「「ブルーバレンタイン」の模倣がすぎる」わたし達はおとな トム六さんの映画レビュー(感想・評価)
「ブルーバレンタイン」の模倣がすぎる
まるでこの世に「ブルーバレンタイン」が無いかのようにつくられた映画。
恐るべき程に、あえて模倣がバレるようにつくられている。アイディアを借りたり影響を受けたレベルではなく、似るように努めている。その意図はわからない。
男女の仲を現在と過去で交錯させて描くところは、ブルーバレンタインに似ている。
予期せぬ妊娠が物語のキーになるところは、ブルーバレンタインに似ている。
狭い望遠レンズで捉えたドキュメンタリーのような生々しいつくりは、ブルーバレンタインに似ている(本家は、過去パートを16ミリフィルムの手持ちで温もりのある色調で描く工夫や、俳優が頭を禿げさせたり体型を変えたりするので時制が分かりやすいが、そういうことがないので、ある程度分かるがたまに時制は混乱する)。
劇伴の音楽は、すべて(!)ブルーバレンタインそっくり。
ヒロインがとあるコトに及ぶシーンは、シチュエーション、俳優の動き、アングル、カット割など、ブルーバレンタインそっくり(画が左右が逆なだけとか、その域で似ている...)。
男女の喧嘩でドア越しに傷つけ合うのは、ブルーバレンタインそっくり。
クライマックスが自宅での男女の修羅場というのもブルーバレンタインそっくり(それ自体はよくあるが、話の流れ、男女の立ち位置、ハグしようとする男を女が拒否するなどやはり何かと似ている)。
そこに仲の良かった過去を交錯させるのは、だれもが知るブルーバレンタインの発明。
それ以外にも枚挙にいとまがない。
疾走する恋人たちを躍動感のあるカメラで捉える画は、ブルーバレンタインそっくり(本家は、後ろ向きで走るユーモアなどもあったがとくにそういうことはない)。
仲を深める男女を、閉店後の店先の路上で描くのもやはりブルーバレンタイン(本家は、そこで長回しの即興ダンスとウクレレの演奏が繰り広げられる名シーン)。
あれだけのエポックメイキングでパワフルな映画だから、憧れて似たものをつくりたかったのだろうか。
オリジナリティを込めてある部分があるにはあるが、やはりマリッジストーリーなど近作の模倣がチラつき、換骨奪胎をこえ、裏切られたきもちが拭えない。
俳優たちは素晴らしい。
とくに女優陣が素晴らしい。
それなだけに、独自の作品としてジャンプする瞬間がきてほしいと何度も期待を込めるが、やはり何度もブルーバレンタインに戻ってくる。
作り手が、先人から学びを得たり影響を受けるのは、もちろん良い。しかし、観客に対し、過去作を観ていないだろう(古典ならまだしも、なぜあんなに有名な近作を...)、似せてもわからないだろう、などという憶測のもと、あまりにも模倣に近い作品を提示しているのだとしたら、観客を馬鹿にしている。
果たして、模倣しながらブルーバレンタイン並みに脚本が良いかというとそんなことは勿論ない。
劇場に足を運んだ観客は、作り手を信頼している。新しい何かを見せてくれるのではないかと、期待を込めて映画のはじまりを待つ。
技量のある俳優たちの熱演により画面に緊張感を生むシーンはあるが、映画全体のドライブ感は乏しい。
俳優たちのパフォーマンスを目にできたのはよかった。
それ以外でいえば、ブルーバレンタインをもう一度観たほうがいい。
私はこの映画を秀作と判断しました。
「ブルーバレンタイン」という映画があったことなど、トム六さんに指摘され初めて知りました。ありがとうございます。
設定や作り方が似ていそうですね。その作品を観てみないと、なんとも判断出来ませんね。剽窃は芸術作品によくあることです。似ていても、その監督の個性が出ていれば、私は認める立場です。