劇場公開日 2022年3月25日

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「残った者と去った者 --- そのすべてに向けられたケネス・ブラナーの温かな眼差しとありったけの愛、そして彼自身の歩いてきた道」ベルファスト とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0残った者と去った者 --- そのすべてに向けられたケネス・ブラナーの温かな眼差しとありったけの愛、そして彼自身の歩いてきた道

2022年3月19日
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ノスタルジアとリスペクト、そうした情熱がこの私的プロジェクトをこの上なく普遍的なものにする映画の魔法で、こみ上げてくるものがあった一家の移住をめぐる"西部劇"。
彼はいつだって映画(演劇)人・表現者として誠実だった。そして今回はシェイクスピアやアガサ・クリスティの原作でもなく、遂に自らの半自伝的な物語を大事に --- 今まで長年第一線で培ってきたものをぶつけ込めて --- 紡ぎ描いてみせた。例えばジョン・カーニーが『シング・ストリート』を撮ったように(あるいはアルフォンソ・キュアロンが『ローマ』を撮ったように)ごくごく私的で、それゆえに特別な思い入れの強さとドラマとしての普遍性を感じさせる、素晴らしい傑作に仕上がっている。だから決して揺るがないものがある。監督としても脚本としても本当にいい仕事していると思う。微塵も嘘偽りのないドラマと絶妙なコメディセンスによって、多くの類似性を持った作品群を比べても出色の出来として輝いているドラメディ。演出、撮影、編集、そしてヴァン・モリソンの音楽も最高で、よく合っている。
ここで育って生きてきた。ここでならみんな顔見知りでどこでも遊べるし、面倒見てくれる。そんな場所から月=宇宙という未知なる世界・西部へと飛び立っていく。街の歴史、名もなき命たちへの尊敬の念と人生讃歌。ベルファストの空模様や寒々しさを表すようなモノクロ撮影と正面から捉えた撮影の相性良すぎて既に名作感あるし、そういう歴史あっての現代や映画の映像のカラーの挿し込まれ方も実に自然かつ秀逸で意味を感じる。日本での公開は結果的にウクライナ情勢とも重なってしまったけど、本年度賞レース賑わせていた作品としてはスピルバーグ版『ウエストサイド・ストーリー』とも通ずるものがあるテーマ。

勝手に関連作『シング・ストリート』『ローマ』『ギャング・オブ・ニューヨーク』『ラジオ・デイズ』

P.S. 流石は"老害の巣窟"ことシャンテ…。隣には"鼻フンお笑い老害(おじさん)"がいて、事あるごとに"分かってますよ"感アピール含めオーバーに笑ってみせたりしていた。『リバティ・バランスを射った男』『真昼の決闘』等など劇中で出てくる映画のシーンとかでいちいち笑うの意味不明すぎるし。

とぽとぽ