劇場公開日 2021年9月24日

「「生きる」」THE GUILTY ギルティ R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「生きる」

2024年7月1日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

日本では火事か救急の場合119番 警察は110番
しかし欧米ではすべてが緊急ダイヤル112(デンマーク)番に集約されるシステム。
オペレーターは、掛かってきた緊急内容によってそれぞれの機関へ代理通報する。
この作品の優れている点は、すべてがオペレーターである主人公のアスガーの視点のみで描かれていることだ。
そのため視聴者もこのアスガーと一緒になって事件状況を想像することになる。
この緊急ダイヤルには様々な通報が来るが、どっちかというと不親切な対応に、市民から頼りにされているというところまでではないように感じた。映画だからか、その規模も東京消防庁の20分の1もない。
アスガーが対応する件も、膝を打ったから救急車を手配しろとか、風俗街で女の強盗に襲われたとか来るものの、その対応のどこかに自業自得だというような適当さが見受けられる。
彼は以前警察官として、19歳の少年の素行の悪さを個人的に断罪、正当防衛と称し射殺した。
彼の行為に警察は組織を挙げて偽証し彼を守ろうとする。翌日予定されている出廷で彼は無罪となる予定だ。
彼のしたことがどんなことかはさておき、その事で妻のパトリシアと離婚したのだと思う。
それは妻が彼を許さなかったのか、それとも彼自身が良心の呵責に苛まれ続けた2次的結果なのかは不明だが、彼自身の心の底に澱のようになっていたのは事実だろう。
無罪になってしまえば、もう事件などなかったも同然だ。
さて、
物語は1件の誘拐事件に始まる。
イーベンは、車内から子供に電話をする素振りで緊急ダイヤルに通報する。
それを受けたアスガーは、何とかしてイーベンを助けようとするが、警察と緊急ダイヤルの仕事の区分と警察管内の違いなどから思ったように進まない。
警察は「白いバンだけじゃわからない」というし、「正確な場所がわからなければ行けない」ともいう。
イライラするアスガーは、席を変えて誰もいない場所で一人この事件と向き合おうとする。
この事件そのものに大どんでん返しが仕掛けられている。
警察官がイーベンの子供がいる自宅へ行くと、血だらけのマチルデと、腹を裂かれて死亡しているオリバーを発見する。
マチルデはママを助けてという。
誰が想像しても犯人は父のミケル
それぞれの通報者は「みな必死」なのだ。
警察署の指令室に電話すると、たまたま宿直だった当時のボスが電話を取り、誘拐事件の依頼をするものの、管轄外を理由に断られ、アスガーのしていることが緊急ダイヤルの仕事ではないと指摘までされてしまう。
アスガーは元相棒のラシードに依頼し、ミケルの自宅を捜索させる。ただならぬアスガーの様子にラシードは渋々依頼を受ける。
やがて、
イーベンとの会話から、オリバーを殺したのがイーベンだとわかる。同時にミケルが何をしていたのかもわかってくる。
イーベンは橋の上に居て、飛び降りるつもりだった。警察のサイレンで電話が切れる。
しかし彼女は無事保護された。
交替時間はとっくに過ぎていた。
明日の法廷 アスガーは真実を語ると決心した。
さて、
エンドロール直前、交替したアスガーはどこかに電話する。
それはおそらく妻のパトリシアではないかと思った。
真実を語ることを決心したことを伝えたかった相手は、パトリシア以外いない。
これによってアスガーは「ギルティ」 つまり有罪となる。
デンマークという国の不誠実さを「緊急ダイヤル」をモチーフにこの作品に託したのだろうか?
ギルティとは、デンマークで働く緊急ダイヤルのオペレーターと警察官すべてに言っているのではないだろうか?
突然のことに慌てふためく通報者たちを、どこか冷めた口調で「住所は? ナンバーは?」と機械的に対応するオペレーター。
その対応に辟易し「もういい」といって電話を切る通報者たちを鼻で笑う。
警察の指令室は「トイレでクソするより暇だ」というボスも、実際起きている誘拐事件にまったく関心がない。
通報者たちは必死で助けを求めている。イーベンのセリフにそれが出ている。
「できない やれない 助けて 殺される」
バンの後ろに閉じ込められているイーベンに対し、交替しないでそのまま彼女を救おうとするアスガーは、仲間から奇異の目で見られている。
何度も警察の指令室に電話し、イーベンを探し出すように求め続ける。元相棒まで使って仕事を依頼。そのすべては緊急ダイヤルの管轄外。
アスガーを本気にさせたのは、誘拐という実際に起きている事件に、警察はのらりくらりだったからだろう。
誰も本気で助けようなどという気がないことに気づいたからだろう。
その中の一人であるボス 彼の言葉「管轄外」
偽証することは本気なのに、事件を本気で追いかけようとしない。
ミケルは言う「オレは助けてくれと何度も、何度も言った。でも、医者も弁護士も警察も、誰も助けてくれなかった。
アスガー自身もその中の一人だったことに気づかされた。
初めて自分が何にも向き合っていなかったことを知った。
妻にさえ、向き合っていなかったのだろう。
黒澤明監督の「生きる」
この派生作品 デンマークの社会システムを痛烈に風刺している。
様々なシチュエーションで未だ生き続けていることを改めて感じた。

R41
seiyoさんのコメント
2024年7月1日

こんばんは~。いつも共感ありがとうございます

こちら、観たいのですが、U-NEXTでは配信されていないので残念です

2018年版は観ました
面白かったです。

seiyo