劇場公開日 2022年9月23日

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「貸し借りが均衡する世界」LAMB ラム 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0貸し借りが均衡する世界

2022年10月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2021年。バルディミール・ヨハンソン監督。アイスランドの田舎で暮らす中年夫婦。ある日、飼育している羊が生んだ赤ちゃん羊は下半身が人間だった。その子を自分たちの子として育てる夫婦の話。
超越的な存在が人間に試練を与える話だと思いこんでいたが、最終的にその存在が姿を現すことで一気に話が具体的に収斂していく。謎がなくなる。ネタがばれてみれば、貸し借りが均衡する、ある種の正義の物語だったということになる。もっと不気味な、ミヒャエル・ハネケのようなものを想像して見ていたのだが。
与えたら奪う、与えられたら奪われる。羊赤ちゃんを産んだ母羊を殺したので、夫は殺される。羊ー人間ー羊人間の関係のなかで均衡が成り立っている。人間中心主義批判であることは間違いないが(失った娘の代わりとしての羊赤ちゃんへの思いやりなど羊人間にとっては意味がないし、妻と義理の弟に流れる微妙な感情の流れも意味がない)、ずれのない均衡した貸し借りの世界は近代以前の中世的な正義の表れのようにみえる。
もちろん、羊人間が見えてしまうと怖さは減る。しかし、人生の無常さの具体性は増す。人知を超えたモノが具体的に存在する世界では、人間の生活や感情など大した意味を持たないのだ。最後の主人公の嘆息はそうした「人生」を見てしまった人の嘆息だろう。

文字読み