「屈身ついでにレディー・ガガ」ハウス・オブ・グッチ スモーキー石井さんの映画レビュー(感想・評価)
屈身ついでにレディー・ガガ
本作はレディー・ガガ演じる悪女パトリツィアが自身の「屈身」・・・いや「屈折」とともに
わが身もろとも華麗なるグッチ一族を崩壊させた「3代目グッチ社長暗殺事件」から着想を得たという血なまぐさい同族間の経営権争いと夫婦の愛憎劇である。
パトリツィア演じるレディー・ガガの妖艶さとうさん臭さは絶妙で、
持ち前の野心が仇となり(劇中のセリフにも出てくるが)グッチ家というケーキに群がるアリ、いやシロアリのごとく、権謀術数・人心掌握でグッチ家を崩壊させ、一方で嫉妬に狂い夫を殺害させる狂気の悪女を演じている。
そして、そのシロアリを家に招き入れ、誑かされ、彼女によってダークサイドに墜ち、結局自身すら喰われてしまった3代目グッチ社長・マウリツィオをアダム・ドライバーが演じている。
また、グッチ一族も曲者ぞろい。
マウリツィオの叔父にあたる2代目社長・アルドをアル・パチーノが
その息子のパオロをジャレット・レトがそれぞれ怪演。
アルドは経営の才には長けているが、品性も経営者としての矜持もとてもまともとは言えない拝金主義の意地汚い狸おやじ。
そのバカ息子はグッチファミリーの面を汚さんばかりの美的センスの無さとおつむの弱い短絡的な困ったちゃんである。
唯一まともだったのはマウリツィオの父・ロドルフォ。
多少昔気質でお高くとまっているところはあるが、ブランドの伝統に誇りをもち芸術に対しても、人物に対しても確かな「審美眼」を持つ数少ない良識ある登場人物のひとりだ。
彼は息子が連れてきたパトリツィアの「危険性」をいち早く察知しており、自身が死の間際息子に語る「グッチを頼んだぞ」というセリフは今思えばとても切なく感じる。
彼こそがグッチ家の防虫剤だったかもしれない。
さらにグッチ家の「執事」やパトリツィアの心の拠り所となる「占い師」、マウリツィオの「浮気相手」の存在がこの悲劇にアクセントを加えてくれる。
「どんな資産家でも3代で財産がなくなる。」という言葉がある。
皮肉にもこの物語はその言葉を象徴した物語であるともいえよう。
「GUCCI」というブランドは残ったが創業者一族の血統は経済界という表舞台から完全に抹消された。