ナイトメア・アリーのレビュー・感想・評価
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越えてはいけない一線
物事がうまく進むと、ついつい調子に乗ってやりすぎてしまい、手痛いしっぺ返しを食らったり、破滅へと転がり落ちていったりすることがあります。本作はまさにそれを描いています。 ストーリーは、たまたまカーニバルの見せ物小屋でギーク(獣人)と関わったことから、そこで働くことになったスタンが、一座のピートから読心術の技を学んだことで自信をつけ、同じく一座で働くモリーと連れ立って独立し、自らの力でショービジネス界の頂点に立つことを目指すが、膨れ上がる野心を抑えきれず、禁断の技術に手を出し、引き返せないところまで突き進んでいってしまうというもの。 冒頭、主人公のスタンが重そうなずた袋を引きずり、家に火を放ち、あてもなくカーニバルの見せ物小屋に流れつくまでは、何が描かれているのかよくわからず、少々退屈な立ち上がりでした。しかし、スタンがカーニバルのメンバーから次々に技術を吸収し、アイデアを具現化させ、自らの可能性を広げていくくだりはなかなかおもしろかったです。 中でも、読心術の技とトリックは興味深かったです。コールド・リーディング的な手法はこれまでにも聞いたたことがあり、種明かしされればなるほどとなりますが、実際には、鋭い観察眼や洞察力と巧みな話術のなせる高度な技であると思います。これを目の前で、しかも自分に対して行われたら、疑いより先に驚きが立ち、誰もが信じてしまうことでしょう。こんな感じで、前半は、スタンが自らの資質や才能に気づくとともに、彼の野心に火がついたことがよく描かれ、後半へのフラグが立ちまくっているように感じました。 そして後半、スタンが一応の成功を収めるも、さらなる高みを求めて越えてはいけない一線を越え、破滅に向かってのカウントダウンが始まります。嘘をつくとすぐに顔に出てしまうようなチキンは自分は、ハラハラしっぱなしでした。終盤、モリーを巻き込んだスタンの企みの結末と、リリス・リッター博士とのやりとりが描かれますが、そこで終わらず、後日談からオチまで描かれたのはよかったです。結局、スタンは金も名誉も腕時計も失い、人間としての居場所や尊厳も失います。伏線が丁寧すぎて予想できるものではありましたが、冒頭からの伏線を回収してのラストは、悪くない締めくくりでした。 主演はブラッドリー・クーパーで、物語を通して変容し続ける、さまざまな顔を見せるスタンを熱演しています。脇を固める、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ルーニー・マーラら女優陣も、それぞれがぴたりとハマる好演を見せます。ウィレム・デフォーも、あいかわらず存在感抜群でした。
前半の怪しげな雰囲気は良かったんですが
「パンズラビリンス」や「シェイプオブウォーター」のようなファンタジーでは無かったのね。 前半は、なんとなくファンタジーなシーンが多かったのだが、後半は至ってシリアルな展開に。 そんな期待をしていたオイラにとっては少し残念な思い。 なーんか後半は、よくある普通の物語になってしまったという印象でした。 期待し過ぎたかな。
回帰
ギレルモデルトロ監督によるショービジネス界に迷い込んだ若者の隆盛と衰退をミステリアスに描いた本作。
終始、じっとりした質感だったり、濁ったグリーンのような雰囲気で進んでいて特に序盤は本当に悪夢のように感じた。
思ったりよりくっきり人や動物が亡くなるシーンが多くあり、ヘビーだったように思う。
本作の主人公であるスタンは自信過剰であまり好きになれないキャラクターだったが、物語が進むにつれ、感情移入してしまい、まんまと監督の創り出す悪夢に迷い込んでしまった。
物語が進み、ラストのスタンのどこか安堵したような絶望したかのようなあの掠れた笑い声を目に焼き付けるだけでもこの映画を鑑賞して良かったと思える強烈なシーンだった。
物語の始まりと終わりが回帰するような作品が個人的に好みなのもあり、予測できる展開ではあったが、とても面白く引き込まれた。
もう少しウィレムデフォーの狂気を見たかったとも感じた。
ダークサイドグレイテストショーマン。
This is me!
と主人公が叫んで終わる。
完全にダークサイドなグレイテストショーマン。
一回幸せを掴んだはずに見えたものの、そこから悪夢小路に迷い込み、一気に転げ落ちる。
幸薄そうなルーニーマーラに胡散臭いロンパールマン、悪意の塊のウィリアムデフォーと胡散臭い詐欺占い師夫婦。
そして獣人。
地獄一歩手前の様なカーニバルを抜け出し掴んだはずの煌びやかな世界で彼はその先を望もうとして頂上一歩手前から一気に崩れ落ちる。
あらかた想像の範疇を超えないストーリーで進み、伏線は丁寧に回収されていく。
デルトロのかつてのクリムゾンピークの様にオチでひっくり返る事もなく、すんなりと進む。
ただ、尺の関係か150分とも言えど描き切れていない部分も多く、判事夫妻の無理心中も唐突だし、ケイトブランシェットの意図も不明瞭だし、カーニバルを出てからの脚本のアラが多い気がする。
父親との確執も描き方が浅い。
原作はもっと丁寧だったのだろうか?
ここから個人的な意見。
僕も催眠術と読心術を使える人だが、劇中であった様に相手をプロファイリングしてそこから自分の頭のデータベースと照合して当てる事をしており、幾つかはペテンであるとも自覚している。
映画の中で主人公がより成功を求めて困難な相手に挑みたくなるのも分かる。
かからないと言われたら相手を分析してでもかけたくなる。
あれは一つの支配欲みたいなもので、本人だけの自己満足のための欲を満たす行為でしか無い。
だからこそ、周りに止められても前に進んだ気持ちもわかるし、焦りから仕上がりが荒い状態でゴリ押しでやってしまった仕事のアラから一気に崩壊する無念さも分かる。
自分の人生に重なった気がしてこの映画の感想は湾曲されたものだと自覚はしているが、久しぶりのデルトロの世界観に浸れる150分は幸せだった。
p.s. 元SMパートナーにまたTwitterで個人情報晒されました。ガッデム。
あまり…
道具立ては禍々しく、なかなかに凝っています。 背景とかだけではなく、映像表現を含めた雰囲気づくりにも力が尽くされています。 ただ、そこまでで力を使い果たした感。 物語は平板で、意図されたであろうわざとらしさも、それなりに展開させた筋も、道具立てに塗りつぶされてしまったように思いました。
刺激よりも噛み締める妙味映画です。
本作、ブラッドリー・クーパーで気になっていたので先日観て来ました。 古典で原作もあり、刺激的ではないかもしれませんが、俳優陣の妙味を味わえる作品です。 (“キャロル”の二方が、やはり凄いです笑) なんとなく邦画でも!と想像してしまい…森田剛、宮沢りえ、桃井かおり、小日向文世かなーと思いました。 本作評論で、節目で救いがあると言ってみえる方がいますが、個人的には…無いですよと言いたいです。流れ着いた場所から、どのくらい絶望があるか考えよと言いたいです。 ねっとり映画が好きな方、是非ご観賞下さい!!
欲望のまま生きる男
混沌の時代に澱んだ欲望のまま生きる男。
その結末が身勝手な行動に対する対価になるのだけど、最後に見せる表情がとても物悲しげに映る。
そしてその表情が映画館を出ても脳裏に残ってしまった。
太平洋戦争が始まった頃のアメリカの一コマ
時代は太平洋戦争が始まった頃。その頃のアメリカに、こんな世界があったのだなぁ~と、すごく惹き付けられました。 私から見たら底辺の生活をしている一座。そんな環境なんですが、仕事があるのなら御の字なのか、なんとか潜り込めたスタン。でもそこにはさらに底辺の暮らしをしている者もいる。 そんな一座での暮らしが迫力満点に描かれていました。そこからの浮き沈み… ケイト・ブランシェットがスゴイよ。 面白かったです!
ギレルモデルトロ感がないが、イイ!!
ギレルモデルトロといえばカッコいいモンスターが魅力だと思い観に行きましたがある意味期待外れだった
"ギーク"がメインテーマだと思い観ていると次々と物語が進んでいきテーマが掴みづらいし、キャラも沢山出てきて難しい
だがあまり映画が観ていない人でも自然と物語ができる仕組みにしているのは流石だと思った
作品の作りが反照法になっているので最後まで見ないと面白さが半減してしまうし、それまでの土台作りがかなり丁寧にやっているので人によってはつまらなく感じてしまう
数年後に胸糞映画の代表核としてオタクから評価されてそうだなぁと感じる
洒落てしまうよ
序盤はとても静かというか波がない展開に首を傾げて観ていましたが、読唇術を手に入れて少しずつ自惚れていき、転落していく様子が展開されていくごとに尻上がりに面白くなっていきました。 八方塞がりになり、ボロボロの状態で最初のような展開になり、もう一度酒を浴びるというリスタートとはまた違う描写になっていたのも個人的に良かったです。弾丸を頭と目に当てる描写もギリギリ見せない見せ方も上手く焦らされた感じです。 セットだったり背景美術の作り込みは素晴らしく、おどろおどろしいものから煌びやかな物まで、観るアート展のかのような楽しさが詰まっていました。 前半が微妙だったために、総合ではなんとも言えない評価になりましたが、アカデミー賞納得だなぁと思えるクオリティでした。「パシフィック・リム」見てきます。 鑑賞日 3/31 鑑賞時間 14:20〜17:00 座席 J-4
美術スタッフが可哀想D
映画が始まった時は 「なんて豪華で素晴らしい映像だろう」と思って すごく期待してのめり込んだ。 しかし話が進むにつれて 期待は薄れていき 半分ぐらいしたところですっかり意気消沈してしまった 。映画というものは1時間20分でも面白ければ十分満足できるというのに なんでこんな長ったらしい編集にしたんだろう? 長い映画をとってしまったとしても 思い切ったカットを入れて90分にまとめてしまった方が良かった。 そうすればなんだかわからないようなところを 観客が想像力で埋めるので きっとその方が面白くなっていただろう 。最後にとってつけたような ラストシーンがあるが 大体脚本家自身が納得がいっていない場合にこのようなことが起こる。 シェイプ・オブ・ウォーター が傑作だったので期待してみたがこっちは駄作だった。
うつくしい、こわい。みたい、みたくない。
華やかなライト、きらきらした遊園地、不気味なショー、怪しい人たち…美しくも不穏な雰囲気の中「宿命」に引かれ転がり進む主人公の人生。内容は書けないけど、ラストの衝撃がすごかった。いや背筋凍ったわ… めっちゃ怖いけど、大人向けの寓話。すき…
キャストや映像も私は好きです
ちょっと盛り上がりに欠けるかも? とにかく長い作品で引き込み力が弱い気がします 後半から少し盛り返しますが展開が少しわかる感じです でも全体的には私は良い作品だと思いますが評価は普通ですね…
優しい嘘より厳しい真実
嘘吐きは泥棒の始まり
主人公Stanがten-in-one(見世物小屋)で芸を覚え、独立して成功を収めるが、欲をかいたために凋落していくダークファンタジー。
彼が会得する読心術同様、観客の観察力を試すような作品でした。
労働の最終目標は何なのか。
止まない賞賛か、羨望の的か、権力か。
貧困の記憶を消すためか。
少しでも多く金を稼ぐとして、
その先に何があるのか、何を求めるのか。
衣食住を満たせれば良いのか。
愛する人と踊りたいのか。
仲間と楽しく語り合うのか。
街の有力者であろうと過去に縛られている。
大富豪であっても愛に飢えている。
どんなに大金を積んだとして、忌まわしい記憶は消えないし、犯した罪を帳消しにもできない。愛と同じく、真の希望を買うことはできない。
度重なる忠告を無視し、禁じ手を用いてまで高みを目指す。Stanは頭は切れるけど満足を知らない野心家でした。映画後半にはその性格が顕著になりますが、独立前は、人好きのする顔立ちの、比較的素直で従順で、好奇心旺盛な若者という印象でした。貪欲な本性を前半でもっと出しておいた方が、後々分かりやすくなったのかなぁという気はしました。
÷÷ symbolismについて ÷÷
◯ラジオ
事実、現実、外界との繋がり
Clemに売った時点で、Stanは如何わしいパフォーマンスの世界に身を置く。自分の真の姿はgeekであると気付く部屋にはそのラジオがある。ラジオニュースを聴くClemはgeeksの、AndersonはStanの、現実世界における本性を見抜いており、また自分自身を見失っていない。
◯メリーゴーランド
将来への期待、夢、真の希望
MollyとStanが夢を語る場所。
◯腕時計
人間としての尊厳、人間らしさ
Stanの父親は死ぬまで身につけていた。
”He loved that watch... it was his pride.”
Mollyも身につけている。Stanは酒欲しさに腕時計を手放し、geekへと成り下がる。
◯白うさぎ
睡眠(shuteye)、神の監視/警告/審判
Peteの睡眠中には、うさぎのGeorgeが側にいる。パフォーマンスで嘘を吐き続けたら、”shuteye”で真実が見えなくなるとPeteは釘を刺していた。また、団員で劇中確実に死ぬのはPeteだけ。(最初のgeekは死んだか分からない。)
ちなみにうさぎさんの多くは目を開けて寝る。
(Georgeくん、唯一の癒しでした…。)
◯Enoch
親殺し、神の眼
胎児でありながら大人を殺す力を持つ。
どの方向からでも目が合う。
とてつもない存在感で度々登場し、全てを見ているといったご様子。
Stanは実の父親、及び義理の父と言っても良い師匠のPeteを殺す。(Peteにメタノールの瓶を与えたのかはっきりしないものの、後半、彼の死に罪悪感を抱いていることが分かる。)
一方、Mollyも実の父を亡くしているが、関係は良好であったよう。父親代わりのBrunoとも仲良し。
聖典に登場するEnochのうち、365年生きたというJaredの息子なのか、CainとAwanの息子なのかは不明。The Book of Jubileesに、Abelにあてがうはずだった妹のAwanに、Cainが恋して娶ったと書いてあるらしい。
(姿は単眼症児に酷似?)
◯酒
誘惑、堕落
言わずもがな。
Stanの弱点だとLilithが見抜く。
◯メダイユ
信仰心
Stanの交信術を信じた警官のネックレスは、最後新しい団長の首元に。
◯服装
赤い帽子やコート: 愛の象徴?
Mollyがよく着ている。
白いドレス: 純潔、無垢
MollyがStanを見捨てる際に着ている。
◯真紅の口紅
嘘、誘惑
Zeenaが第六感パフォーマンス中に付けている。Lilithはずっと付けている。
◯大金
偽りの希望
偽の交信術により得た金。大富豪Ezraは金で希望を変えると豪語。預けた報酬がすり替えられていたことで、StanはLilithの裏切りを知る。
◯タロット
予言、神のお告げ
ZeenaがStanを勧誘/誘惑する時は、
Star: 明るい予感、期待、チャンス
再会時に忠告する時は、
①Tower: 物事の終了、失敗、トラブルに注意
②Lovers: 恋愛の始まり、性的魅力
③ Hanged man(逆): 報われない努力、自分本位
(④ Hanged man(正): 自己犠牲、忍耐、試練)
◯(聖書における)名前の意味
旧約聖書はほぼヘブライ語。
理解を進めるための参考に。
・Stan
Stantonの愛称
石、stony meadow, stone settlement, from the stony town
“This name could only be from the UK or Ireland.” 警官を騙す時だが、Stanはスコットランド系(だから千里眼的能力があるの)だと話す。
・Pete
Peterの愛称
岩
岩に弟子入りした石…。
・George
farmer (earth, soil, work)
“God is my judge" in Hebrew.
・Zeena
hospitable
最後の新聞で、最終的にタロット占いを生業にしたことが分かる。
・Molly
Maryの愛称
sea of bitterness, drop of the sea, star of the sea, rebelliousness, exalted one, beloved, wished for child
・Lilith
夜の妖怪、悪霊の女王、female demon, night monster, storm goddess
ユダヤ伝承によればAdamの最初の妻。男児を襲う女の悪霊。
(↑“Carol”の時も生娘と美魔女でしたね😄)
・Bruno
brown, 茶髪の男
もう白髪だったような。
・Jedediah
well beloved, amiable, blessing
母親の愛を一身に受けてきたような警官の名前。
・Clem
Clementの愛称
mild, good, merciful
皮肉?
・Ezra
help, helper
旧約聖書に登場する律法学者、祭司。ユダヤのリーダー。
権力者という点では一致?
“The whole world and everything in it!”
Stanの口説き文句ですが、Mollyにとっては見世物小屋の外の世界も厳しいものでした。
“Ain’t hope if it’s a lie.”
“If you’re good at reading people, it’s mostly because you learned as a child trying to stay one step ahead of whatever tormented you. Now if they really did a number on you, then that cracks a hollow. And there’ll never be enough. There’s no filling that in.”
“I got “shuteye”. When a man believes his own lies, starts believing he has the power. He’s got “shuteye”. He now believes it’s true. People get hurt- good, God-fearing people- and you lie and you lie... and when the lies end, there it is: the face of God, staring at you straight, no matter where you turn. No man can outrun God.”
“….. it is only in being merciful to others, that a man has true power.”
Stanが交信術で言っているので、残念ながら嘘のようです。
“….. it’s not the clothes but the shoes that can tell you everything you need to know about a man.”
Peteの教え。
メンタリズムや占いのコツ:
“Think out things most people want, and hit them right where they live: Health. Wealth. Love.”
“Find out what they’re afraid of, and sell it back to them.”
“As long as you wanna know, don’t oversell it.”
“The thing you need to know is, if you displease the right people, the world closes in on you very, very fast.”
“Life happened to me.”
UK Biobank 36678人のデータから、いわゆる「適量」でも飲酒は脳萎縮を進めると、また新たな論文が出ました。現実から目を逸らさなければやってられない?むしろ呆けたほうが楽?神の監視のもと、残酷な世界を生き抜きましょう。
原罪の果てに迷い込む悪夢の小路の正体とは
デル・トロ監督による、ウィリアム・リンゼイ・グレシャム原作の異形のカルト・ノワールの映画化だ!
クリーチャーは出てこないものの、見世物小屋、タロット、降霊術…カルトな世界の住民が織りなすダークでグロテスクな世界は、あのハリウッド賞狙いだった「シェイプ・オブ・ウォーター」の生ぬるい薄味ダークファンタジーからうって変わり、原作の世界観とデル・トロ監督の感性がシンクロし、まさに面目躍如といったところか。
原罪から逃れカーニバルに流れ着き、やがて野心を抱き富を追い求め奇術師となり、慢心に溺れ、破滅する主人公の悪夢の小路を観客は追体験してゆく…まさに地獄巡りのような作品である。
ここで言う原罪とは聖書のそれではなく「父親殺し」のことだ。そしてそれは主人公のエディプス・コンプレックスとなっている。少し難しくなるが、S.フロイトの定義したエディプス・コンプレックスとその無意識的葛藤による罪悪感の発生は、“神と人の権威的な上下関係”が“父親と子の権威的な上下関係”に置き換えられているところにあり、ぜひそこに注目されたい。
主人公はまさに父親殺しという原罪から逃げようとし、エディプス・コンプレックスを引きずりながら破滅へとつき進むのだ。主人公が犯すその原罪こそが、まさにこの悪夢の小路への始まりであり、終わりなのだ。その辺を踏まえラスト、主人公が最後になんと言うか…にも注目するといい。
あ、そこに復讐者として主人公を操るのが、ケイトブランシェット演じる精神科医というのもそういう意味でなかなか面白かった。
さて、この作品でひとつ気になったのが、重要なキーワードなはずの「geek」を字幕翻訳で「獣人」としていたところ。
これにはチョット「?」であった。まぁいまはオタクを指す意味でもあり、そうしたのかもしれないが、それは大きな間違いだし重要なキーワードのひとつでもある。ここできちんと訂正しておこう。
もともと "geek" とは、サーカスなどの見世物で、ヘビやニワトリを食いちぎったりするパフォーマーのことで言葉そのままの意味なのだ。そしてその語源は16世紀にシェイクスピアがアメリカ的表現を用いた頃の "geck" という語に遡るといわれる。これは中世低地ドイツ語で「愚者」「嘲笑すべきもの」「騙されやすい者」といった侮蔑的な意味の語であるのだ!
そう、つまり劇中で主人公の行く末を暗示するタロットカードの「愚者」と見事にシンクロし、帰結してゆく意味を持っていたのだ。こういう肝心なところを翻訳で殺してしまってるのは残念だ。
デル・トロ監督はファンタジーからSF、そしてノワールと手掛けるテーマの幅が広いだけあって、当たり外れもあるのだが、久し振りにデル・トロ監督らしい作品だと思った。やはり今後も期待したい監督の一人である。
千里眼小悪党因果応報ノ巻
良くも悪くも、トロ監督のグランギニョル趣味炸裂の作品でした。凝りに凝ったクラシックなセットや魅力的な映像で、序盤の見世物小屋のシーンからすんなり映画の世界に入れます。ただ、監督の趣味だけに見世物小屋の世界は面白いけど、やや冗長で主人公が何をしたいのかお話の方向性が見えづらいです。主人公が千里眼の達人になる後半からノワール色が強くなり、ファムファタルのケイト・ブランシェットも加わり俄然面白くなってきます。前半で散りばめられた伏線を回収しながら、周囲の警告や助言を無視して運命の暗転からおぞましいラストまで一直線でした。役者では、ブラッドリー・クーパーがドンピシャのハマり役。ケイト・ブランシェットは、魔女かと思うような迫力ぶりでした。
「外さない」
今年34本目。 ナイトメア(悪夢の)・アリー(小路)に自分も入らないように気を付けたい。ギレルモ・デル・トロ監督は2018年4月の「パシフィック・リム アップライジング」が製作ですが、イェーガーと「KAIJU」の対決が面白く今作も本当に外さないなあと思います。清水崇さんとギレルモが外さない監督で好きです。
映像は素晴らしかった!
とても良いダークサスペンスだったけど、最初の獣人の話でなんとなくラストの予想が付いただけに、予想通りのラストを期待してしまい、あの微妙などちらともつかないオチには消化不良でした。
でもデル・トロ監督にそんな世にも奇妙な物語みたいなオチは求めてないしテーマともあまり関係ない気がするので、単に世にも奇妙な物語的なものが好きすぎるだけという好みの問題で残念に思っただけでしょう。
個人的には芥川龍之介の羅生門を思い出しました。
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