「骨太の刑事ドラマである」特捜部Q 知りすぎたマルコ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
骨太の刑事ドラマである
このシリーズは初めて観た。デンマーク映画を観ること自体も殆どないが、本作品は無条件に面白かった。
推理力と観察力と記憶力は抜群だが、それらが暴走しがちになるカール・マーク警部補と、カール警部補の暴走をしばしば止める役割のアサドのコンビである。アサドは無尽蔵のスタミナと、カール警部補にないPCスキルと射撃能力の持ち主でもある。二人の見た目がいい。カール警部補はマフィアの中ボスにしか見えないし、アサドはアラブ人のテロリストに見えてしまう。二人とも決して笑わないところもいい。この二人が訪ねてきたら、少し怖いだろう。
原作はミステリーだが、映画はサスペンス仕立てになっている。多分そのほうが観客に解りやすいからだ。マルコの単独シーンやタイス・スナプの屋敷のシーンがなかったら、観客はカール警部補は何をやっているのかと思ったはずだ。そういったシーンがあってこそ、そこに辿り着くカール警部補の推理力に感心する。そして危険を顧みない行動力と、それ以上にアサドのアシスト能力に感心する。
サスペンス仕立てだから、いくつかの場所で起きるいくつかの出来事が、やがてカール警部補の頭の中でひとつの大きな事件に収斂していく過程が楽しめる。彼の頭の中は見えないから、信頼してサポートする特捜部Qのメンバーの一方で、疑って否定する上司がいるのは当然で、現実感がある。
変な喩えだが、自然薯を掘るときには、一本の蔓から自然薯を発見し、周囲から少しずつ掘っていくと、やがて自然薯の全貌が出てくる。自然薯は切れてしまうと価値が下がるから、切らないように丁寧に掘り出す必要がある。地中には石や大木の根っこなどが埋まっていて、それを避けるように伸びている自然薯は想像のつかない曲がり方をしたりしている。それが自然薯掘りの難しくも面白いところだ。
本作品はカール警部補が自然薯を掘り出すようなストーリーである。大変な仕事ではあるが、徐々に全体像が明らかになっていく醍醐味がある。途中、微かにご都合主義が見え隠れするシーンもあったが、大半は骨太の刑事ドラマである。とても見応えがあった。