劇場公開日 2022年12月16日

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ケイコ 目を澄ませてのレビュー・感想・評価

全267件中、1~20件目を表示

3.5恵子の語りに耳を凝らして

2024年4月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

三宅唱監督作品。

「全身で感じる振動=音は快感そのものだった」(小笠原恵子(2011)『負けないで!』創出版 p.96)

そのように本作の原案である本で恵子さんは語っているのだが、本作をみた私も同じように快感を得た。

フィルムによる味わい深い画、繊細に録られた音。

それらは各シーンに具体性をもって現れる。
序盤のケイコが更衣室で着替えるときにみえる背中の筋肉。会長と妻が病院帰りに歩道橋で歩くシーンで、電車の通過とその後の彼らの位置が決まっていること。ケイコが夜に河川敷で立っている姿。高架下で電車の光が点滅すること。会長がインタビューされている姿。生活音。紙に文字を書く音。電車が通り過ぎる音。声。唸り声。

もちろんボクシングの仕草も。スパークリングがあんなにも心地よいのは、ケイコとトレーナーの息が合っているからで、いやむしろ合っていなければスパークリングはできなく、美的価値を帯びない。

本作がカメラに収める出来事は、私たちの生活の地続きにあるものだ。それらを映画として再現前させて、観客は「目を澄ませる」ことになる。するとそれらの〈美しさ〉を再認識できる。その快感。三宅監督はそんな魔法を観客にかけるのだと思う。

だから本作をみた多くの人の感想は、「なんかよかった」何だと思う。よいのは間違いない。けれどそれだけでいいのかとも思ってしまう。

端的に思ったことは「なぜケイコはボクシングをやっているか」である。ボクシングをするのが快感だから?それはそれでいいけれど、「だからなんですか」になりかねない。もちろん聴覚障害であることの葛藤を全面に出すことはステレオタイプな障害/者表象になりかねない。けれどケイコが「人間」としてなぜボクシングに励み、闘うのか。その物語は必要なのではと思ってしまう。

それは私だけの感覚なのだろうか。ケイコはジムの退去に立ち会わなくていいし、会長からもらった帽子を被って、いつもと変わらないトレーニング、いつもと変わらない生活を送ればいい。それで「ケイコ」や物語は描かれたのだろうか。

ケイコがなぜボクシングをやっているか気になって、原案である小笠原恵子さんの『負けないで!』を読んだ。正直、映画よりもこの本の方が「面白い」。それは映画と比較して恵子さんが生い立ちからボクシングのプロとして活躍するまでといった語られることの多さもあるが、何より恵子さんがボクシングに実存を賭けていることがよく分かるからだ。

恵子さんは、生まれながら左耳が聞こえなかったが、右耳は聞こえていたため中学生までは普通学級に通っていた。しかし右耳の聴力もだんだんと落ちて、それに伴い学力も低下し、同級生が障害を理解することもなかった。そんな諦めや無力感が、彼女をグレさせた。高校生の時は先生の顔面を殴り、専門学生の時は寮から追い出され、バイクを乗り回して留年した。

ボクシングを始めたのは20歳の時で、動機は「なんとなく」。だけど強くなりたかったそうだ。この動機はなんとなく分かる。みんなと同じ普通になりたいのに、障害によって上手くできなくて、その解決方法が見つかったわけじゃない。将来の漠然とした不安の中で、何かしないといけない。障害による他者からの眼差しに抗うためには自身が強くならなくちゃいけない。そんな人生をかけた暗中模索で見つけたボクシング。恵子さんがボクシングをやる理由が、この本では語られている。

それは障害者がプロボクサーになる物語ではなく、恵子さんがプロボクサーになる物語だ。そこで障害は語られるが、それは一つの側面でしかない。だからこそ恵子さんが語られることは、私たちの「諦め」や葛藤とも普遍性を持つし、「面白い」と感じれる。もちろん恵子さんの苦しさを〈私〉の苦しさと安易に同一化することはできない。けれど確かに通じる部分はある。

恵子さんの面白さは事欠かせない。ボクシングをやり始める前の高校生の時、彼女は先生や親に暴行を働き、鬱憤を晴らしていた。なぜそんなことをしてしまうのか自問すると、部活動に所属しておらず力が有り余っているからと思い、ジョギングをやり始めた。そしたらそれが習慣になってしまったらしい。

実際、運動神経もよかったらしいが、さらに手先も器用だった。周囲の人と馴染むことができず、ひとりでこもることもあって、絵を描いていた。絵を描くことも上手で、市のコンクールで入賞するぐらいの腕前だった。絵に関して言えば中学生の時の出来事が面白い。当時、支援学級の先生が彼女に寄り添わず、指導要綱に沿って彼女と接したから、洋梨の絵を描いて渡したそうだ。その意味は「用無し」。恵子さんの賢さが分かると同時に笑えるエピソードである。手先の器用さは、その後恵子さんがボクシングの傍らでやる歯科技工士の仕事にもつながっている。

彼女がボクシングのプロになることは、女性で競技人口が少なく、さらに聴覚障害があるから尚更難しかった。だから彼女がプロになりたいと言うこともできず、ジムも転々としていた。そこで見つけた「トクホン真闘ボクシングジム」。ジムの会長も実は中途失明者らしい。だが障害に理解があるわけでもなく、恵子さんが耳が聞こえないことは「気で直せる」と思っているらしい。とても根性論だとは思うが、会長と恵子さんが向き合ったからこそ培われた関係はあって、だからプロになれたのだと思う。さらにジムのトレーナーも根気よく接してくれて、セコンドの指示がみえるようにリングサイドを動き回って指示したり、ボクシング用語を伝えるために、オリジナルの手話まで考案してくれたそうだ。

このようにこの本には、恵子さんの人生が語られている。さらに「面白く」。そしてふと思うのである。本作は、この「面白さ」を翻案しているのかと。もちろんこの本を忠実に映像化として再現する必要は全くないし、原案に留めることは問題ない。それは映画の制作における限界としてあるからだ。だが翻案においては、原作にあった普遍性や本質を取り出す必要はあるのではないだろうか。それがないとも言わない。けれど足りない。「試合中の母の不安がブレた写真から伝わってきた」(p.137)を映画で再現することでもない。なぜケイコが歯科技工士ではなくホテルの清掃員なのか、ボクシングをするのか、妹ではなく弟が登場するのか、所属ジムを変えることに拒否反応を示すことの意味が足りない。必然性が足りない。

恵子の語りに耳を凝らして。それもまた、私たちがケイコをみる時に必要なことだろう。

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まぬままおま

3.5登場人物が全員温かい映画があってもいい。

2023年6月15日
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鑑賞方法:VOD

単純

幸せ

話としては耳が聞こえない女性が、ジムの会長やコーチ、周囲の人々に支えられながらボクシングに打ち込む話。大きな起伏も伏線もなく、淡々と静かに進む。それ故に「退屈」「つまらない」という感想も抱いたのは正直なところ。

でも、この映画の良さというか存在意義はそこじゃない。
冒頭のコーチとのミット打ちのシーンに既にそれは現れていた。コーチが耳が聞こえないケイコのために小さいホワイトボードに「コンビネーションミットやろう!」と書いて伝える。ミット打ちの間も一言も発さず一生懸命身振り手振りだけで教える。あー、このコーチいい人だあ、というのが画面いっぱいに伝わってくる。(末尾に!を付ける時点でもう。)
これが全編通してこうなのである。三浦友和扮するジムの会長も、仙道敦子扮するその奥さんも、もう一人の厳しめのコーチもケイコのためにしらみつぶしに移籍先を探したり、同居する弟もそのハーフの彼女も、心配して試合をみられないお母さんも、応援する職場の同僚も、ケイコが乗り気でない対応をしてしまった移籍先候補のジムの担当者も、顔がボコボコになった対戦相手も。。
みんなどこか優しく温かい。手話やジェスチャーが多く静かに進むことも相まって、優しく穏やかなトーンが全編をまとう。

殺伐とした世の中、こういう一服の清涼剤のような映画があっていい。
人を信じることができる。この映画の存在意義はここにある。

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momokichi

4.0コロナ禍の人間模様

2023年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

2020年を舞台にしていると明確に設定されている本作は、人々がマスクをして生活している。コロナ禍に制作された作品の多くは、マスクをしておらず、その作品世界ではコロナが存在しないかのような、奇妙あ平行世界っぽさを感じさせるのに対し、この映画にはコロナが存在している。そして、耳の聞こえない主人公にとって口元を隠すマスクは、コミュニケーションの障害となることも描かれている。
主人公の通うボクシングジムが閉鎖される理由にもコロナが関わっている。元々、古びたジムでオーナーが病気がちであることなど、複数の要因が絡み合っているが、本作は明確にコロナによって人生の分岐点を迎えた人物が描かれている。
後年、コロナ時代の映像表現を研究する時、この時代の作品の中の人間がみなマスクをしていないことに違和感を感じる人が出てくるかもしれない。そんな中にあって、この映画は時代の感覚を的確にフィルムに焼き付けていると思う。

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杉本穂高

4.0表現者として高難度の挑戦を見事に成し遂げた岸井ゆきの

2022年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

楽しい

興奮

生まれつき耳が聞こえないがプロボクサーのテストに合格し、通算3勝1敗の成績を残した小笠原恵子さんの実話に基づく。彼女をモデルにした主人公・ケイコを演じる岸井ゆきのは、プロのレベルに見えるボクシング技術の習得(+体作り)と、台詞に頼らず手話と表情だけで感情を伝えるという、どちらか1つだけでも難易度の高い挑戦を、映画1本の主演で同時に2つに取り組んだ。引き受けるのも相当な覚悟だったと察せられるし、これを成し遂げたことで表現者として2段階も3段階も成長したのではないか。

題に含まれる“目を澄ませて”のフレーズもいい。ボクシングは敵の動きを注視して瞬時に反応し、攻撃する。手話のコミュニケーションも相手の手や表情をしっかり目視する。そして俳優も、人の動作や所作を観察して自身の演技に反映させる。観客の私たちもまた、ケイコが言葉を発しないぶん(手話の字幕はあるが)、彼女の一挙一動に目を澄ませて思いや感情を想像する。「視る」という行為に意識的になる鑑賞体験でもある。

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高森 郁哉

4.516mmフィルムに刻まれた気迫と生き様に圧倒される

2022年12月30日
PCから投稿

16mmの映像から生き様が伝わってくる。岸井ゆきのがリングで拳を構える時、その鍛え込まれた俊敏な動き、瞳にみなぎる気迫と執念にただただ圧倒される自分がいた。勝ち負けなどではない。強いのか弱いのか、あるいはボクサーとしての才能に恵まれているのかすら関係ない。主人公にとってリングや潰れかけのジムは、己の魂を唯一ただひたすら燃焼させることのできる場所。絞り込まれた体と筋肉が躍動し、一発一発のパンチが鈍く乾いた響きを放つ。日常生活における意思疎通や感情表現を体全体を駆使して行うケイコだからこそ、彼女が闘う時、そこには自ずと人生の全てが凄まじいエネルギーで集約されていくのだろう。岸井ゆきのによる映画史に残るこの役どころに留まらず、カメラはその周辺に生きる人々にも目を向ける。とりわけ、岸井とは異なるリングで生きることの”闘い”を体現した三浦友和。三宅監督が描いた二者の対比とつながりと併走に心が震えた。

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牛津厚信

4.5実在の人物からインスパイアされた物語。主役を演じた「岸井ゆきの」が役者としての勝負をかけた作品。

2022年12月17日
PCから投稿

本作は、生まれつき聴覚障害を持つ女性がボクシングに挑戦する「実在の人物」からインスパイアされた物語ですが、劇中で音楽を一切使わないなど、様々なリアリティーにこだわった意欲作となっています。
そして、本作で注目すべきは、何と言っても主役を演じた「岸井ゆきの」の存在感でしょう。
私が初めて「岸井ゆきの」を認知したのは、「愛がなんだ」(2019年)のスマッシュヒットを受けてからです。「神は見返りを求める」(2022年)から体を張りだしたなと変化を感じていましたが、本作では、役者としての「勝負をかけてきたような本気度」を強く感じました。
「岸井ゆきの」の演技は必見レベルですし、彼女を見守るボクシングジムのオーナー役の「三浦友和」の演技も相乗効果を上げていました。
欲を言えば、もう少しボクシングのシーンを見たかったですが、様々な葛藤を描いた作品なので、それを踏まえておけば問題はないでしょう。
16ミリフィルムで撮ることにより、事前に徹底的に準備をし、必要なものだけを撮るなど、様々なチャレンジをしていて、役になりきった「岸井ゆきの」の演技は「賞レース」等で大いに注目されるのは間違いないと思います。

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細野真宏

5.0ジムのコーチ役の松浦慎一郎と三浦誠己の両名がいい味だった。 ジムの会長三浦友和と久しぶりに見た妻役の仙道敦子も印象的だった。

2024年11月7日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

興奮

幸せ

動画配信で映画「ケイコ 目を澄ませて」を見た。

2022年製作/99分/G/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2022年12月16日

岸井ゆきの(小河ケイコ)
三浦誠己(林誠)
松浦慎一郎(松本進太郎)
佐藤緋美(小河聖司)
中原ナナ
足立智充
清水優
丈太郎
安光隆太郎
渡辺真起子
中村優子
中島ひろ子(小河喜代実)
仙道敦子(会長の妻)
三浦友和(ジムの会長)

三宅唱監督といえば、「きみの鳥はうたえる」(2018年)を見たことがある。
ケイコの弟役の佐藤緋美は浅野忠信の息子らしい。

耳が聞こえない元プロボクサー・小笠原恵子の自伝『負けないで!』が原案。

ケイコは、生まれつき両耳が聞こえない。
しかし、彼女はボクシングジムに通うプロボクサーである。

デビュー戦と第2戦を勝利した。
母親からは「いつまで続ける気?」と問われる。

ケイコ自身も、ボクシングを続けるかどうかの悩んでいる。
ジムの休会を願う手紙を書いたが、
会長に手渡すこともできずにいる。

ケイコはジムが閉鎖されると知り、次第に心が揺れ始める。

主演の岸井ゆきのだが、
手話とボクシングの両方を習得するのは大変だっただろうと思う。

ジムのコーチ役の松浦慎一郎と三浦誠己の両名がいい味だった。

ジムの会長三浦友和と久しぶりに見た妻役の仙道敦子も印象的だった。

映画冒頭からラストシーンまでずっとエモーショナルな雰囲気がとても良かった。

満足度は5点満点で5点☆☆☆☆☆です。

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ドン・チャック

3.5聴こえない世界にいつのまにか没入する

2024年10月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

車の通行音、電車の騒音、
街のざわめき

通常よく観る映画以上に、街の音がクローズアップされている。
それが、ケイコにはまったく聴こえていないんだと
思い知らされる。

映画は淡々と進む。
それは、ケイコの生活にも重なる。

ラストも静かだ。

何かが大きく変わるわけではない。

だけど、心を打たれる。

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くまっち

3.5評価が難しい作品

2024年8月20日
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鑑賞方法:VOD

難しい

耳の聞こえないボクサーの実話をベースにしたお話。ボクサーとしてハンデを背負って試合をよくできていたなと思います。
ボクサー役として演じた、岸井ゆきのさんは素晴らしかった。
ストーリーは淡々と進んでいくだけなので、ストーリー的には退屈しました。
見る人が心情をどう読み取るのかによって評価が変わるのかなと思いました。
とくにラストは多くを語られませんが、私的に前向きに捉えておりいい終わりかただと思いました。

また、エンドロールは音楽なしの町の日常音のみといのが印象的でした。

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たけお

1.5うむむむー

2024年7月25日
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だから日本映画嫌いになったんだよ!というお手本のような、雰囲気重視あとは皆さんがどう思うかが重要です的な放り投げ映画。言いたいことないなら映画作らなくていいって。キャラクター描写も中途半端よなー。トレーナー2人いるけど役割微妙過ぎ。現実はそうかも知れないよ、でもあんたが作ってるのは映画なんだから、もっと描き込みなさいよ。弟(なの?)の恋人もダイバーシティノルマを果たすためだけのような唐突な黒人ハーフ、しかもお姉さんとお話したくて手話を習いましたと取ってつけたような善人キャラ。何が言いたいの?こういういい映画でございヅラした日本映画は見てはいけないんだよなー、でもまた愚かにも見てしまうんだろうなー流されて。

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三毛猫泣太郎

4.0耳も澄ませて

2024年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

2回連続視聴した。

ジムでのトレーニング中のリズムカルな音(ダンダンダン...とか、スタンスタンスタンスタン...)、アーケード街での放送(不要不急の外出を避け....マスク...お願いします)や、自動車と電車の走行音、生活音が特徴的。
試合前のノートを音読するシーン、小河聖司(佐藤緋美)の弾き語りだけが唯一の挿入歌。
エンディングは、昭和ドラマのようにロールしないクレジットに音楽が一切ない。

小河ケイコ(岸井ゆきの)が通うジムの会長(三浦友和)は、宝くじを疑ったり、健康を害する検査に言及する。
2020年の主人公をピックアップしながら、リアルな世界を16mmフィルムに収めている。

小笠原恵子の自伝『負けないで!』が原案になっている。

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Don-chan

4.5Small, Slow But Steady

2024年5月27日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

難しい

幸せ

タイトルは、本作の英題。
私は、邦題よりも、こちらの方がこの映画の本質を捉えているように思える。

小さく、ゆっくりと、しかし着実に。ケイコは前に進む。そして、それはコロナ禍という異常事態であっても変わらず移ろいゆく「時の流れ」も同じ。

この作品は光と音の映画だった。
光。16mmフィルムは、解像度が低く、粗いようでいて、暗闇の中の街灯や電車の光を鮮明に、それでいてやさしく映し出す。

音。主人公ケイコ(岸井ゆきの)の台詞らしい台詞は、私の記憶が間違いなければ、「はい」という声とリングの上で相手に向かうときの咆哮だけだ。彼女を取り巻く人物達も決して雄弁ではない。
登場人物の台詞以上に雄弁なのは、都市の日常音、環境音である。中でも、何度も何度も出てくる電車の音。電車は、何かを遮るように突然現れ、音を残して去って行く。しゃべらないケイコのざわついた心情を代弁するかのように。

ケイコは耳が聞こえない。音が聞こえない。それなのに何故これほど日常の音を溢れかえらせるのか?三宅監督は、私たちがほとんど無意識に聞き流しているような音をあえて強調して聞かせることで、彼女のいる無音の世界を意識させようとしているのかもしれない。

ケイコは表情の変化にも乏しい。しかし、彼女は一人で戦っている。恐らく自分と戦っている。会長の妻(仙道敦子)が会長(三浦友和)のベッドの側で読む彼女の日記を聞いて、私の中でそれは確信に変わった。

そして彼女は敗れる。リングに倒れる。それを見た会長は、「よし!」と言って自ら車椅子を転がす。ケイコも走り始める。
終わってなんかいない。一歩一歩、着実に、前に進む。もう後ろには下がらない。前に進む。それは静かで、しかし力強いラストシーンだった。

三宅監督の力量に恐れ入った。
台詞無しでケイコという存在を演じきった岸井ゆきの。言葉少なくても味わい深い演技を見せた三浦友和。演じるとは何たるかを見せつけられた。私はノックアウトされた。

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TS

3.5人間としての器量

2024年5月17日
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鑑賞方法:映画館
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sankou

3.5映画というより…?

2024年4月30日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

「日常を覗き見た」というような感覚でした。
主演の岸井ゆきのさんが、それだけ演技力が高いというのもあるのかな。
他のレビューにもありましたが、ブサカワみたいな時と美しい時のギャップもなかなかです。

最後は、あら…終わり…?というような感じで、まさに日常をチラッと見たような感じ。

耳が聞こえないというのは、いかに大変なのか、そういったことも改めて考えさせられました。
サッと会話もできない、試合中に指示や声援も聞こえない、対戦相手の反則を伝えることもできない…
歯がゆいよなあ…と。

作品は1時間38分ほどでしたが、内容的にちょうどいい時間なのかなと思いました。

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きよ

ケイコの勝利

2024年4月8日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

 生まれつきの聴覚障がいのため耳が全く聞こえないケイコ。ホテルの下働きをしながらボクシングジムに通い、プロのリングにも立つ。だがこれは、そんな不遇のボクサーのサクセス・ストーリーではない。むしろ挫折の物語だ。

 彼女はなぜ闘うのか。勝とうが負けようがリングに立ち、ジムで汗を流す。そのことだけに命の輝きを求めようとしているかのようだ。荒川あたりの河川敷で共にシャドウボクシングに励むケイコとジムの会長、岸井ゆきのと三浦友和が、まるで『ミリオンダラー・ベイビー』のイーストウッドとヒラリー・スワンクに見えてくる。会長に甘えるような岸井ゆきのの楽しそうな表情が印象的だ。

 試合に負けた数日後、ケイコは偶然出会った相手ボクサーからリスペクトに満ちた挨拶を受ける。彼女の勝利の瞬間だ。映画は静かに主張する。試合に勝つことだけが勝利じゃない、時に挫けそうになる自分に打ち勝ってこそ、真の勝利があるのだと。

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inosan009

3.5気迫と生き様が見事に光る

2024年3月28日
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2022年劇場鑑賞99本目 秀作 68点

演技派かつ中の下みたいな女性を演じさせたら右に出る者はいない岸井ゆきの渾身の作品

すげえ楽しみにしていたし、観る前から絶対に傑作だろうなあと思って足を運びましたが、何を思ったのか珍しく中盤寝てしまって、一番大事な描きの部分で情報が入らず見終えてしまった、、、

普段お金を払って寝ることないし、観る作品もだいぶ限定しているのでまずあり得ないのですが、失態。このままだと平等な評価ができないし、最近になってAmazonで配信されたので直ぐに見返します、、、以下追記欄に再評価します

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サスペンス西島

3.0『夜明けのすべて』を監督すると知って、どんな監督なのか観てみた作品...

2024年3月17日
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鑑賞方法:映画館

『夜明けのすべて』を監督すると知って、どんな監督なのか観てみた作品。
それまでもこういった、落ち着いた雰囲気で主人公が何を考えてるのか観客が読み取ることを求められる作品は苦手だったので、賞をたくさん受賞して期待してたけど、私には響く部分は少なかった。
今回『夜明けのすべて』が凄く好きだったので何か感想が変わるかなともう一度観てみた。
初見の時より、光や音、色々こだわってるところは見えてきたけど、やはり私は『夜明けのすべて』の方が好きだった。

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はるはな

1.5”セクシー田中さん”事件どころやない 無知な素人の原作者をおいてけぼりにしている しかしタイトルに、普通、ダジャレを入れるかな

2024年3月12日
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鑑賞方法:VOD

ボクシングは素人なのでよく分かりませんが
身体は作ってきてますね
でもボクシング自体は、後付けのパンチ音で迫力をだしているだけ
スピードはないし頑張って腰を入れて打つところがオーバーアクションでいかにも素人っぽい
まあ、もろに付け焼き刃
マシントレーニングもどう見てもキレイフォームとは言い難い

演技はいつものように、なんにでも対応できる上手い役者だから、こんなもんでしょう

作品は聴覚障害のある女性ボクサーの話なんですが、はっきり言って薄いし浅い
ボクシングを始めた理由も普通、聴覚障害のために起こるトラブルも目新しさはない
それどころか耳が聞こえにくいとわかったのに、マスクをしたまま大声で話すのをを笑うところなのかどうか、戸惑ってしまう
簡潔に言うなら、紆余曲折したけど小さな日常から、勇気を貰って再起するという話
自伝好きならいいかもしれないけれど、普通は何も心を動かせるようなものが無い
ドキュメントとしてもね
そういう意味では、難しい役どころだったのかもしれない
そういう意味での
アカデミー賞主演女優賞かいな

よくある、役者にストイックな挑戦をさせるために選んだ題材という気がする
今回は岸井ゆきのがターゲットになっただけ
岸井ゆきのの挑戦映画です
つまり、主演女優賞狙いの作品でしょう

ネットで原作者の小笠原恵子さんのインタビュー記事を読んで驚きました
映画よりずっと波乱万丈な濃い人生
熱いハートとガッツのある魅力的な人でした(美人だし)
ジムの会長は映画以上にスゴい人で、彼女に影響を与える存在だった
その上
本人の知らない間に映画化が進んで、主役まで決まっていたとか(映画化の話はあったそうですが、いつの間にか立ち消えていたそうです)
本人は素人だからこんなモノくらいにしか考えていないけど
ストーリーも何も、映画を観るまで知らなかった
なんてこったい
”セクシー田中さん”事件どころやない
もっと言うなら、家族構成を変えたのは仕方ないにしても、主人公の職業は歯科技工士だったのに、ホテルの清掃係に変えられているのも腑に落ちない
職業に貴賎はないけれど、ボクシングといえばバイトしながらハングリー精神で頑張っているという固定観念を持たせたかったのか
それとも、時間の都合で単純な仕事に変えたのか
よくある”事実を基にしたフィクション”で誤魔化してるんですが、なんか嫌
本人はなんとも思っていませんけどね
ただ、共通点は暗かった事だけと言っています
つまり、聴覚障害の女子ボクサーという題材だけを利用した別の作品です
なのに、名前を恵子にしたり、目の悪いジムの会長とかはつかっている
もう、こんな映画は、はっきりいって作り直した方がいい

タイトルの”目を澄ませて”はしらけます
原作?の”負けないで!”では聴覚障害というのが分かりにくい
だからといって普通、ダジャレを入れるかな

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nakaji

4.0全ての人たちをきちんと描く

2024年3月8日
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「夜明けのすべて」があまりに良かったので過去作をと思い観ましたが、これも評判は知ってたけどとても良い作品でした。
耳が聞こえないボクサーという主人公の映画なので当然セリフは少ないわけだけど、目、歩き方、普段のオンオフ、ボクシングの身体性のアクション(素晴らしい!)で見事にそこにいる人として描かれていました。
生活音(電車の音、水面所の音、車の音)が際立つ音響で、これを主人公は聞いていないと思いながら見るととても不思議な感覚でした。

この映画も登場人物すべてがそこにいると思わせてくれる作品で、それが本当にこの作品をスペシャルにしていると思います。
エンドロールの生活風景のショットたちの中にも、今の映画の中にいたような人たちがたくさんいるのだなと思わされて、とんでもない作品と思いました。

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あした

3.0頑なな気持ちがほどけてく

2024年3月7日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

興奮

結局人はひとり
なんてことはない
それを静かに、だけど確かに伝えてくれる映画だった

弟の彼女、ジムの先輩、そして対戦相手とも
ケイコの頑なな気持ちがほどけていく描写にグッときた

友達とのやり取りに字幕がない軽やかさも、そこに日常がある気がして良かった

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赤の他人