「思いのほかメッセージ性強め」チェリまほ THE MOVIE 30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい stさんの映画レビュー(感想・評価)
思いのほかメッセージ性強め
予告編を見る限り、ドラマ版のその後が、多少のイベント(長崎転勤)はありつつもほのぼのと描かれる感じだろうなと思って鑑賞しました(原作は未見です)。
ところが、後半の足立と黒沢のそれぞれの家族に挨拶に行くシーンになると、思った以上にメッセージ性の強い描写になっていたので驚きました。ここらへんは好みが分かれるのかもしれません。
足立と黒沢のそれぞれの家族の反応が、シリアスなLGBTQものでよくあるような、偏見丸出しの強い拒絶でもなく、かと言って現実離れしたファンタジーな描写でもなく(これは私が家族へのカミングアウトでそれほど苦労していないからこその感覚かもしれませんが)、そのバランスがよく考えられていると感じました。
どよのうな表現が良いかは好みだとは思いますし、どのような家族の反応が、「今の社会のリアル」なのかについても人それぞれ認識は違うのだろうと思います。ただ、映画などのメディアには、社会に対して一つの理想を示すという役割もあると思いますし、チェリまほのほのぼのした作風から言って、親の拒絶をそこまで強く描くのはそぐわない気もしますから、個人的には納得感のある描写でした。
黒沢母の困惑は、同性愛嫌悪からというよりも、日本社会の現実を踏まえた上で、彼らが直面するであろう様々な困難を想像し、純粋に心配だったのでしょう。
終幕で、彼らは理解のある家族や周囲の人々に祝福され、手を携えて未来へと歩んでいくわけですが、もちろん、黒沢母が言ったように、彼らのこれからには"覚悟"が求められるわけです。
現在日本では、同性同士では法律婚ができません。足立が懸念していた、万が一のときにパートナーの元へ駆けつけられない(法的に親族でないので)というのは、まさに今同性カップルが直面している困難の代表例のようなもので、それを結構直接的に(説明的に)描いていたのは、コメディタッチなBLものとしてのドラマ性を多少犠牲にしてでも、社会に訴えることを優先するべきだという、制作者の想いがあったのではないかと想像します。
内容のレビューとは少しズレますが、原作者の豊田悠さんが、Marriage for All Japan(日本における同性婚実現を目指している団体)に対して、賛同のメッセージと共に、本作による収益の一部を同団体に寄付する旨ツイートされていたことも、本作のメッセージ性重視の方向性と通底する、素敵な行動だと思いました。