「華麗なるグッチ一族を途絶えさせた女のお話」ハウス・オブ・グッチ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
華麗なるグッチ一族を途絶えさせた女のお話
広告に金掛けてるのか、あちこちでコマーシャルを見掛けますし、実話を基にしている作品ゆえに完全に事前情報無しで観るのは難しいと思いますが、あまり事前情報は入れないようにして鑑賞した方が楽しめる気がします。脚本も演出も役者陣も、おそらく今上映されている映画の中でもトップクラスに優れているのは間違いないので、ぜひ内容を知らない状態で鑑賞してください。
以下にはネタバレ含みます。
「グッチ」と言えば、誰もが知る高級ブランド。グッチオ・グッチにより創設され、バックや靴などの革製品から、香水などに至るまで、ファッションに関わる様々な製品を販売している企業です。
元々はグッチ一族による家族経営の企業でしたが、現在ではグッチ一族は全員亡くなっており、今は会社の運営には一切関わっていません。これは1995年に起こったとある事件が関係しているのですが、本作はその1995年の事件が起こるまでを描いたサスペンス映画です。
結論から言えば、人間の恐ろしさや浅ましさをしっかり描いた非常に上質なサスペンスに仕上がっていたように感じました。本作は昨年のリドリー・スコット監督の作品『最後の決闘裁判』にも通じる部分があり、159分という長さを感じさせないほど、中だるみなどなく最初から最後まで楽しめる素晴らしい作品でした。
・・・・・・・・
父親の経営する小さな運送会社で事務員として働くパトリツィア(レディー・ガガ)は、ある晩に参加したパーティーで、世界的ファッションブランド「グッチ」の創設者の孫にあたるマウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)に出会った。パトリツィアは、遊び慣れしていない純朴なマウリツィオに言葉巧みに近づき、二人はやがて付き合うようになる。マウリツィオは父親であるロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)からの反対を押し切りパトリツィアと結婚するのだが、次第にパトリツィアは本性を現し、グッチの運営の邪魔者であったマウリツィオの叔父にあたるアルド・グッチ(アル・パチーノ)やその息子のパオロ・グッチ(ジャレット・レト)をグッチの運営から追い出す画策を始めた。
・・・・・・・・
実は、私は本作の基となった事件については全く知りませんでした。事件が発覚したのが1997年ですので、1991年生まれの私はニュースを見たかもしれませんが全く記憶にありません。
レディー・ガガ演じるパトリツィアを最初に観た時は「ガガ様は派手だなぁ」と思いましたが、鑑賞後に実際調べてみるとパトリツィア本人はガガ様に負けず劣らず派手でした。
主演のガガ様以外のキャストもめちゃくちゃ豪華で、アダム・ドライバーは監督の前作『最後の決闘裁判』でも主演でしたね。アル・パチーノやジェレミー・アイアンズなどの重鎮も度肝を抜かれましたが、個人的に一番驚かされたのはパオロ・グッチを演じたジャレット・レト。彼の出演作は観たことがありませんでしたが、有名な俳優さんなので顔は知っていました。しかし本作のパオロ・グッチは6時間に及ぶ特殊メイクを施しているので、もはやジャレット・レトの原型を留めていません。禿げでデブなキャラクターになっていました。驚きです。誰もジャレット・レトとは気づかなかったんじゃないですかね。
何故、パトリツィアは夫を殺害するに至ったのか。その事件の裏にある愛憎や陰謀がありありと描かれていて、ド派手な演出も相まって、映画が進むごとにどんどんストーリーが盛り上がっていきます。159分と言う長い上映時間の間、飽きることなくスクリーンに目が釘付けになるような物語の緩急の付け方は見事。終盤まで大きな事件は起きないのに、グッチ一族の間やマウリツィオとパトリツィア夫婦の間にじわりじわりと不和が生まれてくる様子は目が離せません。
私は実話を基にした作品で、「既に死亡した人物を必要以上に悪として描く」行為に批判的立場を取っています。例えば『リチャード・ジュエル』の女性記者や『スキャンダル』のFOX社長。映画的なカタルシスのためだけに既に亡くなった方を必要以上に悪として描くのは、死人に鞭打つ行為に思えてしまって私は好きになれないんですよね。
本作も登場人物に既に亡くなった方も多かったため警戒しながら鑑賞したのですが、そういう描写が無くて安心しました。パオロ・グッチがかなり無能に描かれていましたが、後から調べてみると彼は一時的にグッチの経営を担っていた時期があったのに、彼の経営戦略の失敗による業績悪化で会社から追放されたとのこと。マジで無能だったみたいです。
本当に面白い作品でした。上映時間が長くて人間関係が複雑な作品ゆえに、最後までしっかり集中力を持続して鑑賞するのは映画館での鑑賞がベストだと思いますね。後々サブスクで配信されて自宅で鑑賞しても集中力が続かない気がします。間違いなく本作は「今、映画館で観るべき作品」でした。オススメです!!!