劇場公開日 2021年12月24日

「ドキュメンタリーにしては余りにもドラマティック、圧倒的な実力で立ちはだかる宿敵に真正面から挑む国政選挙版『ロッキー2』」香川1区 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ドキュメンタリーにしては余りにもドラマティック、圧倒的な実力で立ちはだかる宿敵に真正面から挑む国政選挙版『ロッキー2』

2021年12月28日
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鑑賞方法:映画館

スマッシュヒットを記録した前作『なぜ君は総理大臣になれないのか』は同時期に公開された『新聞記者』、『はりぼて』といった社会派の作品とともにテレビで一切取り上げられないという圧倒的に不利な条件下であってもエンターテイメントとして全然勝負出来ることを示した傑作だったわけですが、その続編の本作は衆院選の日程も定まらない2021年6月から幕を開けます。前作でも語られていた50歳になったら一線から退くという前言にどう向き合うべきかを50歳の誕生日に自らに問う小川議員。僅か2000票ほどの得票数で敗れた反省から自身の支持層だけでなく自民党支持層の玄関先にも足を運び熱心に話を聞いて回る。名刺に手書きの言葉を添えて有権者に届けようとするもマンションの郵便受けがどこにあるか判らずウロウロ。地道にも程がある選挙活動に密着する中で明らかになるのは前回の選挙戦とは全く異なる香川1区の空気。前作では有権者から浴びせられる叱咤にも深々と頭を下げる様が痛々しかったですが、今回街行く人からかけられるのは野党に対する深い不信感をあからさまに滲ませながらも吐露される現政権に対する不満と暖かい声援。“本人”と書かれた旗をたなびかせながら自転車で選挙区を走り回る議員の姿は早朝のフィラデルフィアを駆けるロッキー・バルボアのよう。人が人を呼び静かに熱を帯びていく選挙運動の様子を眺めているだけでまだ衆院選の告示も始まっていないのに涙が溢れてきました。一方宿敵である平井卓也議員も序盤では監督のインタビューも受ける余裕を見せるが、デジタル庁立ち上げで忙殺される中で次々と明らかになる醜聞に振り回されて地元に帰る暇もない苛立ちをしっかり滲ませる。そして想定外だったのが維新から送り込まれた刺客、町川候補の出馬表明。なりふり構わず維新に乗り込み出馬を止めるよう直訴する姿が維新の音喜多議員のツイートで拡散されて激しいバッシングに晒される小川議員。身内のメディアである四国新聞と西日本放送の情報発信力を総動員して小川陣営批判を展開する平井議員・・・ドキュメンタリーであることを忘れてしまうほどのドラマティックな展開がとにかく圧巻です。

本作は小川陣営を一方的に応援しているわけではなく、3つの陣営それぞれの立場にいる人達の言葉にも耳を傾ける。そこから見えてくるのはどこまでも分厚い人間ドラマ。傍目には腐敗し切っているようにしか見えない自民党を熱烈に支持し続ける保守層もそんな風潮に疑問を感じ始めている人達もごく普通の生活を営んでいて、そこに何が必要かが1票1票に結びついている。そういうところも丁寧に拾っているところに香川1区でまさに起こっていることを出来る限り記録しようという愚直なまでの執着が見えます。そんな執着がついに捉えるある事実を突然突きつける終盤にもギョッとします。

リアルタイムで聞きかじっていた選挙戦の舞台裏をわずか2ヶ月足らずしか経っていない今映画として観ているというかつてない画期的な体験をしていることに興奮しますが、本作の一番の肝は議員の次女のスピーチに集約されていて、その虚飾の欠片もないまっすぐな言葉に魂が震えました。大傑作です。

ちなみにまだ先行上映の期間ゆえ上映館が少ないですが、ヒューマントラストシネマ有楽町で鑑賞すると他のスクリーンでは得られないカタルシスが得られることを申し添えておきます。

よね
よねさんのコメント
2022年1月23日

それは”話”ではなく質問ですねという意味でお尋ねしたのですが伝わらなかったようですね。こちらこそ申し訳ありません。

よね
Route193さんのコメント
2022年1月23日

私は違和感を感じたので指摘してしまいましたが、2019年と2020年では同時期だ、と感じる人がいたとしたら、それは細かい話なのかなと思ったからです。
どこが細かいのかと逆に質問されるとは思いませんでした。
本筋と違うことにこだわって申し訳ないです。

Route193
よねさんのコメント
2022年1月23日

それのどこが細かい話なのですか?

よね
Route193さんのコメント
2022年1月23日

細かい話ですみませんが、「新聞記者」はiも含めて2019年、「はりぼて」「なぜ君は〜」は2020年です。

Route193