「正直者がバカを見る社会」香川1区 yoneさんの映画レビュー(感想・評価)
正直者がバカを見る社会
実質的に「なぜ君は総理大臣になれないのか」の続編、と言って良い作品。
衆議院議員の小川淳也氏を中心に、2021年の香川1区の衆議院選挙の顛末を辿ったドキュメンタリー。
「なぜ君」は18年間という長い期間だったが、この作品は2021年の夏から約5ヶ月間の短い期間を扱った作品となっている。
結果だけ先に言うと、小川氏は自民党の平井卓也氏や維新の町川順子氏を抑えて、香川1区でトップ当選を果たした。「なぜ君」の影響もあったのだろう。小川氏の事務所は、多くのボランティアの方々に支えられており、まさに「選挙という祭り」の熱気に包まれていた。自民党の平井氏とは対照的に。
印象に残ったシーンがいくつもあった。
まず、「自民党党員の撮影妨害」。
香川1区のクルーが平井氏の選挙演説を撮影をしようとしたとき、自民党員が撮影の妨害をしたシーンだ。
これは、本当に現在の自民党の体質を見事に表していたように思う。まず「警察」という国家権力で脅し、それが通用しないとわかると嫌がらせをする。要するに「パワハラ」だ。自分達がパワーを持っている、と当たり前のように考えている。それが長年の体質として身についている。まさに「自民党」である。
岸田総理が応援演説で香川を訪れた際に、「報道ではないから」という勝手な理由で映画クルーを会場に入れなかったおじさんにも通底している態度だ。
多くの日本人が自民党を支持し、変えたくないと固辞しているのが、この「パワハラ体質」だとも言える。女性蔑視にも通じる。選択的夫婦別姓などが認められない土壌でもある。
そして、「小川氏が勝利した際の娘さんの演説」。
これはまず内容が感動的。「自分が社会に出た時に、正直者がバカを見る社会であることを覚悟していた」という言葉。
しかし、この言葉を20代前半の若者が発しているという事実。本当に悲しく、そして情けなく感じてしまう。若者が選挙に興味を持てないのも当然だ。
香川1区は例外として、今回の2021年の衆議院選挙は自民党の勝利と言って良い。私はさすがにもっと議席を失うと思っていた。森友・加計や桜を見る問題を筆頭に、アベノマスクなどのコロナ対応含めて、安倍・菅政権の酷さは目に余る。安倍などは国会で118回も嘘をつき続けた。しかし、こんな政権(党)を日本人は支持しているわけだ。
これは、「どんなウソつきのクズでも、自分に利益さえ運んでくれた良い」と言っているのに等しい。だからこそ、小川氏の娘さんもこういう発言をしたわけだ。正直者がバカを見る社会だ。
自分は現在46歳だが、仕事を通してこの価値観に触れることが多々ある。
正直かどうかではなく、ウソをついてでも「儲かれば良い」という価値観。
私はそれでも「正直でいよう」と覚悟しているが、その代償として出世は諦めている。そんな社会だ。この娘さんの気持ちは痛いほどわかる。
他にも印象的なシーンはたくさんあったが、この2つが私の中ではダントツで記憶に焼きついた。
小川氏は今回の選挙で勝利した。おそらく長く香川1区で勝ち続けるだろう。
しかし、これはあくまで香川1区だけの話で、他県では平井氏のような自民党議員がまだ圧倒的に強い。
この作品に出た自民党を支持していたおばちゃんは、自民党以外は考えられない、と平気で言っていた。それが地方(田舎)の現実でもある。
本当に「自分の頭で考えろ」と言いたいが・・。もっと単純に「ウソをつく議員がいる政党」と「ウソをつかない議員がいる政党」のどっちが良い?という選び方でも良い。答えは明白だと思うのだが。
今回、香川では正直者が勝った。
おそらく、他県でも小川氏のような年代で正直・誠実な人が立候補すれば当選する可能性はある。
しかし、若いと言われている小川氏ですら、議員経験は20年近くある。他県にそんな人材がゴロゴロといるのだろうか?
小川氏の勝利は本当に嬉しいが、社会の醜悪さ(正直者がバカを見る社会)がこの程度で揺らぐとは思えない。他県では、まだまだ平井氏が勝つ現実がある。もっとも、その「強い」と言われる構造は、この映画で指摘されていた、会社ぐるみで強制的に自民党に投票させている、ということに支えられているのかもしれないが。
今後どうなるか、2022年の参議院選挙がどうなるか、大島監督の次回作を楽しみにしながら、しっかり情報を集めて自分の頭で考えて投票できる準備を進めていきたいと思う。