劇場公開日 2022年5月6日

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「異質の他者を受け入れる」マイスモールランド のむさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0異質の他者を受け入れる

2022年5月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

まず映画としての完成度の高さに驚かされる。伏線の張り方が見事である。都県境表示に二人で手形を残すシーンも、後の場面ではサーリャの今後を予感させる不穏な描写へと変化する。台詞や描写が説明的と言われる方もいらっしゃると思うが、私は一つひとつが丁寧に、複雑に絡み合ってストーリーが展開しているように感じた。これが商業映画デビュー作とは思えない、川和田監督の手腕が光る映画だ。また一つ大きな才能が日本映画界に生まれたことを大変喜ばしく思う。

この映画で描かれていることは「居場所」だ。国を持たない最大の民族と言われるクルド人はまさに「居場所のない存在」である。何らかの形で居場所を奪われた彼らに、我々日本人は居場所を与えることができるのか…。私も本作を見るまで、日本における難民を取り巻く問題にあまり関心がなく過ごしてきてしまった。これをきっかけに興味を持って調べてみたが、その不条理さ、問題の根の深さに無力感を覚えた。

川和田監督が各方面のインタビューで「知ってほしい、忘れないでほしい」と語っているのが印象的だった。知ることの積み重ねで何かが変わっていくと思う。しかし、それだけでは足りない。知ること、そして考えることは「祈り」に近いものだと思う。ラストカットにて、サーリャは祈ることを辞め、前を向いた。これは祈りを捨てることではない。祈りを胸に抱きながら、彼女は歩き出すのだろう。行動していくのだろう。だからは、私も行動しなければならない。

まず知ることから始めようと思う。そしてそれを伝えていこうと思う。本作のクルド監修であるワッカス・チョーリャク氏が営むクルド料理の店が十条にあるそうだ。ぜひ行ってみようと思う。

のむさん