「ワケ知り顔の映画ファンほど、ハシゴをはずされて感涙」こんにちは、私のお母さん Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ワケ知り顔の映画ファンほど、ハシゴをはずされて感涙
「こんにちは、私のお母さん」(原題:你好,李煥英/英題:Hi, Mom)。
“いわゆるタイムリープものでしょ”と、ワケ知り顔の映画ファンほど、エンディングの意外性に肩透かしを喰らう。世界中の母親たちの無償の愛を観客は思い出し、涙を引っ張り出されるはず。ただものでない感動コメディの日本上陸である。
中国で人気の喜劇女優ジア・リンが自らの実話を初監督・脚本・主演を務め、世界興収900億円を記録、パティ・ジェンキンス監督の女性監督としての世界記録『ワンダーウーマン』(2017)を抜いた。“女性監督”というエクスキューズを除いても、本作はサム・ライミ版『スパイダーマン』(2001)、クリストファー・ノーラン監督『インセプション』(2010)並みの世界的メガヒット作品である。ちなみに国内記録の『鬼滅の刃 無限列車編』(2020)の2倍以上!
日本では、2020年のコロナ禍で洋画が軒並み公開延期となる中、結果的に国内のスクリーンの穴を埋めたアジア映画がその魅力を発信するには好機となった。とりわけ中国映画は2021年以降の日本国内公開拡大に繋がっている。
主人公は、元気だけが取り柄で何をやっても上手くいかず、母親に苦労ばかりかけてきた娘ジア・シャオリン。ある日、母と二人乗りの自転車で交通事故に巻き込まれたことをきっかけに、20年前の1981年にタイムリープしてしまう。そこで若き日の母と出会うが、なんとか母を喜ばせようと悪戦苦闘。お金持ちの息子と結婚させようとするが、それは自分が生まれてこないことを意味することになる。
本作はジア・リン監督の亡き母親との想い出エピソードが凝縮されつつも、コメディエンヌとしての脚色と、映画化にあたってのキャスティングが見事にバランスしている。
これまでも、あらゆるタイムリープ設定が作られてきた。それがミスリードとなって、この映画を観ながら、“どうやって未来(現代)との整合性を保つのだろう”とか、“どうやってこの時代から戻れるのか”などと考えているうちに突然、その先入観のハシゴをはずされる。そして母と娘の想いの真実に、涙が止まらなくなる。
じつはタイムリープではなく、臨死状態における走馬灯のように見える過去の風景を共有してしまったトワイライト・ゾーン的な作品だ。
邦題は英題の”Hi Mom”からの直訳であり、原題「你好,李煥英」はジア・リン監督の亡き母の名前で「こんにちは、リ・ホワンイン」である。劇中でも幼少の娘ジアが庭先から母親のフルネームで呼びかけるシーンがある。まるで“クレヨンしんちゃん”が母である“野原 みさえ”を茶化すかのよう。ジア・リン監督は、ひとりの少女だった母へのリスペクトをこめたタイトルと語っている。
(2021/1/9/TOHOシネマズシャンテ/Screen1/J-10/シネスコ/字幕:本多由枝)