「これ一本でもうファンだ」エル プラネタ デブリさんの映画レビュー(感想・評価)
これ一本でもうファンだ
ポスターやチラシがおしゃれで気になったから観てみたんだけど、これはちょっとでも気になった人全員観たらいいと思う。おしゃれなモノクロの映像に黄色い字幕、アマリア・ウルマンのシャープな美貌、素敵な衣装、絵になる街とアパート、浮世離れした母親。雰囲気にうっとり酔いしれるけど、実は『パラサイト』や『万引き家族』に負けないぐらい貧困を描いている。貧しくて困窮しているのに、隙あらばそこから目をそらして空騒ぎしてしまう母と娘。
紙をちぎって製氷器に入れたり、水を満たしたグラスをいくつも冷蔵庫の上に並べたり、お母さんはなかなかの壊れ方を見せる。まともな生活を営む能力も、営むつもりもない母親に、娘は言いたいことがゴマンとあるのに言わないで、むしろ日頃とても気を遣いながら接している。ちょっと息子のようでもあって不思議。娘が同性の親に接する態度にしては、遠慮が強く出ている。この親子関係だけでも緊張感があって、どこか哀しくて、見ごたえがある。
これを主演のアマリアが自分で脚本書いて監督してるのか。母親役は実のお母さん。実の親子でこんなふうにピリッと演じられるの、すごい。Wikiによれば、アマリアはアルゼンチン出身、スペイン育ちで今は夫と共にニューヨーク在住。インスタグラムへの投稿で架空の人物の生活を4カ月にわたって表現してみたり、ビデオエッセイを発表したり、彫刻を使ったインスタレーションで個展を開いたりしてきた人で、女優というより芸術家、現代美術の作家というほうが近いようだ。
そんな彼女が撮った初長編なので、意図をあえて明確にしないカットがあったり、シーンの真ん中に急に人物の顔をドアップで写した静止画が挟まってきたり、編集もユニーク。そこらの高校生が使う編集ソフトでやったみたいなトランジションや、マスキングテープを貼ったみたいなエンドロールも面白い。
細かいところでは、男たちが「髪切ったの? 長い方がよかった」って言ってくるの笑った。いや笑ってないし笑えないけど。なんで人の髪型をどうこう言う資格が自分にあると思うんだろう。それもマイナスのことを。ハッキリものを言いそうなイメージのショート髪より、長いままでいてほしい願望とか見事に気持ち悪い。
この人が次に撮る映画もきっと観たいし、日本の美術館でも展覧会をやってくれたら全国どこでも観に行く。