劇場公開日 2022年9月16日

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「「ひと夏の冒険と成長」を描いた傑作」雨を告げる漂流団地 再ゼリヤさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「ひと夏の冒険と成長」を描いた傑作

2022年9月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

子供たちの「ひと夏の冒険と成長」を描いた傑作です。いい年して泣いてしまいました。子供から大人までおすすめできる作品です。

ストーリーは十分わかりやすいです。最初は謎めいた要素が多いのですが、終盤にちゃんと種明かしがされます。『エヴァンゲリオン』や『バブル』のような、観終わったあとの「謎が残ったモヤモヤ感」「結局なんだったの感」がありません。

たとえば「ノッポ君」というあからさまに謎の少年が登場します。彼の正体は、最初のうちは謎のままで進行し、途中で「彼の腕に異変が起きる」という手がかりが出るけどまだ謎のまま、次に「彼の脚に鉄筋が見える」ことで正体が少しだけ見えて、そして後半に出てくる遊園地が大きなヒントになり(中学生ならここで正体に気づく)、ラストシーンで正体が明らかになります(ここで小学生でも正体がわかる)。なので小学生高学年くらいの読解力があれば十分に理解できるストーリーだし、それをわからせてくれる細かい演出が光りました。

(しかし昨今は『君の名は。』や『天気の子』ですら「ストーリーがわからなかった」という大人が多いので、そういった「SF要素(すこしふしぎ要素)を含んだ物語に不慣れな人たち」にとってはこの作品もわかりづらいのかなと思います。メジャーになる前の新海誠の作品がわかりづらいのは仕方ないにしても、『君の名は。』と『天気の子』は一般大衆向けに相当わかりやすく作られているので、さすがにこの2つのストーリーがわからないのは「SF要素のある物語に不慣れな人たち」なのでしょう。)

全体的には、「謎解きまたは回想シーン」と「ハラハラするアクションシーン」が交互に訪れるので、飽きが来ないように作られています。少し謎が解けたらハラハラするシーン、また少し謎が解けて回想が挟まってアクションシーン、という進行なので、だらけません。そんなに派手なアクションがあるわけではないのに、作画と音楽と声優の演技がすばらしいので、ハラハラして見入ってしまいました。子供どうしがケンカするシーンが多いのですが、主人公ではない男の子ふたりがコミカルな役目をするので、暗い感じがしません。

以降は細かい感想です。

まず、子供たちの描写がとてもうまかったです。「そうそう、子供ってこんな感じだよね」と思いながら観てました。特に、素直になれない男の子の声優(田村睦心)の演技がすばらしく、「これぞ男の子ーーーっ!」って感じでした。作画の良さと声優の演技のうまさが噛み合っているので、作品に没入できます。(最近の映画はジブリも新海誠も細田守も、声優ではなく役者を使うので、演技の不自然さや違和感を感じることが多く、気になって集中できないことがありませんか? やはり日本の声優は優秀だと再確認しました。)

ストーリー上、子供がケンカしたりいがみ合うシーンが多いのですが、素直になれない様子をケンカすることで表現しているので、ケンカのシーンでも「素直になれない男の子ってこうだよね」と思って観ていました。あるいは別のシーンでは、主役のふたりがいがみ合いながら力を合わせて重いものを持ち上げており、「ケンカしているけど心の奥底では信頼しあっている」ことがうまく表現されていました。なのでケンカやいがみ合いのシーンが多くてもそんなに気になりません。しかしこういった表現から読み取るのが苦手な人にとっては、「ケンカばかりしている映画」という印象になったかもしれません。

またひとつの登場物(アイテム)が複数の役割を兼ねているので、少ない登場物で多くのものを表現できていることに感心しました(尺が限られる映画ならではかも)。たとえば後半に出てくる遊園地は、謎の解明の大きなヒントになっているだけでなく、わめいてばかりの女の子(実は遊園地好き)の心情が変化する役割を果たしており、思わず心の中で「うまいな」とつぶやきました。

このわめいてばかりいる女の子は、何でも他人のせいにして非難するばかり。まるでクレーマーやモンスターペアレントのようで、いい印象がありません。しかしある時、その子を別の女の子(メガネを掛けたおとなしい子)が一喝します。それをきっかけに、おとなしかったメガネの子が行動力を見せる成長をします(作中でいちばん成長したのはこの子かも)。まあ行動力を見せたせいで大きな怪我をしてしまうのですが、今度はそれをきっかけに、わめいてばかりいる女の子が友達思いの一面を見せます。つまり、あるきっかけで子供が成長し、それがまた別のきっかけを生み出すという連鎖が起こります。話の転がり方が自然です。

「団地」という舞台装置も、最初は「なんで団地が漂流するの?」という唐突感があるのですが、観終わってみれば「そういうことか」と納得します。オープニングの、過去に時間がさかのぼって団地が表現される演出が、実にいいものだったと気づきました。二回目をみたら、もうオープニングで泣いてしまいそう。

映画としてとても満足できる作品でした。近年のジブリ作品に満足できていない自分にとって、また新海誠の二番煎じのような作品(←『バブル』!お前のことだぞ!)が多い現状を嘆いている自分にとって、本当にすてきなオリジナルアニメーションでした。制作会社のスタジオコロリドと、石田祐康監督、関係者の方々、ありがとうございました。また今まで存じておらず、申し訳ありません。過去作も含めて、これから注目していきます。

あの子供たちがこれから幸せでありますように。

再ゼリヤ