「同じことが反復する世界には意味がある」百花 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
同じことが反復する世界には意味がある
2022年。川村元気監督。認知症になっていく母について、幼いころ一時母から捨てられた経験をもつ息子が複雑な感情を持って接していくという話。
まず、認知症の世界が「反復」として描かれる。同じものを何度も買い物し、過去のできごとを何度も思い出す。そしてその「反復」にはそれぞれ過去の出来事が関係する「意味」があるのだ。卵を何度も買うことも、息子を誰かと何度も間違えることも、過去に起こった出来事に起因している。認知症の母は衝動や偶然では徘徊しないのだ。また、母だけでなく息子が思い出す過去も同じ場面ばかりなので、「反復」は認知症を描くためだけではなく、観客の分かりやすさも考慮されて導入されているし、物語の面でも、例えば不倫は主人公の母だけでなく、たまたま出会ったその友人にも「反復」的に起きている。さらに、映画の撮影手法として、部屋のなかの同じ場所を同じ角度から何度も描く。これはわかりやすさとともに経済的な事情(お金の面と説明の省略の面)があるだろう。つまり、この映画は「反復」の映画であり、そのすべてに異なる「意味」があるのだ。(ちなみに、「意味」がないと説明を省略されてしまう。主人公の会社の仲間は有名な俳優揃いなのだが、顔もよく見えない。著名な役者の扱いとしてはとても珍しい)。「意味」に満ちた少数の映像や物語が「反復」するので、とても濃密な映画経験となっている。古い映画を見ているような。
物語としては一人称的な物語で、相互理解が問題になるのではなく、主人公の視点からの理解とその最終的な誤解の解明、反省という流れでできている。「半分の花火」が「反復」する過程で、「意味」の誤解に気づく場面では、主人公はむしろ「反復」に気づいてほしかった。