「情と育ちと宿命と」アキラとあきら 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
情と育ちと宿命と
熱血企業小説の名手、池井戸潤作品の映画化。
『半沢直樹』『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』…TVドラマ化/映画化されたこれまでの作品が面白かったので、今回も当初は劇場に観に行こうと思ってたのだが…、
これまでの作品は中堅どころの実力派や演技巧者がメインキャストだったが、竹内涼真と横浜流星のイケメン若手2人。
監督は青春ものやラブストーリーに手腕を振るう三木孝浩。この手のジャンルは初。
勿論各々のこれまでの活躍や実績は評価に値するし、公開後の上々の評判も聞いていたが、どうしてもそれらがネックになって劇場に一歩足が向かなかった。
毎度毎度の事だが、先入観や偏見は良くない。
金融や企業の内幕劇で最初は取っ付き難い。
が、どんどん話の展開の面白さに引き込まれていく。
さすが抜群のエンタメ性の池井戸作品。いつもながら。
当初不安だった二つの要素、監督の特色である瑞々しさ、主演二人の若々しさ、それらが見事に昇華していた。
日本有数のメガバンク“産業中央銀行”。
新人研修で伝説を残した二人の“ホープ”がいた。
一方が粉飾決算を作り、もう一方がそれを見破った。
山崎瑛と階堂彬。
“アキラ”と“あきら”。
同期入行。同じ名前。ライバルとされたが、その後明暗分かれる…。
人を救うバンカーを目指す瑛。理想的で青臭くとも、こだわる理由は過去に。
父親はちっぽけな町工場を経営していたが、倒産。辛い幼少期を過ごす。
銀行そのものを憎んでいたが、ある時力になってくれたバンカーがいた。
そのバンカーや父や働いていた従業員。過去の体験や言葉…。
それらがバンカーになった瑛を決めた。
経営難と娘の手術費に苦しむ担当取引先の為に、奔走。
取引先は潰れるも、瑛の機転で手術は受けられる事に。が、会社の意に反した瑛は左遷させられてしまう…。
老舗海運会社“東海郵船”の御曹司である彬。
現社長の父親から時期社長を期待されるも、ある理由からそれを断り、バンカーに。
情に左右されないクールな性格で実績を上げ、エリートコースまっしぐら。
だが、父親が病に倒れた事から…。
二人の叔父はそれぞれグループの会社を持ち、さらなる事業拡大としてリゾートホテル業に手を伸ばそうとしていたが、兄が病に伏す前から反対されていた。それに抗ってまでホテル業を始めるも、大負債を抱える。その連帯保証に選んだのは…
東海郵船。新社長となった彬の弟、龍馬を騙して。
彬が家業から離れた理由。親族経営の争い、しがらみ。
それらが嫌だった。逃げ出した。
東海郵船は存続の大危機を迎える…。
弟が倒れた事により、彬は銀行を辞め、家業の新社長に就く。
入院していた父も遂に死去。祖父、そして父が守ってきた会社を救う決心をする。
折しも左遷先で結果を出した瑛は、再び本社へ。
出世間違いナシの案件を断り、瑛は東海郵船の案件を担当する。
性格も生まれも正反対。かつてしのぎを削るかと思われたが、別々の道を行ったライバル同士が、数奇な事からタッグを組む。
超難題案件。“ミッション:インポッシブル”。
絶対的ピンチを救えるのか…?
いざ展開が進むと、THE池井戸作品の王道!
粉飾されたリゾートホテルの財務データ。本物の財務データを見ると、膨れに膨れ上がった大赤字。
今すぐこれを何とかしないと東海郵船は沈没。
銀行からの融資など得られる筈が無い。リゾートホテルの売却を考えるが、大負債を抱えた失敗ビジネスなど何処も買う訳も無い。
そこで、東海グループの子会社で優れた特許のある東海商会とセット販売を、大手ビール会社に打診するが…、連帯保証が障害になる。
あの手この手の策を考える。突破口を見つけたと思いきや、再びその道は閉ざされる。
その数々の難局をどうクリアしていくか…?
自身の進退や関わる全員の命運を掛けた大奇策を思い付くが…。
話の面白さは安定。池井戸作品が好きなら今回も見応えあり。熱いエンタメ好きも見て損はナシ。
他の映像化された池井戸作品と違って、若々しさがものを言ったと思う。
竹内涼真と横浜流星の熱演。恋愛ものなんかでイケメンやるより、本作の信念貫く若き男たちの方がずっとずっとカッコいい。
ライバルとして意識し合い、それぞれの苦悩、挑む姿。信頼し、強く確かに育まれていく絆。
中堅どころでも男たちの熱いドラマになるが、若い二人が演じた事で、熱くもフレッシュなドラマになった。
二人の関係はある意味、青春劇のような味あり。
三木監督の起用はこの為だったのかと思えるくらい上手くいった。
本当に竹内と横浜のフレッシュさ、青春もので培われた三木監督の手腕が、池井戸作品に新風を差し込んだ。
そういや竹内も横浜も三木監督と以前組んだ事あり。作品の良し悪しは別として、才能や相性の良さもあったのかもしれない。
若手、ベテラン、実力派、お笑い芸人、声優までものキャスト陣。
上白石萌歌は『七つの会議』の朝倉あき的ポジションのサポート。
ユースケ・サンタマリア&アンジャッシュ児嶋の嫌みな役所。
キャストで特に印象残ったのは、江口洋介。演じたのは瑛の上司役で、いつもの熱血キャラを封印し、“確実性”を重視する冷徹さで、瑛の前に立ち塞がる。憎々しい敵対役に留まらず、確実性を重視する冷徹な理由は、会社の為に尽くしてきた行員たちの積み重ねを守る為。確実性ナシの融資に失敗したら、彼らの血の滲むような努力が無駄になる。この人にもこの人なりの信念がある。池井戸作品常連のアノ人とはまた違う存在感。確実性を納得させ、この上司から承認を得られるかも終盤の見所。
巨額の金が動く金融界。
大企業の運営。
熾烈なビジネス・バトルに於いて、情は弱点なのか…?
弱点になる。が、強みにもなる。
結局ビジネスを動かすのは、人だ。会社に金を貸すのではなく、人に金を貸す。
そこに情があり、人がいるからだ。
だからこそ人は、助け合う。信じ合う。共に闘う。
序盤、瑛の情を重んじる姿勢に苦言を呈していた彬。が、
家業から遠ざかっていたのも、情。戻ったのも、情。終盤叔父二人に土下座したのも、情。
家族を助けたい。親族をまた一つに。
情を信じるのが瑛なら、最も情に厚かったのは彬だったかもしれない。
そんな彬が瑛に言う。
「お前は育ちがいいな」
家柄だったら、普通彬。でもこの場合の意味は、
育ち、経験してきた環境。歩んできたこれまでの人生そのものとも言えるだろう。
彬の情、瑛の育ち、それらがこの苦境を救った。
それは偶然だったのか…?
実は幼少時、一度会っていた二人。その時のキーアイテムがラストで再び。
性格も生まれも正反対。同じ会社に入り、ライバルとして意識し合い…。
いったん別々の道を行くが、奇妙な巡り合わせで再び出会い、共に闘う。絆を深め合う。
ちとベタで出来過ぎでもあるが、ここまでくれば感動がある。
人はそれを、“宿命”と呼ぶ。
やはり面白かった池井戸作品。
次の『シャイロックの子供たち』も楽しみになってきた。
思ってましたが、ストーリーが良くて強弱がはっきりして、ユースケ叔父さんとのやりとり、江口洋介との稟議書の可否のやりとりなど、固唾を飲んで観るところはしっかりと、あと、省略たくさん、で、まとまって感動もありました。江口洋介さんユースケサンタマリアさんも良かったです、
もし、機会があれば、TV版もお薦めです♪レビューまだですので共感返信結構です♪
こんにちは😃
『美女と野獣』の方に共感いただきましてありがとうございました😊
本作一度観ただけでレビューまだですので共感返信、どうかお気遣いなく。
若さ、大事ですね。ただ、あきらがユースケ叔父さんに粉飾決算を暴いている前半のキツ言い方はちょっと違和感、土下座辺りは、まあ良かったですが。TV版が凄く良かったので、大丈夫かなぁと、
共感ありがとうございます。
やはり、池井戸潤原作作品は良いですね。外れ無しですね。
仰る様に、池井戸潤原作作品の中では、若さ、青春が一番出ていた作品でした。
シャイロックの子供たちの公開が楽しみです。
そうですね。
竹内涼真も横浜流星も男気のある役柄が似合いそうなので、
若き漢たちの群像劇にも挑んで欲しいです。
では、共感作で。
ー以上ー
近大さん、共感&コメントありがとうございます。
三木監督はティーン向け映画が確かに多いですね~
しかもwowowドラマ版にはあった恋愛要素排除!!
これから何を仕掛けてくるのか楽しみになりましたね!