「こちらの並行世界は切ないラブストーリー」君を愛したひとりの僕へ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
こちらの並行世界は切ないラブストーリー
『僕が愛したすべての君へ』と2作同時公開が話題になったアニメーション。
暦が母親に引き取られ、和音と出会ったあちらの並行世界に対し、こちらは父親に引き取られた別の並行世界。そこで出会ったのは…。
あちらでも何度も挿入されていたので(交差点の謎の少女など)おおよそは察し出来る。
両親が離婚し、父親に引き取られた暦。
父親は並行世界を研究する機関に勤めている。
ほぼ毎日この研究所で過ごす日々。
そんなある日、栞という少女と出会う。
離れて暮らす母親から連絡があり、祖父の家の飼い犬が死に、悲観に暮れる暦。飼い犬とまた会いたい暦に、栞は並行世界で会いに行く事を提案する。
並行世界やそのマシンにやたら詳しい栞。この研究所の所長の娘だった。
成功するか疑心暗鬼だったが、暦はあちらの並行世界へ。飼い犬と再会する。
が、その世界では…。飼い犬は生きていたが、祖父が亡くなっていた…。
マシンを勝手に使った事で怒られるも、これを機に親しくなった暦と栞。
プライベートでも学校でも常に一緒。まるで兄妹/姉弟のように…いや、いつしか惹かれ合う。
二人の将来までも考えるように。
が、本当に“家族”となってしまう…。
暦の父親と栞の母親(研究所所長)が再婚。
本当に兄妹/姉弟となり、惹かれ合っても結ばれぬ事に…。
悩んだ末に二人が決断したのは、駆け落ち。
この世界ではなく、並行世界へ。
惹かれ合う少年少女が親同士の再婚で家族に…って、あの少女漫画みたい。
『ドラえもん』で大昔に家出する話はあったけど、こちらは前代未聞の並行世界への駆け落ち。
計画通り並行世界で目覚め、約束した落ち合う場所に向かうが…。
子供時代の並行世界体験同様、決していい方向へとは向かない。
まさかの悲劇が…。
落ち合う場所に向かっている途中、栞が交通事故に遭う。
二人は元の世界に戻るも、栞は意識が戻らない。
パラレル・シフトと事故が原因で、栞は身体と心が分離。
こちらの世界では栞は回復の見込みなく眠り続け、並行世界では事故の遭った交差点で“幽霊体”として留まり続け…。
こんな事になってしまったのは自分のせい。自分を責める。
例え親同士は再婚しても、その子供同士は結婚出来る(という事は、あの少女漫画は禁断の恋じゃなくOKな恋)。それを知り、さらにショックと後悔…。
本当に取り返しの付かない事を犯してしまった。
そんな暦が選ぶ道はただ一つ。
栞は救う。
学業の傍ら、研究所で方法を探す事に没頭する。
学業も卒業し成人になり、研究で成果を上げるも、栞を救う方法を見つける事は出来ず。
ほとんど自分の殻に閉じ籠もり、盲目的な状態の暦に、助手が。
聡明な若い女性。実は彼女とは高校時代のクラスメイトだったが、暦は覚えておらず。
和音であった。
『僕が愛したすべての君へ』とのリンクもちらほらあったが、和音の登場により、こちらとあちらの並行がより克明に。
和音と言っても、こちらの世界の和音。
あちらの世界の和音は暦と結ばれたが、こちらの世界では結ばれず。
暦に想いを寄せているのは明白だが、良き協力者、理解者として支える。
和音視点で見ると切ないが、暦視点ではもっと切ない。
彼の想いは眠り続ける栞にしか向けられていない…。
そんな時、遂に唯一の方法を見つけ出す。
それは、自分と栞が出会わない世界。出会わなければ、栞は事故に遭う事はない…。
終盤は『僕が愛したすべての君へ』の序盤シーンがそのまま挿入。
これはこれで意味ある構成だが、ちと新味には欠けた。
また、専門的な用語や設定、あちらとこちらの並行世界が絡み合い、『僕が愛したすべての君へ』より複雑な印象を受けた。
でも、作品的にはこちらの方が深みや面白味があった。
ヒロインもこちらの方が好み。
謎のシグナルや交差点の幽霊(栞)の伏線も回収。
『僕が愛したすべての君へ』はハートフルな物語だったが、こちらは切ない。
切ない中にも、ハートは込められていた。
愛した君との別れ。
でも、別の世界で必ず巡り合い、また僕たちは恋に落ちる。
『ママレード・ボーイ』で始まり、『バタフライ・エフェクト』でもあった。