「単なるラブコメではない、奥行きのある作品」マリー・ミー 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
単なるラブコメではない、奥行きのある作品
超有名なロックスターと無名の一般人とのシチュエーションラブコメディである。虚像を売って名声と高収入を得るスターのキャットと、実像でフランクに暮らす一般人チャーリーとの間にはギャップがある。チャーリーはそれをひしひしと感じ、とても無理だと最初からキャットを相手にするつもりはない。キャットの方にはそのギャップの感覚はない。このあたりはとてもリアルである。
どんなふうにドラマにするのかと思っていたら、なるほど上手いこと繋げるものだ。キャットにはロックスターとしての生活があるが、チャーリーにも数学の教師としての生活がある。そしてチャーリーは、キャット側の要請よりも自分の生活を大切にする。キャットは自分を中心に世界が回っているロックスターであり、自分に合わせようとしない人間がいることが不思議だ。
物語はチャーリーの生活とキャットの生活のそれぞれに振り子のようにシーンを交代しながら進んでいく。互いの生活を理解し合うことで、最初にあったギャップが少しずつ埋まっていく。それが本作品の主眼だと思う。
異なる世界観の二人が、互いの生活を認め合うことで、二人以外の人々の人生も尊重するようになる。つまりヒューマニズムに目覚める訳だ。アメリカ映画らしく家族第一主義ではあるが、キャットのスタッフたちにもそれぞれの人生があることに目を向けているところがいい。
チャーリーの娘ルーがカーリーヘアで、チャーリーの別れた妻が黒人であることがわかる。キャットはプエルトリコ人という設定(?)だから、移民問題についても薄っすら感じられる。格差、人種差別、移民問題という現代アメリカの病巣を背景にしている訳だ。単なるラブコメではない、奥行きのある作品だと思う。