劇場公開日 2022年1月14日

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「有害な女らしさを描いた令和の怪作」ハウス・オブ・グッチ サブレさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0有害な女らしさを描いた令和の怪作

2022年1月16日
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鑑賞方法:映画館

これは悪女による傾国の物語だ。正確には傾いたのは国ではなく会社だし、最終的にグッチ一族がグッチからいなくなったのは悪女と関係ない部分ではあるが。
しかし作中で描かれる乗っ取りプロセスは傾国の悪女そのもの。時には自ら手を下し、時には夫を唆し、次々とグッチ一族を会社から追放する。その基準は自らの欲望の障害となるかどうかでしかない。恩義があろうが容赦なく切り捨て、思い通りにならなければ愛する人ですら殺害する。
悪女としかいいようがない。権力者にそっと耳打ちして忠臣を始末する様は妲己や末喜のを彷彿とさせる。その悪女を見事に演じきったレディーガガの胆力。悪女に騙されても仕方がないかな、と思わせるアダム・ドライバーの役柄。見事なキャスティングだった。

しかしTRUST WOMAN時代においてこのような「有害な女らしさ」全開の映画を作ったリドリー・スコットの慧眼に感嘆させられる。
この映画では、パトリシア・グッチは純然たる被害者なのだ。被害者が自らの権利救済のために家父長制に染まった男連中に復讐するのは成功譚ではあるが、悪女列伝ではない。途中で夫のマウリツィオから悪行(のように描写されたパトリシアの言動)を詰められるシーンがあるが、あれはハラスメントであり、女性を傷つける悪しき行為だ。パトリシアが己の被害に涙するのも仕方ないだろう。
…と、ハリウッドのポリティカル・コレクトネス好きたちはそう解釈する。「女の遊びじゃないんだ」という言葉も飛び出したことだし、間違いないだろう。普通の人達からしたら悪女以外の何物でもないが。とにかくこれで堂々と「有害な女らしさ」を描けるというわけだ。

パトリシアの卑劣な乗っ取り作戦は「ハンバーガー帝国の秘密」を彷彿とさせる。しかしあちらと異なるのは、徹底的に目的が名誉であることだ。金ではない。自分がキラキラしていることが何よりも大事だった。金はその要素のひとつでしかない。
その欲深さがこの映画を上等なサスペンスへ昇華させている。美女の強欲が物語の魅力として異質な光を放つ瞬間を見せてもらった。

サブレ