「十戒を破ったマリア」LAMB ラム かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
十戒を破ったマリア
神の子とくればメッシ?だが、神の子羊とくれば言わずと知れた主イエス・キリストである。そういえばメッシの顔もどことなく半羊人間アダちゃんの顔に似ていなくもないが、話がややこしくなりそうなのでこのくらいにしておこう。じゃあ、クリスマスの夜に“何か”によって妊娠させられた母羊から取り出された子供はイエスの分身なの?そこに留意するよりも、その半羊の赤ちゃんに死んだ子供と同じ名前をつけて、大切に育てようとした主人公マリア(ノオミ・ラパス)の行動に着目した方がより分かりやすい作品だろう。
聞けばこのノオミ・ラパス、6才になるまで映画の舞台になっているアイスランドに実際住んでいたそうでアイスランド語を話せるんだとか。鼻息荒く?巨匠タル・ベーラと共に製作総指揮までつとめている。実際人間よりも羊の数の方が多かった時代もあったアイスランドの、手つかずの荒々しい大自然をとらえたショットはお世辞抜きで美しい。そこで暮らす人間の小ささを強調したカットを多用した長編監督デビュー作で、若き映画監督ヴァルディミール・ヨハンソンは一体何を表現しようとしたのだろう。
ラストに姿をあらわす“何か”の造形や、飼われている羊さんたちを不気味に描いたタッチがロバート・エガース風なため、本作をホラーやスリラーにジャンル分けする人も大変多かったという。が、主人公の名前マリアや、羊飼い夫婦という設定、アダを抱きかかえたポスターの図柄やピエタを完全に意識した構図、そして嘆きのラストシーン....本作はやはり、某評論家が大好きなキリスト教、それも聖母マリアの受難を現代風にアレンジした作品だろう。
本当の母親からアダを盗み、アダを取り返そうとしたその母羊を殺害、夫の弟と不倫寸前までいき、おまけにその弟を騙して部屋に幽閉してしまうマリア。「アダは神からの授かり物よ」とは言いながら、十戒を次々と破り神=大自然に感謝しようともしないマリアに、天罰がくだるのはもはや必至だったのだろう。白雲?をバックにしたラストシーンのマリアの複雑な表情に是非ともご注目。今まで自分がおかしてきた七つの大罪を、顔の表情だけでみせようとしたラパス渾身の演技をとくとご覧あれ。