「毎日がBrand new day」君が落とした青空 TF.movさんの映画レビュー(感想・評価)
毎日がBrand new day
本作の主題は何だろうか。それはおそらく消費されていく日々の尊さ、2度とは来ない今日という日への慈しみ、このようなところだろう。ストーリーラインはあくまでタイムループという非現実的なものだが、それを通じて「同じような毎日」は「異なる1日」なのだということを伝える。それを成立させるための大義名分として、主人公・実結が彼氏の修弥を助けるためにタイムループをするのだという最もらしい口実が添えられる。しかし、本作における主題はそういったファンタジーよりも、もっと現実的なものだ。現代において散見される、まるでタイムループのような日常へのアンチテーゼであり、気づきなのである。その実現のためには、現実から離れる必要があった、ということだろう。問題となる事柄の中に居ては気づけないことというのは多くある。子供の成長は身近な家族よりも、たまに会う遠い親戚の方がよく気づくのだ。まさに本作がSF的な切り口で現実的なテーマを扱ったのは、そういった意図があったのだろう。
私が本作において感心したのは、内容の徹底的な削ぎ落としである。上映時間自体90分程度と比較的短く、それでいてかなり大きな主題と、SFという説明の必要性があるはずの内容を扱っている。本来ならば多くの語りによって、上映時間は長引き、内容も複雑化するはずだ。しかし、本作は違った。主題に関係のないことは省く。ストーリーラインに不要な要素は削る。その作業が徹底して行われていたのだ。例えば、タイムループの原理や理由、時間軸の非整合性(タイムループは実結の夢?だったということ?)、またあらゆる人間関係、そういったものは省かれている。タイムループについては、例えば、時計に雷が落ちるとちょうど12時間前に戻るのはなぜか。また、11月2日が訪れた時点で、病院にいる原因となったのはタイムループ以前の一番最初の事故であり、つまりタイムループによって修弥が助けられた訳ではないということか。登場人物については、主人公である実結の父親は登場しないし、学校における友人も、ストーリーの進行上必要最低限だけ登場する。このような省く判断が、英断であったと私は考える。余計な要素がないということは、観客が余計なことを考える必要がないということであり、理解しやすくストーリーに集中しやすいのだ。裏を返せば、深みが無いだとか、発展性に欠けるだとか言えるのだろうが、物語終盤に主題を鮮烈に表象していたことから、製作者側の意図としては主題さえ伝われば十分だったということなのだろう。そういった意味で、本作の削ぎ落とし作戦は成功を収めたといって良い。
ただ、私は色々と考えたい性分だから、少し薄味だったようにも思う。上記のような疑問を、どうしても解決したくなる。しかし、正解はどこにもないから、考えても無駄なのだ。また、本作が感動作であったかというと、微妙である。上手くいくか失敗するかの御涙頂戴演出はなく、当然コケることはなかったが、一方で涙が誘われる瞬間もなかった。良くも悪くもあっさりとした作品なのだ。