「合奏とはなんて素晴らしいんだ」BLUE GIANT 曽我部恵一さんの映画レビュー(感想・評価)
合奏とはなんて素晴らしいんだ
大ヒット漫画の映画化。と言っても自分は未読で、内容もほとんど知らぬまま劇場へ。
好きな絵と苦手な絵があるとすれば、後者になるのかもしれない。人物の動きがちょっと野暮ったいな・・・。などと思ったのも束の間、物語りの中に強引に引き込まれてしまった。主人公・宮本大が、バンドメイトとなる沢辺雪祈の前で初めてサックスを吹く場面がきっかけで、それ以降はこの青春の熱情のなかに完全に捕らわれてしまった。
音楽を扱ったコミックが実写化される際の永遠のテーマとも言える<漫画で描かれたあの素晴らしい音を、どうやって実際の音として鳴らすのか>。前述した場面で、この映画はそれを完全な説得力を持ってクリアしたのだった。
漫画では読者の想像力に委ね、無限大に広げることができる音楽も、実写ではそうはいかない。生身の人間が演奏したリアルな「音」にならざるをえない。
実写版では歌が聴こえなくなる、とか、そもそも音楽自体の神秘性からは逸れたところに物語りの主軸を置く、など過去の音楽漫画実写化は苦労を重ねてきた。しかし、この映画はその難題から逃げることなく、最高のプレイと楽曲、そしてアニメーションの熱量という当たり前のワザをもって正攻法で正面突破した。音楽担当・上原ひろみの才能の巨大さを思い知らされるところでもあった。すべての演奏シーンにサイケデリックなまでの幻想とリアルな歓喜が宿っている。
音楽がもたらしてくれる感動の言葉にできなさ、それがアニメーションの中でありありと観るものに伝わってくる。
”When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You can never capture it again. ー 音楽は流れたら空中へ消えてしまう。そして再びつかまえることはできないのだ”
エリック・ドルフィーのこの言葉を思い出した。その「空中へ消える」さまを、このアニメーションで初めて目にした気がした。
シンプルなストーリーの上にある、純然たる「音楽映画」。家に帰ったら、爆音でドルフィーやコルトレーンを聴きたくなった。
そしてこの映画は音楽そのものの素晴らしさを伝える以上に、合奏の素晴らしさ、人間と人間が音を出し合うことの素晴らしさを教えてくれる。特に音楽をやる者にとっては、最高のご褒美のような映画だった。
宮本大役の山田裕貴、沢辺雪祈役の間宮祥太朗、玉田俊二役の岡山天音の声優陣もハマっていた。この声じゃなきゃ、と思わせてくれる。