「そのトンネルの中で見つけたもの」夏へのトンネル、さよならの出口 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
そのトンネルの中で見つけたもの
つくづく新海誠の作品はその後のアニメーション映画に多大な影響を与えたと思う。
使い古されたボーイ・ミーツ・ガールに、ファンタスティックな要素と映像美と楽曲センスで、切なさと感動を謳い上げる。
最近のコレ系の作品を見るとすぐ頭を過ってしまう。似たり寄ったりと言うか、良くも悪くも。本作も然り。
とある田舎町。そこには“ウラシマトンネル”という中に入れば欲しいものが手に入るが歳を取ってしまうトンネルの噂がある。
ある時森の中でそのトンネルを見つけた高校生のカオル。駅で傘を貸したきっかけで親しくなった転校生のあんずもトンネルの存在を知り、二人でトンネルの秘密を探る。二人にはどうしても欲しいものがあった…。
トンネルの中は時間の進み方が違う。トンネルの中の1秒は実時間で約1時間。という事は、1分で、1時間で…1日ならば…。“ウラシマ”の所以。
時間の経過具合とか、携帯での連絡手段とか、あれこれ調べていく内に…。
お互いの“欲しいもの”を打ち明け合ったり、二人で一緒に行った夏祭り…。
夏、青春、淡い恋、SF…これらのドストレート。
時間の進み方が違う。二人の関係がこれによって離れ離れになる展開もある程度予想付く。
作風が新海誠風ならば、キーとなるこの設定も同監督の『ほしのこえ』だ。事実、原作者は原作小説執筆の際、影響を受けているという。(プラス、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』も)
二人の“欲しいもの”。
クラスに馴染もうとせず、他者を近付けさせようともしないあんず。いつも本を読んでいる。小説かと思いきや、古ぼけた漫画。クラスの女子がそれをからかったら殴り返したほど思い入れがある。あんずの夢は漫画家になる事。影響を与えたのは、祖父。祖父も漫画家であったが、生涯に一作品しか単行本にならないほどの無名。それでもそんな祖父に憧れ、漫画家を目指す。それには“特別な才能”が必要。あんずが欲しいのは、漫画家として成功する“特別な才能”であった…。
まあこちらの展開は大方予想付く。カオルの背中押しもあって、描いた漫画を出版社に送ったところ、編集者の目に留まった。夢への第一歩。あんずにはトンネルに入らずとも欲しかったものがその手にあったのだ。
カオルの場合は訳が違う。何処にでもいそうな平凡な少年に見えて、何か陰を抱えているような…。
彼には悲しい過去のトラウマがあった。
両親と幼い妹と幸せに暮らしていた。妹のカレンとは非常に仲良かったが、ある時些細な事で喧嘩して、それが原因で妹は…。母親はショックで家を出、父親は以来酒浸り。カオルを責め続けている。後悔と悲しみが今も癒えぬ中、さらに父は再婚しようとしている。
カオルが何としてでも欲しいもの。妹を取り戻す…。
境遇や悲しみは同情する。
が、それは強い思いであり、エゴでもある。
古今東西、失われた命はどうあがいても取り戻せない。
トンネルを抜けて、妹と再会する。屈託のない笑顔でピュアな妹は変わらず。世界中の人々の幸せを願っている。それはつまり、兄の幸せも。
この時点でカオル欲するものは手に入らないであろう事は気付く。が、別の大事なものに改めて気付く。
このトンネルの中に幾分居ただろう。どれほどの歳月が経ったであろう。
それでもまだ待ってくれているだろうか…? 想いを伝える事が…。
トンネルの外でもそれは同じ。一緒なら、この世界でも…。傘を返す日まで…。
原作とはちと改変されている部分もあるとか。あんずに絡んできたクラスの女子。映画では単なるモブキャラに過ぎないが、原作では成長するキャラだとか。
オチ。映画では二人のこれからを見る側に委ねるが、原作では“歳の差カップル”の歩みについても描かれているという。
王道的な作品で悪くはなかったが、コンパクトに纏めて、『君の名は。』の亜流作品の一つに漏れずの印象。
特筆すべきものや物足りなさはあり、これがTVシリーズや配信シリーズだったらもっと心に残ったかな、と。
強いて言えば、あんずのキャラと声。クールで儚さもある長い黒髪の美少女ヒロインはやはりアニメーション映えする。気の強い一方、カオルに漫画を褒められ、抑えて喜ぶツンデレな姿は萌えてしまう。
飯豊まりえは声優としても引っ張りだこなのも頷ける。
カオルの方は…、ちょっと一本調子だったかな。