オマージュのレビュー・感想・評価
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埋もれた映画を掘り起こす大切さ
ヒット作に恵まれずにいる現代の女性監督が、60年代の韓国の女性監督ホン・ジェウォンの幻のフィルムの欠落した音声を吹き替える仕事を得る。「女判事」という題名のその映画は、どうも一部フィルムも欠損しているようで、主人公はその幻のフィルムを求める旅へと出る。
知られざる女性監督の仕事を掘り起こす現代の女性監督が、失われたフィルムを求める。フィルムは記録媒体だが、残らなければ意味がない。なぜ、この監督のフィルムは失われたのか、当時の女性映画スタッフの苦難がその背景にあり、その想いがフィルムには焼き付けられていたはず。そんな想いを当時を知るスタッフを訪ね歩いて主人公が拾い上げていく。
閉館間近の映画館のシーンが素晴らしい、天井に穴が開いていて光が差し込んでしまっているのだけど、それが大変美しい光景だった。そんな古ぼけた劇場にフィルムが残っているのだが、残され方が素晴らしいというか、「そんなことがあるんだな」となんだか夢心地になった。
映画は記録であり、なおかつ幻想でもある。いろんな理不尽がありながら、映画には人を魅了する力がある、その本質の一端を見せてくれる作品。
映画を愛する人への“オマージュ”に溢れている
世界を席巻したポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」(2019)で、高台の豪邸に暮らす社長一家の家政婦を演じ、強烈なインパクトを残したイ・ジョンウンが、中年に差し掛かり、心と体の変化、夢と現実に苦しみながら人生と向き合っていく映画監督ジワンを繊細に演じ、失われたフィルムを探す旅に一緒に連れて行ってくれる。
またジワンの夫を、ホン・サンス監督作品の常連俳優であるクォン・ヘヒョが演じ、ドラマ「愛の不時着」のタン・ジュンサンが息子役で共演。シン・スウォン監督はこの俳優たちを得て、現在と過去、女性たちが時代を超えて連帯していく物語へと昇華した。かつて輝きながら時代に翻弄されて消えていった者たちへ、そして映画を愛する人への“オマージュ”が見る者の心を優しく包み込む。
展開が遅い
映画好きによる映画好きのための映画
【映画を三作公開したがヒットに恵まれない女性映画監督が、60年代の女性監督の映画”女判事”を修復する過程で徐々に人生を見つめ直す物語。余韻良き作品である。】
■今作を鑑賞すると、女性映画監督になる事の大変さが伝わって来る。いわんや、60年代であれば尚更であろう。
邦画の女性監督と言えば、西川美和監督、河瀬直美監督の名が思い浮かぶが、私の好きな監督として、荻上直子監督、大九明子監督、タナダユキ監督も忘れてはいけない。
だが、男性監督の数と比較して女性監督の一線で活躍している方は限られているし、男性でも長年助監督を務め、漸く監督になり作品を公開したがそれっきりで再び助監督の道を歩む方が多い気がする。
持論であるが、映画監督で名を成すという事は、東証一部上場企業の社長になるより難しいと思っている。
■最新映画の動員数も奮わず、投資家にも見放され、新作を撮影する目途が立たない49歳の女性映画監督・ジワン(イ・ジョンウン)。
ある日、後輩から'60年代の女性監督ホン・ジンウが残した映画”女判事”の音声修復作業を紹介され、作業を引き受けたジワンは不自然に抜けているシーンがあることに気づく。
◆感想
・ジワンは夫サンウ(クォン・ヘヒョ)と息子ボラム(タン・ジュンサン)とマンションで暮らしているが、素っ気ない夫との生活や自身の三作目の作品を見に行くがお客が全然入っていない事で、閉塞感を感じているように見える。
・そんなジワンに依頼された、60年代の女性監督ホン・ジンウの”女判事”のフィルム”で抜けていた音声を吹き込む仕事が新鮮に思え、のめり込んでいく姿。
・だが、ある日男性の声優からシーンが繋がっていない事を指摘され、ジワンが失われたシーンのフィルムを探す所から物語は一気に面白くなる。
彼女は、ホン・ジンウと一緒に映っていた年老いた女性編集者の元を訪れ、”女判事”が上映されていた古い映画館を教えられ訪ねる。そして、映画館主に導かれ映写室で古いフィルムを探すが見つからない。
だが、映写室に有った帽子を家に持って帰ると、息子のボラムが見つけた帽子に巻かれていた切られたフィルム。
そして、彼女は再び映写室に戻り、多数の切られたフィルムを発見する。
■印象的なシーン
・ジワンが、古くて天井に穴が開いている映画館の中で、穴から降り注ぐ陽光の中でフィルムを透かして見るシーンがとても美しい。
<そして、ジワンはフィルムを再生し、その過程で身体の病気も見つかるがその場で見せた夫サンウのぶっきら棒だが優しき姿や、母に”引退したら?”と言いつつ支える息子ボラムの姿。
更には、近所の駐車場で練炭自殺をした女性が乗っていた車の跡地に浮かび上がる60年代の女性監督ホン・ジンウらしきコートと帽子を被った女性の影も幻想的で良い。
今作は、心地よき余韻が残る作品であると思います。>
地味な映画だけど、何だかしんみりする
落ち込んでるヒマはない、ポジティブな主人公
正直過ぎるナマイキな堕落息子。
全く協力的でないクズ夫。
そんな恵まれて無いと感じる映画監督の主人公だが、なんか本人はそこまで落ち込んでない様に感じる。
母親として、妻として、映画業界人としてポジティブに生きるしかないのだろう。落ち込んでる場合じゃない。
そんな仕事も上手くいってない主人公の周りの仕事関係者や新たに知り合う方々は逆にいい人が多い。「自殺大国日本」の人に見て欲しい一本かも。
今はフィルム上映からDCP(Digital Cinema Package)上映になったが、昔のフィルムを探す話は今でも出来る。しかしフィルムを上映するとなると今は難しくエリセの『瞳をとじて』(2023)の様に近くに廃業したばかりの映画館が都合良く出てくるという設定は今後難しくなるのだろうか?映写機があっても映写技師がいなくなる。
関係ないが珈琲好きな私は生卵を入れる勇気はまだ無い。
どうなんだろう。今は。
<映画のことば>
「ホン監督はなぜ娘のことを内緒に?」
「娘がいると知れたら監督の話は来なかったかも。私は昔、映画会社の代表に言われた。映画より家事に専念しろと。」
「ひどいですね。ぶん殴ればよかったのに。」
失われたフィルムの復元に賭けるうちに、自分自身を、いわば取り戻していくジワン監督の姿が、とてもとても、とても素敵な一本でした。評論子には。
今ではどうということはない「あること」を女性がしていたというだけで、検閲ではカットの対象になっていたということですよね。
(ちなみに、評論子が住む都道府県では、女性が「このこと」をしている割合が、全国的にもトップクラスのようではありますけれども。)
また、この映画のヒロインが判事(裁判官)という設定も、この作中の映画が製作されたという時点では、時代の最先端という設定の斬新な、先取的な作品だったのかも知れません(それだけに、余計に厳しい検閲を受けた?)
少なくとも、当時は女性がふつうに就く職業ではなかったと推察します。評論子は。
「女性の地位向上」が言われる昨今ですし、評論子の職場でも「女性が管理職員に占める割合が◯◯%になった」などと喧伝されてはいるのですけれども。
果たして、令和の今の実相は、どうなのでしょうか。本当のところは。
いずれ、秀作としての評価に値する一本だったと思います。評論子は。
<映画のことば>
あなたは、生き残りなさい。
(追記)
まったくの余談ですが…。
ジワン監督の最新作『幽霊人間』は、タイトルからして、まず売れそうにないなぁ、と思ったのは、おそらく、評論子だけではなかったかと思います。(笑)
失われた場面を求めて
『パラサイト 半地下の家族』で家政婦を演じた
イ・ジョンウンの主演作
10年のキャリアがありながらパッとしない不人気映画監督ジワンは低予算の依頼で60年代の韓国映画の修復をすることになった
映画のタイトルは『女判事』
モデルは韓国初の女性判事
監督は韓国初の女性映画監督
中盤以降音がない
修復の手がかりを求め『女判事』に関わった人々に会いに行く
ないとされていた脚本も見つかり不自然にカットされたシーンのフィルムも見つかった
ジワンは夫と大学生の息子の3人暮らし
ジワンは子宮筋腫の悪化で自宅で倒れ病院に運ばれ翌日手術を受けた
すでに他界している韓国初の女性監督の影が時折登場する
帽子にコートにタバコ
なんか洒落ててかっこいい
なんてことはない話だ
主人公は見た目は平凡な小太りのおばさんだ
それでも飽きはしなかった
引き込まれたのはたしか
フィルムがあんなところにあるとは意外だった
検閲って軍事政権に対する批判的内容があったからではなく女性俳優が煙草を吸うシーンがあったかららしい
それくらい良いだろうよ
修復された劇中映画は無事公開したのだろうか
反響は?
ジワンが自分で人生を見つめ直す点もモヤっとしている
ちょっと残念
映画界の先人に想いを馳せて
おしゃれなポスターに惹かれて
タイトルなし(ネタバレ)
監督第3作目『幽霊人間』を公開した女性監督のジワン(イ・ジョンウン)だったが、前2作同様、ヒットの兆しすらない。
そんな中、新規オープン映画館の目玉として、先ごろ発見された60年代の映画の修復依頼の仕事がやって来る。
その映画を監督したのは、当時珍しかった女性監督。
フィルムの音声が欠損している・・・ということだったが、調査するうちに検閲でいくつかのシーンが切られていることが判明する・・・
といった物語で、韓国版『ニュー・シネマ・パラダイス』のような趣だけれど、映画愛の映画というよりも、女性映画・フェミニズム映画の側面が強い。
家庭の主婦に収まるべきといった風潮が強かった60年代の韓国で活躍した女性監督。
しかし、ジワン自身も、息子や夫からは、映画監督ということよりも妻・母の役割を求められることが多い。
3作しか撮れずにその後、消えてしまったかつての女性監督。
ジワン自身も3作目の『幽霊人間』で、このまま消えて「幽霊監督」になるかもしれない。
もう若くないし、ミドルエイジ・クライシスにも直面、壁にぶち当たりまくり。
そんな中、出逢ったのが、かつての女性編集者。
もう老女だ。
デジタル編集では、フィルムを切った貼ったの時代の女性編集者の先駆け。
編集の仕事は、とうの昔に引退しているが、余生というか何か、そんなものを愉しんでいる感じ。
とはいえ初対面では偏屈婆みたいだったけど。
と、くだんの失われたフィルムは、取り壊し直前のボロボロ映画館で見つかるのだけれど、その映画館の佇まいがいい。
電気は止められ、発電機で映写機を回す。
館内は暗いままだが、屋根に空いた穴から光が差し込んで、仄かに明るい。
(雨の日はどうするのかねぇ)
発見の経緯もちょっとヒネられていて、そこんところも微笑ましいのだけれど、「ふふーん、60年代の韓国では映画のフィルムは映画館の買い取りだったね」なんて、別のところに関心が移ってしまったりもします。
日本では、配給元へフィルムを返却し、その後、配給元の方でジャンクされるのが通例。
(稀に返却しない館もあったので、80年代くらいまでは配給期限が切れていると思しきボロボロフィルムをかけている館もあったのはあったが)
で、本作で感心したのは、発見されたフィルムを繋いで観たところ。
主人公の女性がタバコを吸うのを背後から写しただけのシーン。
「女性がタバコを吸うシーンは、公序良俗に抵触、よって検閲で切られた・・・」とはビックリ。
虐げられていたといえど、こんな些細なことで・・・ と心が痛む。
が、現在では、どうなのか。
そんなに変わらないかもしれないよね。
そう感じるのは、ジワンが子宮筋腫で子宮摘出手術を受け、退院する際、夫に「これでやっと同志だ、ヘイ、ブラザー」という台詞に現れているように思えたから。
やはり、映画愛<フェミニズム、という感じですね。
前半寝落ちしてしまった。
最近の映画好きには刺さらない?
タイトルなし(ネタバレ)
映画「パラサイト半地下の家族」の家政婦さんドラマ「他人は地獄だ」の大家さんを演じたイ・ジョンウンさんが主演……ということで観に行ってみました。
なぜわざとストレートパーマあてたような不自然なオカッパ頭?と思ったら監督に似させていたのですね。インタビューを読むと監督の体験を元にしたお話みたいで。
最初の15分ぐらいは筋が動かず陰気な邦画みたいでこのままおわったらどうしようかと。
大学生の息子とはお母さんの背中に乗ってくる、オカズが用意されててもご飯の支度を要求するほど幼いものでしょうか。
主人公が識字に問題ありかと思いきやおそらく「老い」を現してたのでしょうか。
「生活費振り込んで」と言ってるから離婚してて元夫に養育費を請求してるのかと思いきや普通に同居の夫婦。
家父長制の名残が根強い国(日本も近いものがある。儒教なんか取り入れて迷惑)で女性の大変さを描いているのは分かる。
しかし映画では食えず生活費は夫に頼って家事もおざなりでは男性からは「女は楽でいいよな」と言われかねず、独身女性からみても「主婦の趣味」にしか見えなくなる。
要手術の子宮筋腫の症状を見せたのはよかった。韓国の映画ドラマはリアルな診察とか症状をちゃんと見せるイメージ。
ストーリーとしては韓国初の女性映画監督を追っていくあたりから面白くなっていきました。元編集で今は一人暮らし高齢女性役のイ・ジュシルさんが上手くてリアルでかっこいい。韓国の映画界は「リアルな中高年、高齢者」を演じられる人が豊富ですね。
ただ「これで終わりかー」と。もうひとひねりほしかった。全体に少し物足りなかったです。
盛り上がりに欠ける
韓国初の女性映画監督の作品を復活させようということになり、色々と調べていくと「そんなことが、あったのか」と分かる話なの。
「そうだったんだ」とは思うけど、それ以上のものは感じなかったかな。
今度は韓国から届いた映画愛の物語。
①最近発表された最新の調査では、世界20数ヵ国の中で女性の管理職・議員の数では日本はドベから二番目でドベは韓国だった。
②儒教の影響が強い国はやはり男尊女卑というか女性は家にいろ、という考えがなかなか抜けないのだな。日本も安土桃山時代まではそこまで酷くなかったのに、徳川幕府が江戸時代で朱子学なんてのを統治思想の中心においてしまったので現代に至るまでこの有り様。
韓国も儒教はもともと(というか正確には新羅が唐の力を借りて朝鮮半島を統一した後で、特に属国にされた明代・清代)からだろうけど、本家は共産主義を統治思想にした中華人民共和国になってから完全に男女平等社会になったのは皮肉な話。
③『幽霊人間』なんて“題名からして客が入らんやろ”という映画を最後に監督が出来なくなる瀬戸際に立たされている中年女性のヒロイン。
“女は夢なんか追いかけるな。夫と子供のために家にいろ。”と思いきり封建的なことを言われ、年齢的にも身体に不調をきたしている。その中で依頼された1960年代の女性監督の最後の作品の後半の声入れを行い、またその失われた部分のフィルムを捜すうちに、現代より更に男尊女卑が酷かった時代で苦しみながらも夢を追いかけていた女性たちの人生を追体験することで、もう一度夢に向かって歩き出す姿を映画ならではの手法も交えて描き出して行く。
④1960年代の韓国映画史に中の女性監督の姿を描く映画かと思いきや、映画賛歌+“女性だって夢を持って良いじゃない”という話になっているのに心が暖かくなる。
⑤然し、全く互いに関連がなく製作された筈の、“映画館と光”“光とフィルム”“フィルムと編集”を描いた『ザ・フェイブルマンズ』(アメリカ)『エンパイア・オブ・ライト』(イギリス)、そして本作『オマージュ』(韓国)が2023年のほぼ同じ時期に日本で公開されるのも一つの映画の奇跡?
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