ある男のレビュー・感想・評価
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育った環境で人生が決まってしまう、現実は小説よりも奇なりといったと...
育った環境で人生が決まってしまう、現実は小説よりも奇なりといったところか。
なんといっても妻夫木聡、普通もしくはいわゆる勝ち組なのにいちばん闇深めをやらせたら私の中ではいちばん。《愚行録》の記者役で衝撃を受けたが、今回も同じ監督でさらに闇深めでゾクゾクした。
安藤サクラは、幸薄めを自然に演じることのできる数少ない俳優ではないかな。
窪田正孝は、正統派な憑依型みたいな印象。笑顔よりシリアスな役が似合う。
柄本明、小籔千豊、でんでん、山口美也子など脇を固めるクセ強めな俳優もなかなかよかった。
ラストシーンに『え?!』ってなる。いい意味でモヤモヤ~
原作があるみたいだから、読んでみよう
「生きるのが辛い」人の心情は想像するしかない。
戸籍交換で違う人間として生きるのは、ミステリー小説などではよくある話である。しかしそれは普通、犯罪を犯すなどして身分を知られないようにするためである。本人は何も悪いことをしていないのに、違う人間になって生きなければならなかった男の苦悩を描いたのがこの作品である。
主人公(大祐)の気持ちは他人には分からない。死刑囚の息子として世間から迫害を受けたというような事は特に描かれていないので、むしろ(大祐)の内面の問題のように思う。鏡に映った自分の顔に父親を見て恐怖するのはその象徴だろう。自分で自分が許せなくて、ボクサーになって自分を痛めつける、これも彼の内面の問題だ。辿り着いた結論が「他人になって生きる」事だったとしても、映画を見る者はそのまま受け入れるしかない。
(大祐)の正体を探る城戸は、作品の中で大きな役割を負っている。自分の生い立ちと境遇に重ね合わせて(大祐)の気持ちを次第に深く理解していくように思われる。しかし、いろいろな事があり過ぎて彼の心情は伝わりにくかったように思う。
城戸の事も面白いが、作品の中心は(大祐)と里枝の愛情物語であろう。里枝が(大祐)が別人である事を知ったショックは計り知れない。しかし彼の素性を知った感想は「知っても何も変わらない」というような感じである。ここには、身にまとっているものに関わらない「真実の愛情」のようなものを感じさせる。生きるのに辛さを抱えている二人だから実現できた愛情を、窪田正孝と安藤サクラが見事に演じ切っていた作品でした。
重たい。けれど面白かった。
オープニングは、どこかの店らしき壁にかかっている、むこうを向いたふたりの男の写真?絵?のアップから始まる。そしてちゃんとエンディングにつながる。(なんと!)
まず言いたいのは、俳優陣。「すごっ」 のひとこと。妻夫木さん(聡)、安藤さん(サクラ)、窪田さん(正孝)、柄本さん(明)、清野さん(菜名)、真木さん(よう子)。安心して観られるにもほどがある。でんでんさん、きたろうさんもあちこちで観るな。こんな役にまで・・と、仲野さん(太賀)、河合さん(優実)! 小藪さん(千豊)で正直ホッとしてたよ(笑)
そしてその陣営だからこそ支えることができた、重たい重たいテーマだと思う。人はなぜ、「個人に責任のないこと」 にまで手を広げて、自分との違いを探し、区別(差別)しようとするのか。誰が両親か然り、生まれた国しかり。
いやあ、字にするだけでも重たい話。そして民主主義の中で、何よりも大切な観点。「みんな、違う」 は大切な基本的な考え方。思想が違う、信条が違う、宗教が違う。それは、それぞれ区別され、かつ多勢いようが少数しかいなかろうが、同等に尊重される。しかしそ 「個人に責任のないこと」 は、そもそも区別されるべきですらない。「あなたは殺人者の息子なのか」という言葉は、発せられるべきではない。そのことは、生まれてきた子供には責任のないことなのだから。
民主主義の教科書があったとしたら、最初の頁に書いてあるだろう。日本では民主主義教育は十分に行われないので、この年齢になった俺が、映画をみて学んでいるのが実情だ。
…などと固いことを言う映画ではないかもしれない。でも、この映画をみて、みんなが少しでも考えたら、またひとつこの国もよくなる、そんな感じ。
謎解きみたいで、ずっと見続けていられる映画。すばらしかったです。
----- ここからはネタバレ含んでいるかもしれません。観ていない方はお気をつけて -----
「息子」 は 「父」 の汚名を着たままずっと生きていなければならないのか。さらに広げて、在日3世になっても、なぜ外国人、韓国人と言われるのか。この国ではどうして 「普通」 と 「普通でない」 を区別したがるのか。たまたま「多数」でしかないものを、なぜ「普通」と呼ぶのか。人を 「個」 として見るのが苦手で、「どこかの集団の要素」 とみてしまいがちなのか? 国は違っても、人は同じ。だから本来「国」 という境目は不要なはず。俺たち人間にはなにかの限界があって、必要悪としての 「国」 という境目がまだ必要というだけであろうに。
一例をあげれば、「部落出身者かどうかを気にする」 ・・・いったい、いつの話を気にしているのですか? 「自分と人は違う」 という自覚は大切だし、その基準は多岐に渡るでしょうが、少なくともそれって意味がなくないですか?
今日は、よけいなことまで書いてしまった気がする。それだけ本作が提供している論点は深く重いのだろう。
----- ここまではネタバレ含んでいるかもしれません。観ていない方はお気をつけて -----
2023/7/15、近大さんのレビューを読んで、追記。
多数派である集団の安定を重視するか、少数派の個人の権利を重視するか、というのが政治の一つの軸だと思いますが、これまでの日本はかなり前者に偏っていると思います。だから、少数派に対して「普通じゃない」とか「変わっている」とか言いがち。それが、差別や偏見の原点。単なる多数派を「普通」と言う癖をなくさないと、少数派を「異常」と勘違いしてしまう愚かさから、脱却できませんよね。
そんなことを考えさせてくれる映画でした。
面白いやないか~ぃ
タイトルなし(ネタバレ)
【良かった点】
邦画ではなかなか見れない重厚なストーリーに酔いしれた。顔のない男を、アイデンティティのない存在として描き、それを親が死刑囚の男、在日というレッテルから逃れられない男など、ある男が複数出てくることで今日の日本の生きづらさを繊細に表現していた。
【良くなかった点】
中学生の息子が達観しすぎていて若干違和感を感じてしまった。今の子はあんなに大人びるのがはやいのか……。
率直に面白かった。
噓と真実と心の拠りどころ
愛した人が事故死して初めて、全く別人に成りすましていたことが分かり、では一体誰なのか、弁護士に調査を依頼する話。
確かにあったと信じていたものが、ある日突然ひどく頼りないものに変わってしまいます。
安藤サクラさん、窪田正孝さん、妻夫木聡さんの安定の演技で、重厚な作品となっていました。
ちょっと違和感があった所。
・大祐が「家庭がありますもんね」と問いかけ、里枝が「家庭はないですよ。離婚したから」というセリフ。息子も母親もいるのだから「夫はいないですよ」と答えるべきです。家庭は夫婦が築くもの、という思い込みがあるんじゃないでしょうか。
・城戸の妻の父親の差別発言も極端ですが、小見浦が、「在日(朝鮮人)は見ればすぐわかる」と言うセリフ。そうとは限らないし、それを殊更強調する必要があるんでしょうか。
・親子の画風が似るとしたら、子供が親の真似をするからで、遺伝はしません。
でも、夫(息子にとっては父親)の愛情は真実だったと確信して、自分たちは強く生きていけると思う結末は素敵でした。
一方で、親身になって調査した城戸は妻の裏切りにあう(でも前から気付いていた)というのは皮肉なラストですが、仕事に生きがいを感じられるなら、そういう生き方もあるかもしれません。この人生は手放したくない、でも、ちょっと他人になってみる。なるほど。
疎外感。
「殺人犯の息子」と「在日」。自分ではどうすることもできない生まれによるいわれなき差別。
世間はその人個人を見ようとはせず、その素性だけでその人を見てしまう。そんな世間で生きづらさを感じて生きてきた両者。
一方は戸籍を変えて全くの別人として生きようとした。一方は帰化をして日本社会に溶け込もうとした。
戸籍を変えた男は事故で命を落としたのをきっかけに別人に成りすましていた事実が明るみになる。
帰化した男は、社会的地位と家庭を手に入れて一見何ら問題がないように見えた。しかし彼は常にこの社会で疎外感を感じている。
たとえ全てを手に入れて、帰化までして日本社会に溶け込んでも己のルーツを否定することは出来ない。どこへ行ってもそれは自分にまとわりついてくる。「殺人犯の息子」としてその偏見のなかで生きてきた男の姿が自身とかぶる。
真実を知った妻はたとえ夫の名前が別人であろうとも自分が愛した男には違いがないと言う。戸籍を変えた男はほんの束の間ではあったが自身の人生を全うすることが出来た。
作品ラストで別人に成りすます城戸の姿。この社会では常に疎外感がまとわりつく彼にとって、自分ではない全く違う誰かを演じることでしか、この社会の偏見から逃れるすべはないのかもしれない。ほんの束の間の安らぎを得る唯一の方法として。
戸籍は偽りでも真実の愛があった
他者の人生を歩む理由は……
亡くなった夫の葬儀の為に親類を呼んだら別人であることが判明し、戸籍などの手続きの為に弁護士に真相の究明を依頼するが――
他者の名前を騙り、自分を知らない土地で職をえて、家族を持ち暮らした彼の過去に迫る中で
明らかになる事実。
人は自らの生まれ、という呪縛から解き放たれることはできないのか、いろいろと考えさせられる。
それで幸せになれるならそれもまた人生か?
その人の後ろではなく、その人を見るという事
退屈させない重厚感
悪くはないけど…
魂の救済
原作を読んだ時に感じた虚無感より、過酷な運命から逃げてきた「ある男」が最期に過ごした日々の温かさの方に心が満たされました。義父の出生の秘密を知った長男と安藤サクラさんのシーン、窪田正孝さんの山中での幻想的なラストショット、良かったです。
どんな人生も救われる希望があるのだと信じたいなあ。という感想です。
さて、妻夫木聡さん演じる主人公は、分人と化した自分との折り合いをいかに付けて生きてゆくのか。現代に生きる私たちの誰しもが抱える闇とともに、謎が解けないままに映画は終わっています。
救済への鍵は、ひとりひとりに委ねられているという平野啓一郎原作作品らしい突き放したラストでした。
ルネ・マグリットの不思議な絵の魅力も加わって、印象的な作品となりました。本年度邦画no.1かな。
素晴らしい!
怖い
ストーリーの骨子は哲学的なもので、人は「遺伝的に自己を形成するのか」もしくは「環境の中で自己を形成するのか」を比べ合うようなものでした。結局の所「どちらかを分ける事なんて出来やしない」と答えが出ているのにそれを下敷きにダラダラとしていました。ブレードランナーやフランケンシュタイン、攻殻機動隊の焼き直しにもなっていませんでした。
戸籍の改ざんについて、少年以外には誰も迷惑していないし(名字を変えるのが面倒)皆それ相応に現状に満足してうけいれていました。
そもそも戸籍の改ざんに問題があるとするならば、すでに国家権力動いているはずです。
まあ、それだと映画にならないのでしかたがないと思います。
映画としては、しっかりとまとまっていて、あまり退屈はしませんでした。音楽が少なかったので、役者さんの力量頼るところが多分にありました。特に主軸の3方は素晴らしかったです。ただ、脇役の方々も良い役者さんばかりなので、高い次元で演技レベルが集まりすぎていて全体が薄まっていたように感じました。
あと、妻夫木さんのシーンはオレンジ系の明るい色味で、一方の窪田さんの方は淡いブルーの色調撮られていた思えたのは気のせいでしょうか。
この映画ように簡単に戸籍を換える事ができたなら保険金殺人とか、偽装結婚等が頻発し(替え玉受験とかあるし)、社会混乱が起きると思うと怖くなりました平和な世の中でいてほしいですね。
あと泣けませんでした。
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