「食べて、書いて、生死を共に」土を喰らう十二ヵ月 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
食べて、書いて、生死を共に
四季折々の自然の中で自給自足のスローライフ。
以前も橋本愛主演で『リトル・フォレスト』があったが、概要はその初老の男版と言った感じ。
長野の人里離れた山荘で、愛犬と暮らす作家のツトム。
幼い頃禅寺で学んだ経験から、作るのは精進料理。材料は全て自然で採れたもの。
そんな暮らしぶりを書き記す。
食べて、書いて、マイペースに暮らして。
ちょいと私の憧れでもある。(実際は大変なんだろうけど)
“食”の映画でもあるので、作られる料理の数々はそそり所。
精進料理なので殺生して得る肉や魚は一切使わず、自然から採れた菜や葉、実やキノコなどなど。
肉や魚好きの方には物足りないかもしれないが、山の中は具材が豊富。そうして出来た料理もなかなか!
一番食べてみたいのは、お湯やお酒で蒸して菜を添えたタケノコ。
それをお焦げ付きの白い炊きたてご飯で食べたら、堪らんだろうね~。あ~、お腹空いてきた…。
じっくり漬けた糠味噌。
梅干しの酸っぱさ、後から来るほんのりの甘さに泣く。
どれもこれも素朴で質素。が、バカになる美味しさ。
この地で育まれたもの、採れたものを食べる。
土を香り、土を味わい、土を食う。
人や外界との関係を断ち切り、仙人のように暮らす…って訳ではない。
執筆の仕事をしている。
電話などの連絡手段もある。
人との交流もある。
そんな彼の下をちょくちょく訪ねて来るのが、担当編集者の真知子。年の離れた恋人でもある。
ツトムの作った精進料理を美味しそうに食べる真知子。
彼女に料理を振る舞うのが、ツトムの何よりの楽しみ。
大人同士の変わらぬ落ち着いた関係であったが、ある時ツトムが提案する。「ここで一緒に暮らさないか?」。
二人の関係に変化が起きる出来事が…。
13年前に亡くなった妻の遺骨をずっと収められずにいる。
ツトムと同じく自然の中で暮らし、妻の亡き後もお世話になっていた義母が突然死去。一通りの事終わった後、義妹夫婦から遺骨を押し付けられる。
ツトムにも突然の病が…。心筋梗塞で倒れる。訪ねて来た真知子が見つけ、大事には至らなかったが、数日生死をさ迷う。
山奥の初老の男の一人暮らし。自由気ままに見えて、もし本当に“その時”が来たら…。
返答せずにいた真知子だったが、一緒に暮らす事を決める。
ところが、ツトムの方にも心境の変化。
死とは…?
生とは…?
沖縄を舞台にした作品が多い中江裕司監督の珍しい“本州映画”。舞台地もさながら内容も含めて、新境地と言えよう。
『飢餓海峡』などで知られる水上勉のエッセイが原案。幼い頃禅寺で学んだ事や晩年軽井沢(作品では長野に変更)の山荘で暮らした事、精進料理の数々など、ほぼ実体験。
担当編集者との関係は脚色であろう。何かちょっと取って付けたような感を受けた。
幾ら心境の変化があったとは言え、自分から一緒に暮らそうと言っときながら、心配して受け入れた彼女を申し出を断って、いやいや言い出しっぺは自分やないか~い!…と突っ込まずにはいられず。そりゃあちと関係が冷めて、別の人と結婚すると言われても仕方ない。
キネマ旬報や毎日映画コンクールで主演男優賞を受賞した沢田研二。確かに味わい深い抑えた好演だったが、そこまで秀でたものあったかな…? 個人的には昨年の主演男優賞なら、『さがす』の佐藤二朗、『流浪の月』の松坂桃李、『死刑にいたる病』の阿部サダヲ辺りを推したい。
松たか子も好演魅せるが、本来の実力存分に発揮…とまでは感じなかった。
出番僅かながら印象残したのは、これが遺作になった奈良岡朋子と愛犬“さんしょう”の賢さと可愛らしさ。
食べて、マイペースに生きて、単なる癒しムービーに非ず。
生死の境をさ迷って、今改めて向き合う。
やはり死は怖い。
どうしたら死と共に生きられるか…。
一度“死んでみる”。
ちょっと突飛な発想だが、全ての雑念を捨てて。ここら辺、禅寺で学んだ経験が活かされたと言えよう。
死から目覚める。
その時の陽光の温かさ。自然の美しさ。食べ物の美味しさ。
これが、“生きている”という事か。
妻や義母の遺骨を収められなかったのも、死に対して“抵抗”があったからであろう。ラストシーン、遺骨を収めた。死を受け入れたと感じた。
生があるから死があり、死があるから生がある。
当たり前の事だが、忙殺する日々に追われ、つい忘れがち。
明日もまたその次の日も…と思うから、しんどく面倒。
今日一日を全うする。
この台詞は染みた。
私も明日も明後日も仕事…と思うから先が重くなる。その日一日を無事終えて。
その積み重ねが、生きていくという事。
一日一日を。
食べて、生きて、全うして。
近代さんの素敵なレビュー♪
そのシーンのすべてを思い出させてもらいながら、味わいも深く、気づきも更に新たにされて読ませて頂きました、でもお腹鳴りました(笑)
禅のこころ
手前頂戴いたしました
合掌。