「美味しそうなお料理と日々の移ろいを眺める時間。」土を喰らう十二ヵ月 ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
美味しそうなお料理と日々の移ろいを眺める時間。
作家をしながら山中の家で身の回りで採ったものをいまだく、自給自足に近い生活を送るツトムさん。
冷蔵庫はないみたいだからお野菜は漬けるし、ご飯は釜で焚き火で炊くし、季節ごとに収穫できるものをシンプルに調理して食べる。
幼いときに修行したという京都のお寺での経験やお父様の教えを実践するツトムさんが素敵だった。
土井善晴さんが監修されているという、シンプルながらとても美味しそうな料理(釜炊きごはん、お芋のいろり焼き、山菜、たけのこ、梅干し、ゆず味噌大根など)も素敵だったなあ。
しかし通夜振る舞いをある食材のみでメニューから組み立て、ほぼ自分で作るツトムさんがすごすぎる…(参列した地元のおば様方のウケもばっちり)。
食材はほとんどスーパーマーケットで購入する私たちは忘れがちな気がするけど、食べ物はすべて元々生きていたものたちで、植物には旬がある。
自分で収穫したものを、丁寧に向き合いながら調理し、いただくこと。
料理に限らず、例えばお掃除だって、自分の手で床を掃き清めたり、雑巾がけしたりすることは、その対象に向き合う、ということだ。
そしてそのように食べるものや暮らしの上で接するものに時間をかけて向き合いながら生きることが、いわゆる「丁寧に生きる(暮らす)」ということなんだろうなあと、本作を観ながら思っていた。
(とりあえずほうれん草の根っこはこれまでのように切り落とさないで調理してみようと思う…)
「効率的」とか「便利」はそれも確かに豊かな暮らしに不可欠だし、正直今さら文明の利器は手放せない。
ただそうだとしても、「目の前のものに向き合おうとすること、知ろうとすること」は放棄はしないでいたいなあ、としみじみ思いながらスクリーンの中でゆっくり進んでいくツトムさんの生活や山の景色を眺めていた。
良い時間だった。
少し残念だったのがストーリー。
特にこの作品においての真知子さんという存在はいったい何だったのだろうと個人的には腑に落ちてない(松たか子さんは素敵だったのだけど)。
あとツトムさんの義弟夫婦の感じの悪さと残念っぷり(最初から最後まで良いところ一個もなかったぞ…)もこの作品に果たして必要だったのか…?と少し疑問。
個人的な感想としては、本作に関しては起伏のドラマなんていらないから、ツトムさんの訥々と語られるモノローグや、日々の心のゆらぎ、地元の人たち(ツトムさんの師匠の火野正平さん、素敵だ…)とのやり取り、山の風景やお料理の様子のみに焦点を当てて走り抜けて欲しかった気がしなくもない(原作?原案は未読なので原作に沿ったものなのかもしれないけど)。