シラノ : 特集
世界中から愛された“あの名作”が名匠により映画化
儚くも美しい純愛三角関係の結末に、感涙必至!
映画.comがいま推したいロマンティック・ミュージカル
1897年のパリ初演を皮切りに、今もなお世界中で映画化やミュージカル化されている戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」。時代を超えて人びとを魅了し、愛され続ける不朽の名作が、新たなロマンティック・ミュージカルとして映画化された。
監督を務めるのは、「プライドと偏見」「つぐない」で知られるジョー・ライト。古典の本質を見抜き、現代の観客に届けてきたイギリス映画界の名匠が、最新作でも手腕を発揮し、切なく胸を締め付ける三角関係のラブストーリーをスクリーンに描き出した。
春の到来とともに、ミュージカル旋風が巻き起こる映画界――。名作×純愛×名匠が紡ぎ出す感涙必至、今こそ見るべき作品、それが「シラノ」(2月25日公開)。
主人公シラノが綴る美しい恋文のごとく、荘厳かつ美麗なオーラに包まれた純愛ストーリー。涙にじむ感動のラストシーンが待ち構えている。
【究極の三角関係】ここまで切ない純愛はあったか──
恋文を通じて繰り広げられる三角関係は、予測不可能
17世紀、フランス。誇り高き軍人にして、剣の達人。詩の才能にも恵まれた主人公のシラノは、ロクサーヌという幼なじみの女性に秘めたる恋心を募らせていた。
しかしロクサーヌは、シラノが率いる部隊の新人兵士クリスチャンにひと目ぼれし、彼もまた、一瞬にしてロクサーヌの虜になっていた。一方でシラノは、自分の容姿に自信を持てず、ずっと“想い”を伝えられずにいた。彼が選んだ道は、文才のないクリスチャンに代わって、ロクサーヌ宛ての恋文を“代筆”することだった。
すべては愛するロクサーヌが幸せになるため……。
●恋敵は部下―― 愛する女性の幸せを願い、主人公が身を引く切なさ
「シラノ」が描く最大のテーマ、それが“究極の三角関係”。主人公のシラノにとって、“想い”を寄せるロクサーヌは、幼なじみであり、同時に何でも分かち合える親友でもある。しかし唯一、シラノが打ち明けられないのが、ロクサーヌへの秘めた愛情。夜道、10人を超える刺客に襲い掛かられても、たったひとりで返り討ちにしてしまうほどの剣豪であるにも関わらず、愛の言葉を口にすることができないのだ。
「ふたりきりで会いたい」。ロクサーヌからそう告げられたシラノは有頂天になるが、そこで知らされるのは、彼女がクリスチャンという名の、自分の部下に恋しているという事実だった。
そこでシラノは、クリスチャンを蹴落とそうとはしない。あえて身を引き、2人の幸福を願う――。この切ない展開に、観るものも胸を焦がすのだ。
●恋文を代筆し、“想い”をつづる…。絶対“伝えられない”この“想い”
さらにここから始まる独創的な展開こそが、三角関係を描いた“よくある”ラブストーリーとは大きく異なる「シラノ」の魅力。
シラノは、決して学識が高いとは言えないクリスチャンに、「自分がロクサーヌへの恋文を代筆する」と提案するのだ。ロクサーヌは美しい言葉を愛しており、彼女の心を射止めるには、シラノにしか紡ぐことができない“愛の詩”が必要不可欠。実際、シラノが代筆した恋文を受け取ったロクサーヌは、その詩のように美しい言葉の数々に歓喜し、クリスチャンへの愛を日に日に深めていくのだった。
もちろん、剣をペンに持ち替えたシラノが、手紙に刻む言葉のひとつひとつは、ロクサーヌに対する愛に他ならない。しかも、その愛がどれだけ真摯で深いものであっても、それは決して“伝えられない”のが「シラノ」ならではの、切なすぎる運命なのだ。
このまま、シラノは内に秘めた愛情を封印すべきなのだろうか? そんな観客の思いをよそに、物語は急展開。地位と富を武器に、ロクサーヌに結婚を迫るギーシュ公爵の存在、過酷な戦地に送り込まれた部隊の命運も重なり合い、シラノ、ロクサーヌ、クリスチャンをめぐる物語は、誰も予測できない方向へ転がりだしていく。
本作もまた、語り続けられている“名作”――
映画.comスタッフ心酔の、次に観るべきミュージカル
上述の通り、「シラノ・ド・ベルジュラック」は何度も映像・舞台化されている名作。「ロミオとジュリエット」と同じように、形を変えていつまでも語り継がれる物語には、どんな脚色にも耐えうる普遍的な魅力があるのだ。
この項目では、名シーンの数々や、映画.com女性スタッフによる鑑賞レビューを紹介。本作の“根源にある何か”に迫る。
●オフ・ブロードウェイのミュージカルを映画として再構築
オフ・ブロードウェイで上演されたエリカ・シュミット翻訳・演出のミュージカルを、ジョー・ライト監督が壮大なスケールと鮮やかな映像美で再構築。詩的にして情熱的なメッセージを観客に投げかけている。
ライト監督は「歌い出す前にファンファーレのような合図は存在しない。役者たちは、息継ぎもなく、セリフから歌へシームレスに移行し、またセリフに戻っていく」と語る。その言葉通り、ミュージカルシーンは自然な流れに組み込まれ、そのどれもが映画でしか表現できない、斬新かつ創造性にあふれるものばかりだ。
登場人物それぞれの“愛”を昇華させたドラマチックな楽曲、スタイリッシュな振付が織りなす名シーンの数々は日頃、「なぜ突然歌う?」などとミュージカルを敬遠しがちな人こそ必見である。
●愛はバルコニーで生まれる――主要キャラ3人が一堂に会す名シーン
シラノとクリスチャンとロクサーヌ、3人が織りなすバルコニーでのひと幕を観れば、全身が感情の塊になってしまったかのような感覚に陥るかもしれない。
予告編にも収められているこの名シーンは、シラノとクリスチャンが繰り広げるコミカルなやり取りや、特別にみなぎる緊張感も魅力的だが、物語の設定上、3人が一堂に会す貴重な場面でもある。
何より「ロミオとジュリエット」「ウエスト・サイド物語」など過去の名作でも、バルコニーは重要な舞台になっている。映画ファン、ミュージカルファンともに、本作の“愛が生まれる瞬間”を絶対に見届けてほしい。
●女性スタッフレビュー:愛する人に、愛をきちんと伝えることの尊さ
ジョー・ライト版「シラノ」はシチリア島の美しいロケーションで撮影され、登場人物たちはゴテゴテとした古風な衣装ではなく、シャープで洗練された衣装を着ています。ミュージカルシーンで流れるナンバーもポップでキャッチー。まるでおとぎ話のようにロマンティックで美しい世界が完璧に構築されています。
主な登場人物3人が、とても魅力的に描かれています。容姿にコンプレックスを持つが“魂がイケメン”なシラノ。容姿が美しく心が素直な“ピュアなイケメン”クリスチャン。そしてそんな2人に愛される女性、ロクサーヌです。
特にロクサーヌが素晴らしい。自らの意思で運命を切り開いていく自立した女性で、華やかな笑顔はコケティッシュでキュート。「芯の強さ」を感じさせる力強い歌声も、観る者の魂を震わせます。シラノたちが夢中になるのも納得のロクサーヌを依り代に、現代の私たちもすんなり感情移入することができるのです。
そしてシラノを演じるピーター・ディンクレイジの悲しげな瞳もとても印象的。ロクサーヌを愛する喜びと“想い”を告げられない苦悩で葛藤しながらも、一途に手紙を書き続けた彼がたどり着いた答えには、誰もがみな胸を締め付けられるはずです。
ジョー・ライトがこのシンプルで普遍的な物語を通して提示するメッセージは、やはりとても実直。愛する人に、愛をきちんと伝えること。人々が孤立しがちな現代だからこそ、私たちにはこの映画が必要なのだと感じました。
【品質は保証済み】名匠が名作に新たな命を吹き込む
本作が現代人へ送る、力強いメッセージとは?
監督を務めたのは、イギリス映画界の名匠であるジョー・ライト。ジェーン・オースティン原作の「プライドと偏見」(05)で長編映画監督デビューを飾り、その後も「つぐない」「アンナ・カレーニナ」など数多くの文芸映画を世に送り出している。最近では伝記映画「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」(17)で、アカデミー賞で作品賞を含む6部門にノミネートされ、ゲイリー・オールドマンに初のオスカー(主演男優賞)をもたらしたのも記憶に新しいところ。
誰もが知る古典や伝記を、鋭い切り口と新たな味付けで、現代の映画ファンに届けてきたライト監督にとって、名作「シラノ」の映画化は、最高のマリアージュといえるだろう。
事実、ロマンティックな純愛ストーリーという原作の魅力に加えて、シラノが代筆を通して“想い”を伝える“無償の愛”、最初は恋敵だったクリスチャンとの友情、若いふたりを温かく見守る自己犠牲の精神といった、普遍的なエッセンスが色濃く描かれ、誰の心にも“刺さる”ヒューマンストーリーに昇華している。
「プライドと偏見」のヒロインであるエリザベス、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」の主人公・チャーチル英首相がそうであったように、シラノもまた“アウトサイダー”として、孤高の生きざまを貫く姿が深い余韻を残す。
また2020年10月からおよそ3カ月、徹底した感染対策のもと、コロナ禍のイタリアで撮影が行われたと聞けば、いかに通常とは異なる環境での映画製作だったかは想像に難くない。ライト監督が、長年映像化を熱望していた本作を、あえてこのコロナ禍で撮影したのには深い理由があるのだ。
「私にとってドラマとは、人とつながろうとする試みであると同時に、そうすることの難しさを表現しているもの」とライト監督は言う。
その言葉は、つながりを渇望する私たち現代人の心にも深く突き刺さる。本来、つながりを強くするはずの言葉が、簡単に誰かを傷つけてしまう時代。シラノが手紙に“想い”を込めたように、ライト監督もまた映画を通じて、「言葉とは誰かを支え、勇気づけるものだ」と力強いメッセージを放っている。