劇場公開日 2021年12月24日

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「完璧でも普通でも無くなってしまった家庭に馴染めない多感な少女がガンガン壁にぶち当たる様を温かく見守るささやかな物語」パーフェクト・ノーマル・ファミリー よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0完璧でも普通でも無くなってしまった家庭に馴染めない多感な少女がガンガン壁にぶち当たる様を温かく見守るささやかな物語

2021年12月27日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

デンマーク郊外に両親と姉カロリーネと暮らす11歳のエマは父トマスの影響で物心ついた頃からサッカーが大好きな女の子。ある日突然母エレから離婚を告げられる。理由はトマスが女性になりたいから。タイで性転換手術を受けてトマスからアウネーテとなって帰ってきた父をすんなりと受け入れるカロリーネに対してエマはそれがなかなか出来ずに葛藤する。

これが長編映画デビュー作だという監督のマルー・ライマン監督自身が11歳の時に父が女性になったという実体験を基にした物語だというところにまず驚くわけですが、本作の舞台となっている20世紀末のデンマークに生きる大人達がトマスがアウネーテになったという事実を当たり前のように受け入れているということもシレッと描写されていることにもビックリ、ここから20年も未来に生きている我々が果たしてこんな多様性を獲得しているのかという疑問がドンと突きつけられます。アウネーテやヘレ、アウネーテの父といった人達の苦悩や狼狽も描かれてはいますがそれはあくまでエマ目線でチラリと見えたものだけで、物語の核にいるのはあくまで子供達。男性が突然女性になるというヘンテコな現実に単刀直入極まりない疑問を浴びせる無邪気さと残酷さに晒されてグラングランに揺さぶられるエマの心情に寄り添うように時折挿入される幼い頃のビデオ映像を眺めながら、大人から見ると未来しかないように見える子供達にとって何よりも大事なのは思い出なのだということを思い知らされます。そんな思い出を大切にしながらも新しい現実も受け入れていくことが人として成長することであることはカロリーネの凛とした姿を通じて表現されていて、そんなカロリーネが拘るのが15歳になる際にキリスト教への更なる信仰を誓う儀式である堅信式。そこには大人になりたいという願望と焦燥が滲んでいて、それを見透かしたかのようにエマがアウネーテの伴奏で歌う姉に捧げる替え歌が実にキュートでニヤニヤしてしまいます。サッカーの試合でもさりげない毎日でもガンガンに他人とも家族ともぶつかり続けるエマが最後に手にするものはささやかなものですが、それは頑張っている大人から子供への贈りもの。大人の理屈を子供に押し付けるのではなく自分で答えを見つけるまで温かく見守る包容力が子供時代に体験して得たものを大事にする環境を作る、そんな国民性を見せつけられた気がしました。

普通であることや完璧であることは重要ではない、誰に遠慮するでもなく自分が自分らしくいられる場所こそが家庭であるべき、それをさりげなく思い知らされる愛すべき作品です。

よね