劇場公開日 2022年1月14日

  • 予告編を見る

「マン・フォー・グッチ」ハウス・オブ・グッチ ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5マン・フォー・グッチ

2022年2月17日
iPhoneアプリから投稿

長いけど膀胱がもってくれたのでさっくり観られて楽しめました。ベタな80年代アンセムでテンポのいいシーンと、対照的に音楽なしでシリアスなトーンの対比が鮮やか。全体的にとても冷めてるので、見やすいといえば見やすい、人によっては食い足りないかもと思うほどでした。
最近のスピルバーグ同様、手だれのキャストばかりが出てくるので、あまり肩に力を入れなくてもさくっと撮れてしまうのでしょうか。
みんな良かったけど、やっぱりアルパチーノの魅力、キュートさは群を抜いてました。
公開時に民放で観た再現ドラマと違って、「パトリツィア=世紀の悪女」のように押し出してはいないのが妙に骨肉の争いをさわやかに感じさせているのかも。主眼はむしろマウリツィオの話だという気がしました。

前世紀の話ですが、かつてトムフォード時代のグッチにラッシュフォーメンというヒノキベースのメンズの香水がありまして、廃番後の今でも高値で取引されているのですが、言うなればマウリツィオはパトリツィアの画策によって作られた「グッチの男」。

ちょうど最近ネロを扱った海外ドキュメンタリーを観たのですが、マウリツィオとパトリツィアの関係性にはネロとアグリッピナ(母)の結末が見ようによっては親殺しのハッピーエンドであるのと対照的なバッドエンド感が漂います。

マウリツィオが操り人形になることを拒んで造物主たるパトリツィアに逆らい、あえなく撃ち殺されるところが「プロメテウス」以降のサーっぽいと思うのであります。

なお初めて実家(豪邸)に招かれたパトリツィアがクリムトの値打ちがわからないのは彼女に教養がないのみならず、グッチ家(≒男社会)においては彼女自身が壁を飾り人の目を楽しませる美術品と同等であり、またそのことに無自覚であるという寓意なのでは、と思うのであります。

ちなみにトムフォードもゲイなのでホモソーシャルな男社会においてイレギュラーな存在ですが、彼によってグッチは世界的なメゾンへ復権したという皮肉なのです。
ゲイカルチャーというのは冒頭のパーティシーンやトムフォードのランウェイにおいて尻を丸出しにしたスタイルを強調するシーンなどから意図的に打ち出されていると思います。
それは男もまた性的に見られ、客体となることから逃れられないのだ、という御年84歳のサーからのメッセージでしょうか。。

ipxqi