「「映画好きなら必ず見ろ!!」という禁句が出てしまう作品」スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「映画好きなら必ず見ろ!!」という禁句が出てしまう作品

2023年6月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

非常に体調が悪い時に我慢できず見に行って後悔し、普段は殆どやらない公開中に複数回鑑賞することになってしまいました。
で、二回目は体調を万全にして臨みましたが、まあ溜まっているポイントでの鑑賞だったし、本作の場合は映像情報が多過ぎるので映像重視の鑑賞のために吹替版を選択したので、二回目は大満足して見終えました。
10日後の鑑賞でしたが一回目はストーリーだけ追えただけだったようで、二回目でやっと本作の魅力を享受できた気がします。
しかしまあ、エンタメとしてもアートとしても本当に凄い作品だと思います。

最近アニメと言えば日本が世界中を席巻しているし、個人的にもアメリカのアニメ自体が低迷している様に感じていたし、特に老舗のディズニーアニメ作品は低迷というより体たらくと言った方が似合っている様な状態なので、余計に日本のアニメの勢いを感じていたのですが、本作の様な作品を見せつけられると、やはりアメリカ映画業界のプライドというのか意地というのか底力を感じずにはおれませんでした。
本当に凄いよな、アメリカのアニメクリエーター達は…まあ、第一作目を見た時も非常に驚かされたのですが、二作目も全くクオリティーが落ちないし、むしろ上がっていましたからね。本作の何が凄いかって、まずはアニメ自体の未来を示していました。
ここ何十年かの全世界のアニメ業界って、平面から立体、セル画からCGへとどんどん技術改革を進め、“技術”ばかりを先行させ“表現”そのものがかなり疎かになり、その中で日本のアニメは多様性を持たせ“表現”を重視していたからこそ世界的な評価が高まったのだと思っています。で、昨年の『犬王』とか『THE FIRST SLAM DUNK』などを見ると完全に日本のアニメが世界の最先端だと私も思っていましたが、表現として更に先を行く様な本作を見せられると、中々敵いませんよ。
更に今やありふれたマルチバースという設定を使いながらも、マルチバース(多元宇宙)そのものを多様性という(エンタメ的)物語テーマにも(アート的)表現手段にも重ね合わせるという多層構造であり、娯楽性と芸術性と表現スタイルの融合でもあるという、今回のレビュータイトルにした「映画好きなら必ず見ろ!!」という、映画ファンが聞いて最も嫌がるであろう台詞をつい言いたくなってしまうほどの作品だったと思います。どんなに私が好きな作品でも、他人に見ろって偉そうに言って嫌われたくありませんが、嫌われても良いと思えるくらいの作品だったという事です。(ちなみに、私がその台詞を言いたくなる作品って今までに『七人の侍』しかありません)

あと、私は絵画が昔から好きなのですが、モダンアートの場合は好きでも意味が分からない作家も多くいます。ロイ・リキテンスタインという画家もその内の一人でした。
要するにその表現スタイルの成り立ちや発生の歴史的条件などが作品から想像できるか否かという意味でよく分からなかった画家の一人だったのですが、前作の『スパイダーバース』を見た時に、何故かふと目から鱗が落ちたようにリキテンスタインという作家の作品の発想原理が理解できたような気がしたのです。
創作物とは“真似”という堆積物(技術)からどんどん蓄積した土台の頂上(最新技術)であり、その土台の上で今(頂上)の自分の表現方法(スタイル)を見つけ出すことがアートなんだということに思い至ったのですが、本シリーズもエンタメの世界でアートしているのが私にはハッキリと見えたのです。

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シューテツ