「母と娘、深い関係」母性 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
母と娘、深い関係
戸田恵梨香と永野芽郁と言うと人気のTVドラマがあったが、いつもの事ながら…。
でなくとも、綺麗で可愛くて実力もある二人の共演は惹かれるものあるし、何より湊かなえの小説の映画化。いつまでも『告白』級を期待するのは酷だが、それでもやはり期待してしまう。
この秋、実は結構気になってた邦ミステリー。
だけど本作、ドラマファンは勿論、湊かなえ印のミステリーとしても、アレ?…と思うのではないか。
勝手に先入観を抱いてしまった方も悪いが、本サイトの的外れの解説も悪い。
女子高生の首吊り自殺遺体が発見され、これが永野芽郁。
発見したのは、母・戸田恵梨香。
事件は何やら謎めき、この母娘の間に何があったのか…?
食い違う母の証言、娘の証言。真実は衝撃と大どんでん返し…。
…っていう、THEミステリーだと勝手に思い込んでいた。
そもそも自殺した女子高生は永野芽郁ではない。あくまでこの事件は本筋へのきっかけ。
この事件を知った永野芽郁演じる若い女性が、自分と母の関係を回想していく。
母の証言と娘の証言と二人の証言から。
戸田恵梨香演じるルミ子。お上品なお嬢様。時代設定は定かではないが現代ではなく、昭和後期辺りか。
出会いがあって、結婚。娘・清佳も産まれる。
お洒落な家で絵に描いたような幸せな暮らし。
が、ルミ子から幸せさを感じられない。夫や娘と触れ合っていても。
彼女が幸せを感じる時。それは、実母といる時。
男だったらマザコンと言う所だが、この母娘の関係性は何と言うのだろう。
とにかくルミ子の実母への愛が異常なほど。母を愛し、愛され、喜ばれ、奉仕するのが何よりの幸せ。
一方、自分の娘に対しては…。妊娠した時、お腹の中の生き物が私の血肉を奪い、お腹を破って出てくるなんて言うからして、自分が母親になるなんて思ってもなかったよう。
実母は初孫の清佳を愛してくれる。それに嫉妬すら滲ませる。市販のプレゼントが欲しいと言った時、実母お手製のプレゼントが拒まれているとさえ思い込む。
私は永遠に母の娘。それは確かにそうかもしれないが、度を過ぎている。
特に驚愕したのは火事のシーン。タンスに挟まれ、身動き出来ない実母と清佳。ルミ子が助けようとしたのは、実母。子供は死んでもまた産める。お母さんはお母さんしかいない。…いやいや、娘だって同じ娘は産まれない。
助かったのは清佳の方。記憶が朧気。
しかしこの時、衝撃的な事が…。
これ以降、母と私の関係は…。
夫の実家に身を寄せる事に。
義母は口うるさく陰湿な鬼姑。ルミ子には冷たく当たり、こき使い、清佳にも厳しく、自分の娘には甘い。
高校生になった清佳は意地悪な祖母や堪え忍ぶ母に疑問や不満。
母を庇おうとして祖母に口答えしたら、母から叱られる始末。
もっとおばあ様を敬いなさい。
実母を亡くしたルミ子の母親への献身は、義母へ。
あからさまに嫌われ邪険にされても、尽くして尽くして尽くし尽くす。
一方の清佳も母の愛情を欲す。母の教え通り誰かに親切にするが、母からの心底の愛は…。
義母の実娘が駆け落ちして家を出た事から、家の中の雰囲気はさらに険悪に。
助け船すら出さない夫。そもそも結婚当初から愛情はあったのか疑問。清佳は父の浮気を知る。浮気の理由は、堪え忍ぶ妻の姿がしんどいから。
清佳は火事の時何が起きたか知る。私を助ける為、祖母が…。
あるシークエンスが、ルミ子の証言と清佳の証言では食い違う。ルミ子は娘を抱き締めたと思い、清佳は母に首を絞められた、と。
先入観で抱いていたミステリー要素でここがポイントかなと思ったが、そうでもなく。
主軸は、愛憎渦巻き、息が詰まるような母と娘の関係。
“イヤミス”の女王と呼ばれる湊かなえ。本作はイヤミスらしいイヤミスではないが、それとはまた違う心地悪さがあった。
本作には様々なタイプの母や娘が登場する。
聖母のような愛溢れる母。それ故に、娘はその愛を異常に欲し…。
ステレオタイプのような意地悪姑。しかしあるシーンでのルミ子への叱責に、ルミ子より母親らしさがあるとも思わせた。
実母を愛し、我が子を愛せない母。いつまでも誰かの娘でいたい。
そんな母との関係や愛に苦悩する娘。大人の顔色を窺う。
戸田恵梨香のくたびれ感や内に秘めた複雑な感情、永野芽郁の純真さ、大地真央の愛情深さ、高畑淳子の強烈インパクト…女優陣の熱演/怪演は見応えあり。
清佳の少女時代の子役は、ひょっとしたら永野芽郁以上の巧さ。
本当に何度も忠告するが、事件絡む本格ミステリーを期待してはいけない。
期待外れとかつまらなかったとかではないが、どうしても拭い切れぬ思ってたのとは違う…。
おそらく、男が見たらいまいち分かり難いのだろう。ましてや妊娠などしないし。
女性だったら抉るほど何か感じ、響くのかもしれない。
その監督に廣木隆一はちと合わなかった気がする。作品にムラがあるは元より、女性を主人公にした作品は過去にあっても、本作の描くテーマとはまるで違う。それに、サスペンス/ミステリーにも乏しい。
本作が女性監督だったら、例えば男女の主人公問わず人を深く描く演出に長ける西川美和監督とかだったら…?
女性ならではの視点で、おそらくまるで違う作風になっただろう。
劇中の印象的な台詞。
女には二種類いる。母と娘。
母でいたいか、娘でいたいか…?
誰かの娘として産まれる。愛される。妊娠/出産し、今度は自分が母になる。愛す。
ここが本作の要だろう。湊かなえが“これを書けたら作家を辞めてもいい”とまで言った突き付けたテーマ。
単純な男とは違う女性の心情。
母性とは何処から来るのか。持って生まれたものか、育まれていくものか。
父性なんかよりずっと深い。
母性とは深い。