劇場公開日 2023年6月2日

「河林満さんを思い出させてくれる秀作!」渇水 三輪さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5河林満さんを思い出させてくれる秀作!

2023年6月5日
iPhoneアプリから投稿

渇水というテーマですから、太陽がギラギラ輝いているものと想像していましたが、画面はとても穏やかで色彩が抑えられていたのが、独特の雰囲気を醸し出しておりました。映像では出演者の顔のアップがとても多く、表情で心の渇きを表現しようという試みが切々と伝わってくるようでした。河林満の作品は、30年前に上梓されたものですが、立川市の市役所時代の経験が下敷きになっているとはいえ、令和の時代でも、観るものに訴えかけてくるものは、ほとんど違和感がないストーリー展開です。貧困、家庭不和、不幸の連鎖、理不尽な仕事の執行は、今だに常に私たちを取り巻いています。それは、人間が生きて行く上で、避けて通れない事象なのでしょう。この作品では生田斗真が、理不尽に水道代を払えない人たちの「停水執行」を、極めて事務的に行う中で、多くの人々の罵詈雑言、悪口、暴力を受けることによって、どんどんと病んでいきます。また、自らの家族の不和、育児放棄された姉妹の苦悩などが積み重なり、ついにストレスが爆発します。その小さな反乱は、姉妹の「大人や社会が大嫌い!」の言葉が引き金となりますが、姉妹の社会に対する不満と生田斗真の不満が、化学反応を起こしたようなものでした。小さなテロは、あっけなく終焉しますが、その時になんと日照り続きの大地に雨が降ってくるのです。それは渇水が満たされていく吉兆のような展開でした。このシーンが一番の見どころなのかもしれません。そして、やがて姉妹も生田斗真も希望の未来へ走り出します。不幸に見えることも、必ず温かい春が来るということを示唆しているようで、穏やかな感動に包まれました。

三輪
三輪さんのコメント
2023年9月21日

原作も最終的には明るい未来を描こうとしていると感じました。

三輪
humさんのコメント
2023年9月21日

何故か姉妹に希望の未来をみれずにドヨンとした鑑賞後だったのですが、こちらのレビューを読み悲観し過ぎてしまった気がしてきました。
公園での騒動のときに降り出した雨、生田さんの微笑み、お姉ちゃんの涙…吉兆を信じたくなりました。

hum