劇場公開日 2022年3月25日

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「ケネス・ブラナーの故郷への熱き思い」ベルファスト 悶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ケネス・ブラナーの故郷への熱き思い

2023年2月9日
PCから投稿

【鑑賞のきっかけ】
俳優、監督、脚本と幅広く活躍しているケネス・ブラナーの自伝的な作品として注目していたものの、劇場鑑賞を逃していたため、今回、動画配信で鑑賞してみました。

【率直な感想】
<映画鑑賞に予備知識は必要か?>
基本的に映画は、何の予備知識がなくても、楽しめるように作られていると思います。
しかし、本作品は、特に日本人の場合は、ある程度の予備知識があった方が、ケネス・ブラナーが伝えたかったことを深く理解できるのではないかと思います。

本作品は、1960年代に北アイルランド・ベルファストで起こった暴動を中心に、若き日のケネス・ブラナーと思われる少年バディとその家族が辿る運命を綴った作品です。

この暴動なのですが、キリスト教徒の中でも、プロテスタントの一派が、カトリックの一派を町から追い出そうとして起こしたもの。
プロテスタントとカトリックの対立という現実を、少年バディは初めて目にした訳です。
でもこの暴動は、突発的に生じたものではないと言えるでしょう。

アイルランド島の歴史は、イングランドの侵攻と支配の歴史です。
アイルランド人の多くはカトリック。ここに、イングランドから、プロテスタントが持ち込まれることとなります。
つまり、カトリックとプロテスタントの対立には、長い歴史があり、1960年代の暴動は、深く根付いていた対立が表面化したものと考えられます。
その結果、現在、アイルランド島は、ベルファストのある北部は、イギリスの国土であり、南部は、アイルランドという独立国家です。
だから、イギリスの正式名称は、「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」という、とてつもなく長い名称になっています。

この映画の救いは、少年バディの一家はプロテスタントなので、暴動の首謀者側であるのですが、両親は宗派の違いによる対立には否定的で、少年バディもそうした両親の考え方に沿った形で成長していくところでしょう。

<一部カラーなのはなぜ?>
本作品は、冒頭、現代のベルファストの様子がカラー映像で映し出され、やがて時代を遡って1960年代の映像になるとモノクロとなります。
でも、物語の途中、一部カラー映像になります。
それは、少年バディが、両親などに連れられて、映画や演劇を鑑賞するシーンがあるのですが、観客席はモノクロなのに、映し出される映画や舞台上の俳優は、カラーで表現されています。
この演出の意図は何かと考えたのですが、少年バディが生きている現実世界は、暴動により治安が悪化し、光り輝いた世界ではないと感じられます。
これに対し、鑑賞する映画や演劇という架空の世界は、少年バディにとって、光り輝く世界に見えたのではないでしょうか。

【全体評価】
ネタバレになるので書けないのですが、物語のラストに流れるテロップには、ケネス・ブラナーの心の温かさがにじみ出ていて、辛い現実を描いた作品ではありましたが、後味は良い作品に仕上がっていたと思います。

悶