劇場公開日 2022年7月1日

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「live and let live(お互い邪魔せずやっていく)」リコリス・ピザ かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0live and let live(お互い邪魔せずやっていく)

2022年11月24日
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シスターフッド・ムービー『ラストナイト・イン・ソーホー』のインタビューで監督エドガー・ライトはこんなことを語っていた。
「この映画は、バラ色のレンズで過去を振り返ることへの反論です。完璧な10年なんてありません。どんな形であれ、“古き良き時代”があるという考えは誤りであり、これまで見てきたように危険なものです。過去を夢見て過度にノスタルジックになることは、現代からの後退であり、現代に対処できていないのかもしれません」
PTAの最新作はこのライトの発言に対するさらなる反論といってもよい内容になっている。

25歳の年上女性と15歳の年下男性とのつかずはなれずな関係を描いたラブストーリーは、70年代LAはサンフェルナンド・バレー(PTAの地元)への甘きオマージュに満ちているからだ。ジョン・ピータース(ブラッドリー・クーパー)やジョエル・ワックス(ベニー・サフディ)の実在人物と、実在の人物(ウィリアム・ホールデン、サム・ペキンパー)をモチーフにした架空登場人物のエピソードが虚実ないまぜに語られている。

映画には登場しないものの、映画タイトルの『リコリス・ピザ』は、サンフェルナンド・バレーにあった実在のレコードショップ・チェーンからいただいているそうで、LPレコードの隠語にもなっているらしい。若くして商売上手なゲイリーと運転上手?なアラナは、恋人同士というよりはビジネス上の良きパートナーといった感じで、そんな2人がレコード針とレコード盤のようにくっついたり離れたりを繰り返す物語なのである。

何せ10歳の年の差がある2人、ティーンの子役としてのキャリアをもっているゲイリーと付き合うなんて現実的に考えればどうかしている、とアラナ自身疑問に感じている。よってサンフェルナンド・バレーをよなよな徘徊している有名人にすり寄ってちゃんとした生活?を送りたいとも願う、(現実と夢の間を行き来する)ちょっと精神不安定気味な女子なのだ。このあたり、年に似合わず地に足がしっかり着いているゲイリーとは非常に対照的に描かれており、ある意味年齢差を利用した反フェミニズム的ストーリーになっているのである。

ウォーターベッドにレンタサイクル、ピンボールマシン専門のゲームセンター....まだまだ子供のお遊びのような幼稚なビジネスだけど、夢があっていいじゃない。社会で既に成功をおさめているピータースのようなダラちんマウント男とは違って、僕は君のことをこんなに純粋に愛しているんだよ。(仲違いしていたジョンへの和解を呼びかけた楽曲ともいわれる)ポール・マッカートニー&ウィングスの“Let Me Roll It”にのって、離れ離れになっていたゲイリーとアラナはラストにめでたく結ばれる。

過度にノスタルジックになって何が悪い。現代からの後退?バカいってんじゃねぇよ。パンデミックでむやみやたらな接触が憚られる時代だからこそ、つかずはなれずの(007のボンドのように走ってばかりの)ベタなラブ・ストーリーが逆に必要なのさ、フェミニズムで男女の対立煽ってどうすんねん。そんなPTAのマスク越しの声が聞こえてきそうな1本なのです。

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かなり悪いオヤジ