劇場公開日 2021年11月19日

「ゾクリとする肌合いの心理劇」パワー・オブ・ザ・ドッグ コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ゾクリとする肌合いの心理劇

2022年3月20日
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鑑賞方法:映画館

知的

1 牧場主である兄弟と弟の妻、そしてその連れ子が絡み合い織り成す心理のあやを描いた人間ドラマ。

2 物語の前段は、冬場のモンタナでの人物紹介と状況設定に費やされる。カウボーイや使用人を抱え、牧場経営が順調な兄弟。牧場を始めたときの師匠のやり方を踏襲している兄は、動的で粗野。弟は静的で繊細。そんな二人が、支え合って生活する母子と知り合う。健気な母と中性的な子。弟は母を妻に迎え子を進学させる。兄は母子とは生理的に合わない。母子もそう。気配を感じるだけで、イライラや不安感が増していく。

3季節が夏になり、医学生となった子が牧場に遊びに来る。そこから物語は動き出す。焦点となるのは2つの関係性。一つは兄と医学生と師匠の関係。偶然にも兄は医学生に秘密を見られてしまう。また、兄は山の見え方を通して、自分と師匠と医学生に感性の同一性を感じる。兄は師匠から教えてもらったように医学生に乗馬を教える。師弟愛は同性愛に通じる。そして教育指導の過程はいわば自分好みに仕立てる調教を感じさせる。
 もう一つは兄と弟の妻と医学生の関係性。
医学生を巡りどちらが排除されるのかの心理戦が起こる。そして、医学生がとった行動とその結末は・・・。

4 本作は前段での道具立てを理路整然とおこない、後段の筋立ての面白さが群を抜いている。カンピオンは、ゾクリとする肌合いの心理劇を作り上げた。重低音の弦の響き、櫛の歯を爪弾く音、カメラワークなどによる不安感の醸成の仕方や結末に至るまでの畳み掛け、そして余韻を残す終局と脚本と演出に冴えをみせた。

5  カンバーバッチは本来はインテリでありながら師匠の影に囚われ男らしさを追い求めてしまうある意味悲運な人を演じた。そして医学生役の人はミステリアスな人物像を演じ印象を残した。

コショワイ