「見たいのはこれじゃなかった」チェリまほ THE MOVIE 30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい はるとさんの映画レビュー(感想・評価)
見たいのはこれじゃなかった
結論から言うと、ドラマチェリまほの続編として見たい世界観の映画ではなかった、に尽きます。
映画化発表から公開までずっとお祭りの中にいて、肝心の映画は序盤こそ楽しかったですが、後はお祭りが終わった静けさの中で淡々と進む後片付けを見ているような感覚でした。
原作は未読なので、原作と同じ展開をしているのなら申し訳ないのですが、この映画でやりたいテーマを描写しきるには尺不足だったと思います。
前半は安達の長崎転勤を経て、魔法はなくなり、安達の中に黒沢と生きていく強い意志が芽生えますが、そもそも長崎転勤中のエピソードが少ないし浅すぎて、事故騒ぎとは別に、安達が長崎で何を考え、どういう経験をしてそこまでの強い気持ちを固めていったのかの描写がほしかったです。
この辺はどうしてもやりたい後半のエピソードのために尺(と予算?)の関係で割りを食った部分なのかな。
そして安達の気持ちの深化がよくわからないまま、後半は急速に家族へのカミングアウトまで話が進んでしまう。早すぎてもう気持ちが付いていかない。
そこから同じような構成の実家挨拶を2連続で長々と見せられて、冗長で退屈だし、安達家の挨拶シーンなんて大昔に男女恋愛もので散々こすった古めかしい描写で、何を見せられてるんだろう…となりました。
映画の中で伝えたいことがたくさんあったのは理解できますが、ここまで駆け足になるくらいなら、もっとテーマを絞って、その過程を丁寧に描いてほしかったと思います。
そもそも安達の魔法がなくなるって、この物語において、めちゃくちゃキモの部分ですよね?禁じ手使ってまで魔法使い設定を戻したのに活かされてないから、なくなったときのカタルシスが薄すぎ。淡々と消化されてしまったのが、とにかく残念でした。
また、それまで恋愛経験もなく、まして同性愛者だったわけでもない安達が黒沢とずっと一緒にいたい、それを家族にも周りにも認めてもらいたい、という強い覚悟を持つまでになることも、かなりしっかりしたエピソードをもって描写しないと説得力がないです。
すべてのエピソードが薄くて浅いから、制作側の伝えたいことがセリフやストーリーの中に馴染んでなくて、やたらアピール過剰で説教くさく感じてしまいました。
ラストに硬い表情で手をつないで歩くシーンも、直前の結婚式は安達が見たおとぎ話の出来事だとすると、でも現実はそうじゃない、とつきつけられて終わり、ほろ苦さだけが残りました。
それでも安達と黒沢はその厳しい世界を手をつないで生きていくんだ、という描写なのだと解釈していますが、チェリまほは多幸感あふれる余韻で終わってほしかったので、なんか違うな。見たいのはこれじゃなかったなという気持ち。じわじわ沁みてくるのは感動ではなく、仄暗さがゆっくり広がってくる感覚で、何度見てもモヤモヤします。全体を通してハッピーとコメディ成分足りなすぎ。
「ドラマから地続き」という触れ込みだったと思いますが、整合性がなく安直で無理やりな実は魔法使いのままでした設定、どう考えてもドラマと合わない時系列、私が知っている「地続き」とは意味が違ったようです。
クリスマスイブに何もなかったとしたら、ドラマのクリスマス朝のシーンもエレベーターでのイチャイチャもバレンタインもなかったことになるので、クリスマスイブから分岐した並行世界の話だと思えば、納得でき…いや、できないわ。
追記
監督のティーチイン付き上映を見に行かれた方のレポを読んで、ここまで私が見たいものと、制作が見せたいものが違っていたのかと愕然としました。
特にラストシーンの二人の覚悟ってずっと真剣に黙って歩くことでしか表現できないことなんでしょうか。後ろ姿になってからでも、黒沢が安達の方を向く、二人が何か話しているのがわかる、などがあるだけで個人的には最後に残る感情がまったく違ったと思います。
手を見せる演出もここぞってところでだけ見るならいいんですけど、ここは役者の表情を見たいってところで手だけの画に切り替わるのが多すぎてくどかったです。最後海でのアーティスティックスイミングかと思うような振り付け、ドラマOPとリンクさせたいのはわかりますが、正直ダサくてここ笑うとこかなって思いました。もう少し引きの画で二人の顔映ってたら印象違ったかなと思うけど。
映画は全体的に感性が自分とは合わないなと思ってしまいましたし、万一また何かあったとしても、それはもう私が見たいチェリまほではないんだろうなと残念な気持ちになりました。