劇場公開日 2021年12月24日

「〝謎〟として浮上する自民党政治」香川1区 taroさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0〝謎〟として浮上する自民党政治

2022年2月11日
PCから投稿

映画評論家の町山智浩氏はYouTubeの番組で、大島監督は小川淳也氏ではなく、〝日本の政治〟を体現している自民党陣営(平井氏)を主人公にすべきであったと述べていた。確かに、そうした映画ならば、日本社会に根付いた価値観や日本人の思考様式までも炙り出したであろう。しかし、小川氏を主人公にしたからこそ見えてきたものもある。

理想を抱き、それを実現するために政治信条を熱く有権者に訴える小川氏は公民の教科書通りの政治家である。観客には小川氏だけでなく、家族や支援者含め、すべてが見えているし、彼・彼女たちの言葉はとても理解しやすく共感できる。一方では平井陣営は見えない。見せない。しかし、香川県知事、高松市長、威圧的な市民、小豆島の多くの有権者までが平井氏を支持している。なぜなのか?本来日本社会に根付いた価値観を体現しているはずの自民党政治が奇妙で得体のしれない現象に見えてくる。

図式的に言えば、目指す社会像を語る小川氏が〝理想〟で、道路や公共施設を造った実績を訴える平井氏が〝現実〟なのだろう。しかし、〝理想〟よりも身近であるはずの〝現実〟が奇妙で不気味なものに見えてくるのである。これは、小川氏を主人公にしたからこそ表現できた事である。つまり、自民党政治が、もはや日本の現実に根差してはいない事を炙り出すのである。

香川1区では自民党は負けたが、全国的には自民党がまだまだ強い。日本の現実から乖離し始めた自民党がなぜ依然として強いのか。そこは、やはり謎である。しかし、自民党政治の強さを謎として、つまり奇妙で不気味な現象として浮上させた事に、この映画の功績の一つがあると思う。

私たちは、奇妙で不気味な現象(〝現実〟)の中を生きている。その現象を凝視する事も重要だが、その現象から抜け出す道は存在すると信じられる事(〝理想〟)は、もっと重要だろう。小川氏の勝利は、そしてこの映画は、その力になってくれる。

taro