劇場公開日 2022年11月18日

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「窪田正孝という俳優は恐ろしい。」ある男 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5窪田正孝という俳優は恐ろしい。

2023年4月26日
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鑑賞方法:映画館

日本アカデミー賞受賞後の凱旋上映にて。

窪田正孝が父親と息子の二役を演じている。
基本的には内向的な役柄が得意な役者なのだと思うが、テレビドラマで彼を初めて見たとき、少年サイコキラーの役に戦慄したのを覚えている。柔和と狂気の両極端を演じきれる役者だ。本作では、そのカメレオンぶりが発揮されている。
鏡に写る自分を見て癇癪を起こすときの“顔の演技”には、本当に驚く。

主人公は、戸籍を偽っていた男の正体を調査する弁護士。
彼は、調査を進めるうちに迷宮へと入り込んでいくのだ。

田舎町に流れてきた男と再婚して女児をもうけたシングルマザーだった女。
父親になった男を慕っている、女の連れ子の少年。
戸籍を上塗り上塗りして、出自を完全に消し去ろうとした男。
男が別人であることに気づいた、アナクロな偏見の持ち主である温泉旅館の長男。
投獄されている戸籍ブローカー。
男と戸籍を交換した行方不明の温泉旅館の次男。
行方不明の男を想っている元恋人。
夫に隠し事がある弁護士の妻。
他にもユニークなキャラクターが主人公弁護士に心理的影響を及ぼしていく。
そして、人の存在において過去とは何か、愛した人の存在証明とは何か、自分と他人を別けるものは何か、様々な問いを投げつける珠玉のミステリー映画だ。

「私はいったい誰を愛したんでしょう…」

「仮に、Xさんと呼ぶことにします」

安藤サクラが、映画の冒頭で見せる涙のシーンで、いきなり物語の穴に引きずり込まれる。
間もなくして、窪田正孝が実に訳ありげに登場するのだ。
おずおずと、文具店店主=安藤サクラに交際を申し込む正体不明の男=窪田正孝。
弁護士=妻夫木聡の登場順は遅い。
キーマンとなるのは、獄中の男=柄本明。また、この映画も柄本明が支える。
刑務所の洞窟のような長い廊下はいったい何だろう。まるで、秘密基地に続く地下通路だ。面会室のデザインも奇抜だ。
この非現実的な刑務所の美術が、柄本明の怪演と、それに対峙して圧迫されていく妻夫木聡の心理を際立たせる。

調査を請け負ったイケメン弁護士に、レクター博士よろしく関西弁の柄本明がヒントを与えながら揺さぶる。
弁護士は、妻の父親、妻、自身のルーツなど、幾つもの葛藤を背負っているのだった。

徐々に明かされるX氏の生い立ちは熾烈なものだった。
弁護士はいつしか彼と同化していた様だ。そのことを我々は衝撃のラストシーンで知らされる。
映画のオープニングで写し出された一枚の絵がラストシーンの演出に用いられている。絵を見つめる妻夫木聡の後ろ姿が、絵と重なりあう見事な演出。

亡くなった継父の素性を聞かされた安藤サクラの息子(坂元愛登)が、父の実子である幼い妹に、自分がいつか話すと言う。
この兄が引き受けた役割は重く、いつか彼から事実を聞かされる妹のことを思うと、いたたまれない思いだ。

戸籍にまつわるサスペンスと言えば『砂の器』を思い出す。
空襲によって焼失した戸籍の再生制度を利用したカラクリを松本清張が発表してから60年弱、本作(原作は未読だが)では戸籍を売買する仲介人が登場する。
別人として生きたいと考える人は少なくないのかもしれない。
戸籍交換とまではいかなくても、誰も知らない土地でやり直せたら、とは思ったりする。
このレビューサイトでも、メッセージを何度か交換したレビュアーさんとは、お互いリアルには知らないのに友人気分になったりする。
全く素性を知らないから、互いの評価に邪推がないのが心地よい。
そんな、自分をゼロから評価してくれる人たちの中で人生をやり直せたら…どうだろう。

kazz
りかさんのコメント
2023年12月13日

こんばんは♪
コメントしていただきましてありがとうございました😊
どなたも、その場面場面での立場や役割、または相手に合わせていたり、で違った面が出るかと思います。私もです。ウルトラマンは地球🌏が好きでKazzさんもそのようにありたい、ということですね。それで万歳🙌🇯🇵🎉🎊
Kazz さんのお人柄がよくわかりましたよ。今後ともよろしくお願いいたします🤲

りか
りかさんのコメント
2023年12月13日

こんばんは♪
コメントありがとうございました😊ウルトラマン、失礼いたしました。書いてから、どうかな?と思いましたが、余裕で返してくださり、ありがとうございました😊
ウルトラマンにも家族がいますよ。ウルトラの星には、親族がいらっしゃるかと。
ものしりのKazzさんが何をおっしゃるのですか⁉️各場面で違うご自身は普通なんですよね、と聞きましたが。

りか
りかさんのコメント
2023年12月12日

↑お名前失礼いたしました。
Kazz さん。生真面目にお返事いただきまして、ありがとうございました😊
ウルトラマンとかに変われたら良かったですか。

りか
りかさんのコメント
2023年12月12日

こんばんは♪
ご丁寧にコメントしていただきましてありがとうございました😊
KAzzさんの真意がわからず、ということでしょうか。自分ならやり直したいと思っても周りはそのままの中でと思うからです。幼い頃は、外人のお人形さんみたいな金髪の女の子にへんし〜ん、とか夢見ていました。叶いませんでしたが。多分、多くの方々から注目されてのしんどさをお持ちかな、と勝手に解釈しておりました。

りか
りかさんのコメント
2023年12月9日

コメントいただきましてありがとうございました😊
ずーっとどうお返事しようか考えておりましたが、何とも。
そんなに知らない人のところに憧れられるのは、多くの方々に知られておられるからかな、と思いますが。ご多忙で。
でも、現実は、なかなかできないかと。   すみません。

りか
りかさんのコメント
2023年12月9日

こんにちは♪
共感していただきましてありがとうございました😊
私もレビュー最後の文に、
えっ⁉️、あらっ⁉️とドキドキ💓しました。
やり直さなくても良い人生だと
お察しいたします。私こそ、
やり直したいです🦁❤️‍🔥

りか
CBさんのコメント
2023年5月15日

たしかに。この映画の凄さは、窪田さん(正孝)はじめ俳優達が、全くスキのない布陣だってことだなあ、と思っています。

CB
kossyさんのコメント
2023年5月5日

コメントありがとうございます。
曾根崎に関しては、冗談の部分も含まれていますのであしからず・・・

kossy
humさんのコメント
2023年5月1日

共感ありがとうございます。
全く素性を知らないから。。。心地よい。
そうだなーと思いました。
そして、
そんな、自分わゼロから。。。どうだろう。
の一文にどきりとしました。

hum