「老いと愛と建物と出会い」金の糸 redirさんの映画レビュー(感想・評価)
老いと愛と建物と出会い
岩波ホールがいよいよラスト間近ということで、このシアターの赤い椅子で見るだけでも映画に付加価値がつく
ジョージア、旧ソ連の影をさまざまに背負う人生の終盤。
失われた時を求めて。
求めても戻ることはないがそれでも手に入ることもあるのだ、と最後幻想のタンゴを踊る。
中庭がある集合住宅。どこかアジア的で完璧なプライバシーがない空間。喧嘩も丸見え。住民は皆知り合いで世代を超えた大声での呼びかけたり、そっと見守ったり、目配せもある。そこで人は出会い育ち気配を感じ、人生の軌跡を残す。
電話でやりとりする古い恋人。さまざまな感情の往来があるが、わたしたち、という一言が全てを拾い繋げ、人生最後のひとときに、失われた時が失われていないと感情溢れる。
つらい母のシベリア強制収容も、権力を持っていたものとの確執も、自分を重ね祈るように慈しむひ孫の未来さえも繋がることができる。
衝撃的なパンの人形、極寒シベリアに佇む絶望の母子たち
パステルナークの詩、路上のタンゴ、バルコニーの植物、幼い子の詩の朗読や歌声、赤い髪、ブロンドの元官僚老女の歩き方彷徨い、、
心に残る作品。そしてこれはまさに岩波ホール向けの作品。
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