聖闘士星矢 The Beginning : 特集
【監督に直撃インタビュー】実写版はどこまで原作を
理解し、愛しているのか!? 車田正美からの洗礼とは?
製作陣の本気度、聖衣のデザイン意図を確かめてきた!
2017年5月、衝撃的な一報が駆け巡った。世界中で35年以上にわたり愛され続ける、車田正美氏の人気漫画「聖闘士星矢」が、ハリウッドで実写映画化される――。
あれから約6年。2023年4月28日、ついにハリウッド実写版「聖闘士星矢 The Beginning」が世界公開の日を迎える。
主演は新田真剣佑が務め、共演陣には「ロード・オブ・ザ・リング」のボロミア役で知られるショーン・ビーンら豪華スターが結集。スタッフもアカデミー賞ノミネート経験のある監督や、「マトリックス」最新作のVFXチームが参加するなど、「聖闘士星矢」へかけるハリウッドの本気度がビシビシと伝わってくるだろう。
とはいえ、今作の生まれ故郷である日本のファンからすると「原作を無視したヤバい作品になるのでは?」と、どうしても心配が尽きないもの。そこで映画.com編集部が独自取材を敢行し、製作陣がどのような姿勢で実写化に臨んだのかを調査してきた。
監督インタビューを通じ、聖衣のデザインにまつわる背景が明らかに。そして各スタッフの原作愛や、原作者・車田正美が実写版に要望したこととは……。
この記事を読めばきっと、「聖闘士星矢 The Beginning」への期待がジャンプアップするはずだ。
【Q:そもそも「聖闘士星矢」の人気は?】 → A:日本はもちろん、特に海外で小宇宙的熱狂
原作漫画は世界累計発行部数5000万部(2022年2月時点)。アニメは世界80カ国で放送され、特にヨーロッパ(フランス、イタリア、スペイン)や中南米(ブラジルやアルゼンチン、メキシコ、チリ、ペルー)でのアニメ人気は異常とも言えるほど熱狂的なのだ。
漫画は1990年に連載終了を迎えたが、以後も新作アニメや映画、さまざまなグッズが制作され、今もなお海外でファンを生み続けている。ハリウッドでは「ワイルド・スピード ファイヤーブースト」のルイ・レテリエ監督がファンとして有名。彼の2010年の「タイタンの戦い」(サム・ワーシントン、リーアム・ニーソンら出演)は、「聖闘士星矢」へのオマージュをふんだんに盛り込んでいることでよく知られる。
【監督インタビュー】原作・車田正美先生からの洗礼!
コメントから浮かび上がる“原作愛とリスペクト”
今作のメガホンをとったトメック・バギンスキー監督。製作総指揮・演出を手がけたNetflixドラマ「ウィッチャー」で世界的に評価された俊英で、ショートアニメ「Katedra(原題)」(2002)では第75回アカデミー賞にノミネートされた実績も持つ。
今回は映画.com編集部が同監督にオンライン・インタビューを実施。「聖闘士星矢」への愛や作品理解や洞察をはじめ、日本の観客が特に注目する聖衣のデザインの理由、原作者・車田正美からの要望など、気になる重要トピックスを話してもらった。
非常に示唆に富む、興味深い内容となったので、ぜひ目を通してみてほしい。
●まずはじめに
――本日はよろしくお願いします。最初の質問ですが、原作「聖闘士星矢」にはどんな印象を抱いていますか?
バギンスキー監督:よろしくお願いします。映画を完成させたばかりですから、原作愛や作品への熱量をお話することがとても楽しみです。
原作で個人的にユニークだと感じているのが、派手なアクションとスピリチュアルな心理描写が混在しているところです。西洋の漫画にはなかなかないレベルの高さで、非常に面白くみていました。
また、登場人物が自分を犠牲にして、仲間や信じるもののために進むことが、非常に独特で日本的だと強く感じました。自己犠牲は特に今の時代に重要なテーマです。そしてすべてのキャラが、バトルに負けたとしても、相手の心を勝ち取るというメッセージを体現しています。原作は35年以上前の作品ですが、今の時代だからこそ「聖闘士星矢」の根底にある自己犠牲や贖罪(しょくざい)というテーマを語り直す必要があると強く感じました。
●「聖闘士星矢」は全映画監督が読むべき…好きなキャラでは“辰巳徳丸”に注目!?
――バギンスキー監督の好きなキャラクターは誰でしょうか?
バギンスキー監督:自分が山羊座なのでカプリコーンのシュラと答えるべきだと思いますが、一番自分と繋がりを感じるのは、実は星矢なんです。星矢は反骨精神を持ち、絶対に諦めない。実は職業としての映画監督に求められていることそのままなんですね。現場での撮影や製作費の交渉など、譲ってはいけない、諦めてはいけないことがたくさんあります。その点で、星矢をみていると勇気をもらえます。
――なるほど、全世界の映画監督は「聖闘士星矢」を読んだほうがいい、と言っても過言ではないですね。
バギンスキー監督:そうです。もうひとつ、別の角度からですが、辰巳徳丸(※編集部注:沙織の執事兼ボディガード。原作では星矢たちに高圧的に接する)についてお話させてください。映画ではマイロックというキャラクターとして登場します。このプロジェクトをはじめたとき、スタッフのなかにこの辰巳徳丸を好きな人が誰もいなかったんです。
であれば、自分が世界中の人にこのキャラを好きにさせてみせる、と挑戦しようと決意しました。自分ではうまくいったと思いますし、ファンの方から好反応もいただいていて、自信のあるキャラクターです。
●原作ファンの期待に応え、原作を知らない観客も満足させるための工夫とは?
――辰巳徳丸をそのような角度でフィーチャーするとは、とても興味深いです。そのほか、原作ファンの期待に応えつつ、原作を知らない観客にも広く観てもらうために、今作で工夫したことはなんでしょうか?
バギンスキー監督:今作はできるだけ漫画原作に忠実に、観客に提供したいと思っていました。ただ映画になることで、「聖闘士星矢」を知らない人たちにも観てもらう必要があります。そう考えたときに、説明しないといけない要素が非常に多いことがネックでした。たとえば小宇宙(コスモ)や聖闘士(セイント)という概念、人間関係やそれぞれの人物が求めることなど、丁寧に説明するとものすごく膨大になってしまいます。
なので今回は、原作漫画を踏まえながら(映画の尺にあわせ魅力的な物語にするために)、星矢と沙織の物語にフォーカスすることにしました。ネタバレを避けつつ、ひとつ大きな変更点を挙げるならば、沙織の性格を意図的に“強く”した点です。
特に現代の西洋文化やアメリカでは“ただ助けられるヒロイン”として描くと違和感を与えてしまいかねない。原作の沙織が持つ要素を残しつつ、一方でどれくらい彼女のキャラクターを自然に発展させ、原作の物語にもフィットできるかを見極めることが、最も大きなチャレンジでした。
しかし観ていただけると、この映画の後、どうやって自然と“原作漫画の物語”につながっていくのかは、ファンの方にはわかってもらえると思います。
――また、劇中ではアニメ主題歌「ペガサス幻想」をアレンジして挿入していますが、その意図や狙いはなんでしょうか?
バギンスキー監督:私は当初から「ペガサス幻想」を今作のどこかで使いたいと思っていました。「ペガサス幻想」は「聖闘士星矢」の音楽の中でも欠かせない音楽だからです。(今作の音楽を担当した)作曲家の池頼広さんと一緒に、このアニメから受け継いだ遺産に敬意を払うべき方法と、正しい場所を見つけられたと思っています。
●聖衣のデザインについて…運命づけた“原作者・車田正美からの洗礼”
――原作からの変更点に関してもうひとつお聞きします。実写にするうえで、原作ビジュアルを違和感なく自然にみえるようにする、という点は重要なチャレンジだったと思います。そのなかで特に星矢の聖衣(クロス)について、漫画やアニメの再現とはまた異なるデザイン、および色、素材である理由はなんでしょうか? この変更点に、製作陣の決定的な意図が隠れていると感じています。
バギンスキー監督:聖衣は完成までに最も長いプロセスを要しました。最初はいろいろなデザインを作りました。もちろん、原作漫画やアニメを強く踏襲したデザインもです。また、特にハリウッドの著名デザイナーにも多く案を出してもらいました。
しかし、プロジェクトの最初期にそうしたデザイン案を車田正美先生にお見せしたときに、「こうじゃないんだよね」と言われたんです。原作の再現が大事なわけではない、と。車田先生は「自分は聖衣を最初に描いたとき、古代ギリシャの鎧をベースに作っていた」とも言っていて、ハッと気づかされたんです。今までのデザインを全部捨てて、実際にギリシャやヨーロッパの鎧をつくる鍛冶屋に協力をあおぎ、「やはり聖闘士星矢のシルエットは残したい。そのうえでどうすれば」などと相談しながら、本物の鎧と同じ製法で創出していきました。
重要視したことは、「実際に古代から受け継がれる聖衣が存在するならば、どうなる?」ということでした。原作の再現ももちろん重要ですし、意識しましたが、それ以上に車田先生の「古代ギリシャの鎧をベースに作っていた」という言葉をヒントに、原作をベースにしつつも極めてリアリスティックに聖衣の存在を考え、具現に落とし込んでいったのです。
結果、もしも本当に聖衣が現実世界に存在するならば、きっと今作のような形になるだろうと自負しています。それくらい長いプロセスを経て、こだわりをこめていったのです。
ひとつ避けたかったのが、聖衣をすべてCGでつくることです。CGで聖衣をこしらえてしまえば、それは「聖闘士星矢」ではなくなると感じたからです。そして特にアニメ版の聖衣は、尖っているパーツが多いことが特徴的なデザインです。実際に具現化すれば俳優の動きに制限が出て違和感が拭えないでしょうし、それこそCGに頼らなければ制作できなくなります。
もうひとつ重要なことは、他の作品で観たような“鎧”にはしたくなかったんです。原作の星矢がそうであるように、この作品は独特のスタイルや世界観を持っています。星矢らしさの真髄を受け継ごうとしました。
さまざまな理由から、今作の聖衣にファンから批判が起こることは重々承知のうえですし、実際にチームのなかでもそういった声は上がりました。漫画やアニメの色・素材と異なるという指摘もあります。しかし、ディテールに目を向けてもらえると、特にアニメのデザインにある要素を、今回の実写用に誠実にリデザインしていることがよくわかると思います。
●ハリウッド実写版「聖闘士星矢」、キーワードは“進化”“心の連動”
――車田正美先生の言葉や、製作陣の姿勢を聞き、今作は原作の再現を目指しつつ、同時に“リアリティのある世界・物語・作品そのもの”もつくっているのだと知りました。車田正美先生と今作でどのような関わり方をしていたのか、そしてコミュニケーションのなかで印象に残ったことをお聞かせください。
バギンスキー監督:ものすごく印象に残っていることは、最初に聖衣をデザインしているときのことです。初期のころ、私たちは“完ぺき”や“完成形”を目指していたのですが、車田先生のチームの方を経由して「そうじゃなくていいんです」と言っていただいた。
「聖衣は星矢たちの成長とともに姿を変え、小宇宙の影響を受け形成されていきます。だから、最初は未完成のままでいいんです。小宇宙を受け、進化するのです」と。原作でも、初期は胸当てなどとても簡易的なものですよね。
答えは明らかに目の前にあったのに、なぜ気づかなかったのだろうと思いました。そのとき、これは見た目の作品ではなく“心が連動する作品”でなければいけない、これが「聖闘士星矢」なんだと改めて気づかされました。ゆえに、キャラクターも聖衣も成長していくことを物語に強く取り入れています。
私が「聖闘士星矢」で好きなことは、力ではなく“心”で勝ち取らなければ、聖衣も勝利も手に入れられない、というテーマ。そして、本当の戦いは自分自身だということです。それが物語で表現できて、とても手応えを感じています。
……トメック・バギンスキー監督は原作漫画やアニメへの深い理解と洞察を持ち、強い敬意を払ったうえで、実写映画としての自然さやクオリティも追求したことを語ってくれた。原作ファンと観客を満足させるためのチャレンジは、果たしてどのような仕上がりとなっているのか? その答えは、ぜひとも劇場で、ご自身の目で確かめていただければと思う。
【超一流が本気で「聖闘士星矢」映画化】
…遂に完成した入魂のアクション巨編、その全貌は?
監督の熱意が明らかになったところで、順番は前後するが、今作の見どころを紹介していこう。知れば知るほど、陣容の豪華さや注がれる情熱に胸がアツくなることだろう。
●世界の超一流キャスト&スタッフで本気の“実写映画化”!
主人公・星矢役は日本が誇る人気俳優・新田真剣佑が務め、ハリウッド映画初主演。「パシフィック・リム アップライジング」で脚光を浴び、今後はNetflixの実写「ONE PIECE」(ロロノア・ゾロ役)など話題作も待機しているだけに、世界的なアクションスターへの階段をすさまじい勢いで駆け上がっている。
ほかにも「ロード・オブ・ザ・リング」のショーン・ビーン、「X-MEN」シリーズのファムケ・ヤンセンが物語のキーパーソンに扮し、「ジュマンジ」シリーズのマディソン・アイズマンがシエナ(原作でいう沙織)役を務め、「ジョン・ウィック パラベラム」のマーク・ダカスコスがマイロック(同じく辰巳徳丸)役に。十分すぎるほどの実績を持つ豪華な面々が、見事なアンサンブルを奏でるのだ。
さらに監督は、Netflix世界視聴率No.1となった「ウィッチャー」のトメック・バギンスキー。アクション/スタントコーディネーターはマーベルのヒット作「シャン・チー テン・リングスの伝説」や、ジャッキー・チェンのスタントで知られるアンディ・チャンが務め、VFXは「マトリックス レザレクションズ」「DUNE デューン 砂の惑星」「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」を手がけたDNEGなど、主題歌はP!NKが担当するなど、世界中の精鋭たちが小宇宙を燃やし、新たな息吹を注ぎ込む。
ここで重要なポイントは、「聖闘士星矢」を愛するクリエイターが多く参加していた、ということ。象徴的なコメントをいくつかピックアップしてみよう。
・アクション監督、アンディ・チャンのコメント
参加決定時の喜び:プロデューサーに“実写版を作っているんだけど、興味ある?”と聞かれた時には真っ先に“もちろんさ”と答えました。子どものころ、この作品をずっと観ていたので、これはすごい!と思いました。
愛ゆえのこだわり:個々のキャラクターには独特の動きがあるので、子どもたちが真似できるようにアクションを考えました。また、マリンが星矢にトレーニングを課すシーンがありますが、カッコよい動きが満載です。きっと観客の方は気に入ると思います。
・衣装デザイナー、アンドレアス・ダニエル・トート&アティラ・ゴダナ・ユハスのコメント
愛ゆえのこだわり:まず先に言っておきたいことは、私たちは漫画の大ファンであり、漫画を見て育ったということ。今回の映画では、星矢の衣装は原作に忠実で、ブルージーンズと赤いTシャツといった象徴的なルックスは維持しています。ただし色の濃淡を少し変えていて、エンジや暗めの赤を使い、ジーンズもグレーがかった濃い目の色を使いました。
以上、ハリウッドが本気中の本気で実写化に挑んでいることがよくわかる陣容。そして物語は原作漫画・アニメで言えば、「ギャラクシアン・ウォーズ」篇や「暗黒聖闘士」篇がベースとなっており、さらに星矢が聖衣を手に入れるまでのエピソードを中心に、最新のVFXを駆使したバトルアクションなど映画的な見せ場を多く盛り込んでいる。
言うなれば“伝説誕生の瞬間”といっても過言ではない……ファンであればあるほど“映画館で目撃するべき”必見作。エポックメイキングな一作になるかどうか、今後の日本を含む世界中の“熱狂”を注視していこう。