「人とは」ある男 hiroさんの映画レビュー(感想・評価)
人とは
亡くなった男の素性が偽りであった事から始まる、人とは何なのかを問うヒューマンミステリー。
重いテーマの話ではあるが、物語の起承転結がはっきりとしているので観やすくなっている。
この作品では、「誰もがスタートラインは平等である」そんな綺麗事が言ってられない現実を突きつけてくる。親や環境など、生まれ持ったものが子供に与える影響は大きい。だが、それに子供は関与する事は出来ない。必死にその境遇で生き抜こうともがく。その先に今回の原と谷口がいたのではないか。
この問題は弁護士の城戸にも波及してくる。在日3世の彼は表には出さないが、苦労をしてきたのではないか。刑務所での「貴方は在日っぽくないですね。それはつまり在日っぽいということです。」という言葉。
一見何が言いたいのか分からないが、隠すのが上手いということではないかと思う。それはつまり隠さなければいけない感情があると言うことだ。
妻とのケンカの際に発した「何か落ち着く気がする」。この言葉には、彼の中に意識していない所で自分でも気付いていない感情が潜んでいる事を表している。
我々の関係を考えると双方の信頼によって、ともすれば、とても脆いシステムの上で成り立っていると感じされられる。相手が語ったエピソードがその人の人物像を作るが、それが本当かを確認するのは容易ではない。
城戸も不意に妻の浮気を知ってしまう。それまでの過程と合わさりラストの戸籍を交換したのではないかと匂わせるシーンに繋がっていく。
役者陣の演技も素晴らしい。2人の出会いの場面では、ほっこりするシーンが展開されるが、窪田正孝の時折見せる影のある表情がとても上手い。
脇を固めるのもでんでん、きたろう、柄本明ら名バイプレイヤー達。「PLAN75」での演技が記憶に新しい、河合優実も好演。
そして、眞島秀和の演技が素晴らしい。温泉旅館の跡取りとして、陽の当たるものを観る、最後まで日陰にあるものを観れない者として、演じきっていた。彼の存在で観客の立ち位置をハッキリとさせる事出来ていた。
物語が一段落したラストに観客に最後の問いかけがある。私達は誰の物語を観て、聴いていたのだろうか。