「母性」母性 jq6juさんの映画レビュー(感想・評価)
母性
人の娘でもあり、人の母でもあるので公開前から気になっていた映画。
母娘それぞれの視点からそれぞれの抱く思いを観ていくのはとても考えさせられました。母の想い、娘の想いどちらにも共感が出来、どちらの苦悩にも納得できました。
いつも認めてくれる、欲しい言葉以上の言葉をくれる大地真央演じる実母の喜ぶことをしたいと思う戸田恵梨香演じるルミ子。
ルミ子のやること全てが実母を喜ばせることに通じていて娘時代はそれはそれは幸せそうな…。交際や結婚も自分の印象や想いではなく実母の評価で180度考えを改める。並の娘ではありません。永野芽郁演じる清佳を授かるも自身が母になることを受け入れられない。出産も母を喜ばせるため、だから生まれてからも清佳が実母を喜ばせる行動は褒め称え、そう行動するように教育していく。
総てにおいて実母が中心に居るかのような行動に異常性を感じましたがそこが良かった。
目上の人に認められたい、喜んで欲しい。この気持ちが痛いほどわかります。私自身そんな子供時代を過ごした記憶が呼び起こされました。
娘の清佳に対してルミ子目線では優しく、諭すように、道を示すように語りかけて育ててきた。そんな視点がなんとも辛い…
その後、自宅での災害で実母が亡くなるとルミ子の心の安寧がなくなり、更に清佳との心の距離が離れていく。
第3者として端から観てると何故清佳の気持ちに気がつかない?と思われるシーンも当事者ともなればこうなるのかもしれないと思わせる戸田恵梨香の演技に私はすっかり引き込まれてしまいました。幸せな娘時代、穏やかな新婚生活、災害をきっかけに荒んでいく容姿疲れきった姿それでも自分の置かれた環境に順応しよう、お世話になっている高畑淳子演じる義母に認められよう、好かれようとしている姿にルミ子とはこういう人間なのだと見せつけられました。とても良かった。良いか悪いか正解や間違いではなくルミ子は一つ芯の通った人間だと。
一方ルミ子の娘、清佳。清佳からすればおばあちゃんである大地真央は無償の愛を与えてくれる存在。しかし大好きな母(戸田恵梨香)は…言葉を繋げないところに幼いながら感じるものがあったのでしょう。母が何をすれば笑い掛けてくれるか、どうすれば優しく接してくれるか、母が大好き過ぎた故に感情を汲み取りすぎたのか母の顔色を伺う子供へとなっていく。
子供の頃にはよくありがちな自分の考えが大人には伝わらない現象。私も子供時代には何度かありました。大人になってからあれは…と思い返せますが、その時は何故母の機嫌を損ねたのかわからない時があったりもしました。映画では小鳥の刺繍とキティちゃんが描かれていてとても共感できる部分でした。このシーンでルミ子が絶望したかの様な驚きの表情と手元から誤って落ちてしまう弁当箱、打って代わって清佳の回想でのルミ子鬼の形相と叩きつける行動の違いに双方の主観がこの差を生んでいるのだろうと思われます。
おばあちゃんが亡くなってからの清佳もまた苦労の連続。母が話を聞いてくれるとかわいそうな同級生を助けてあげた話したり、住んでいる田所家の祖母から酷い仕打ちを受ける母を助けようと口論になったり。「かわいそうな子は助けてあげなさい」の母の言葉に従い従姉妹を助けてあげたら…。
やること為すこと全てが裏目にでる、どうして母は喜んでくれないのか、愛されないのか、どうすれば、何をすれば。娘の清佳の気持ちも痛いほどわかります。やはり母を追い求めてしまうものなのでしょうね。その根底にはただ愛されたい。清佳の愛とは撫でてもらうや優しく微笑んでもらったり話を聞いてもらったり。そんな小さなことで良かったのでしょう。自分が幼かった頃思ったことと一緒でとても切ないです。
どこまで行っても愛がすれ違う母と娘。
辛い。どちらもどちらの視点もその立場ならそう思うのではないのかと納得してしまう。ただ辛い。どこまで行っても辛い。
しかし、ふとルミ子がこうなってしまったのは実母のせいなのでは?と思ったり。極度のマザコンでしたから…中々娘のマザコンはいないです。
ルミ子にしても清佳にしても母を求めていました。まるで呪いのように。だからこの作品は私にとってはとても良く、母と娘の見えない関係を形にしてくれた素晴らしい映画でした。清佳も映画終盤母になろうとしていました。清佳はどんな母になるのか?良くも悪くも実母の教えは引き継がれます。そして自分がして欲しかったことをしてあげたくなりもします。子供の頃の自分を慰めるように。
私も母としてそうです。他の方はどうかわかりませんが、この作品は自分の事を描かれているような錯覚を起こし、感情移入の激しい作品でした。辛くしんどい内容ですが、心に余裕と力があるときならば呑まれることなく観れるのではと思います。
1つだけ気になったのはルミ子の懺悔の時の最後、私が間違っていたと言った言葉が引っ掛かり原作を購入しました。
その事に関しては原作になかったので映画のオリジナルかな?と思っています。
コメントありがとうです。
レビュー拝読いたしました。実体験が上乗せされる分、ダイレクトなレビューのように感じました。
「呑まれる」との記述があり、感性に突き刺さる作品だったのだと改めて思えました。
私事ですが、娘が母になった時期でもあり、どこかファクション以外の部分を感じていたのかもしれません。