「今こそ、公開する意義がある作品」ベルファスト kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
今こそ、公開する意義がある作品
北アイルランド紛争の直下、首都ベルファストがあれほど荒んだ状態だったことに驚く。つい数十年前のイギリス国内でのことだ。(燻りは現在も残っているらしい)
アイルランド島の北東端の国である北アイルランドは、アイルランド共和国と分離して連合王国に属するという、イビツな状態。
加え、移民とアイルランド先住民の民族対立や、プロテスタントとカトリックの宗派対立が絡み合う。
自分は、このへんの歴史にも社会情勢にも疎いので、よく理解はしていないけれど…。
この街で育ったケネス・ブラナーの実体験が、この映画には反映しているという。
ハードな背景設定ではあるが、所々にウィットがあり、画的なエンターテインメント性もある。
渦中のベルファストに暮らす家族。
子供たちを必死に守っている母親は、夫の行動に不満を持っている。
どんな環境下であっても、夫が外で働き妻が子供の面倒を見ている家族に生じる亀裂というものの本質は変わらない。
幼少期のケネス・ブラナーを投影したバディ少年(ジュード・ヒル)からの視点を反映して、父母はパパとママであって名前が出てこない。
母親の両親や姉などの親族も暮らしているこの街を出るか、留まるか…。母親は厳しい選択を迫られている。
この母親を演じたカトリーナ・バルフが私は好きだ。
子供を守ることを課せられた母親の強さと弱さを確実に表現していたと思う。
ファッションモデルとして輝かしい経歴を持つ彼女は、女優に転身して始めて主演したテレビドラマ「アウトランダー」で惜しげもなくスレンダーな肢体をさらして熱演していた。
本作でも、ミニスカートからスラリと伸びた美しい脚が魅力的だ。
スーパー襲撃事件からの一連のエピソードが、母親の毅然とした強さの裏にある女性の非力さを示し、父親(ジェイミー・ドーナン)の頼もしさを見せるエンターテインメントになっていて、ケネス・ブラナーの演出が冴えている。
遂に、親子は祖母を残して街を出る。
祖母を演じたジュディ・デンチが、振り向かずに行きなさいとバスに乗った娘一家に言う場面は、アカデミー賞助演女優賞に彼女がノミネートされたので、何度となくメディアに流されていた。
深くシワが刻まれたデンチの表情を正面からアップで捉えた、重みのあるシーンだ。
群で生活する人間が知性をもったその時から、縄張り争いと他の群との対立が宿命のようにつきまとう。
その人類の宿命が、ヒトラーやプーチンのようなモンスターを産み出したのだ。
今、不安定なこの世の中だからこそ、この映画が問いかける何かを、考えたい。
コメントありがとうございます。
事前に知識を入れておくだけで理解が格段に深くなることはありますよね。
全く白紙で映画を観てから学ぶようになる、真逆もまた面白くて、どちらも楽しみではありますが、民族間や宗教的な紛争はやはり事前知識が多い方がベターなのかなとは思います。