのならそれで良いのかもしれないけれど、無情に思えた。

てつ